Economic Indicators 定例経済指標レポート

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Asia Trends
マクロ経済分析レポート
トルコ中銀、「Brexit」の行方を読み誤ったか・・・
~大統領周辺の圧力で利下げ継続も、金融市場の混乱リスクに懸念~
発表日:2016年6月24日(金)
第一生命経済研究所 経済調査部
担当 主席エコノミスト 西濵
徹(03-5221-4522)
(要旨)
 21日、トルコ中銀は4会合連続となる形で短期金利の上限に当たる翌日物貸付金利を引き下げる決定を行
った。4月に就任したチェティンカヤ新総裁の下で緩和色が強まっているが、これはエルドアン大統領周
辺からの圧力も影響しているとみられる。足下の景気は賃上げや移民流入に伴う内需拡大が景気を押し上
げる一方、外需や企業の設備投資は弱いなど見た目以上に厳しい状況にある。政府は構造改革を前進させ
る考えをみせるが、強権色やポピュリズム色を強める政権による政策の舵取りは不透明である。
 足下のインフレ率は原油安の長期化で低下しているが、依然としてコアインフレ率は高止まりが続くなど
インフレ圧力はくすぶる。特に、英国によるEU離脱決定を受けての国際金融市場の混乱により通貨リラ
安が進めば、輸入インフレ圧力が再燃する可能性もあり、リラ安に繋がる金融緩和には踏み切りにくい。
対外収支構造の脆弱性を抱えるなか、先行きは政策対応が一段と困難を増す事態も予想されよう。
《大統領周辺の圧力を受けて利下げを決定したが、今後は英国のEU離脱による市場の混乱が政策を困難にする懸念》
 21 日、トルコ中銀は定例の金融政策委員会を開催し、主要政策金利である1週間物レポ金利及び短期金利の
下 限 に 当 た る 翌 日 物 借 入 金 利 を そ れ ぞ れ 7.50 % 、
図 1 金融政策の推移
7.25%に据え置く一方、短期金利の上限に当たる翌日物
貸付金利を 50bp 引き下げて 9.00%とする決定を行った。
翌日物貸付金利の引き下げは4会合連続である上、過去
3会合については利下げ幅を 50bp としたことで累計
175bp と大幅な利下げを繰り返し実施するなど、緩和色
を強めている。同行においては今年4月にチェティンカ
ヤ副総裁が総裁に昇任し、新たな体制の下で業務が行わ
れているが、景気に対する不透明感がくすぶるなかでエ
ルドアン大統領周辺を中心に同行に対してさらなる利下
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
図 2 実質 GDP 成長率(前期比年率)の推移
げを求める圧力が強まっている模様である。今年1-3
月期の実質GDP成長率は前期比年率+3.05%と前期
(同+4.91%)から減速したものの、多くの新興国や資
源国が軒並み景気低迷に喘いでいるなかでは相対的に気
を吐いているようにみえる。特に、当期については原油
安の長期化を受けてインフレ率が低下基調を強めたこと
に加え、昨年 11 月の出直し選挙の際に与党公正発展党
(AKP)が選挙公約とした大幅な賃上げの実施で家計
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
部門の実質購買力が押し上げられる動きがみられた。さらに、隣国シリアからの大量の難民流入による消費拡
大も追い風に、元々旺盛な個人消費が堅調に拡大して景気を押し上げる動きに繋がった。しかしながら、一昨
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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年来の利下げにも拘らず依然として金利水準は高止まりしていること、輸出の4割以上を占めるEU経済を巡
る不透明感を受けて企業の設備投資意欲が減退している上、輸出は勢いに乏しいなかで旺盛な個人消費に伴う
輸入増が追い討ちを掛ける形で純輸出の成長率寄与度はマイナス基調を強めている。したがって、GDP成長
率の内訳をみると足下の状況は「良い内容」とは言いがたい。他方、政府は足下の景気について「力強い成長
軌道に乗っていることから、今後も構造改革を推進する」との考えをみせているものの、エルドアン大統領を
中心に強権色を強めている上、経済政策面ではポピュリズム色が強まっていることを勘案すると、本当に意味
で構造改革が進展するかは不透明と言えよう。
 なお、原油安の長期化を受けてインフレ率は年明け以降低下基調を強めているものの、直近のインフレ率は下
げ止まっている上、食料品やエネルギーなど物価が変動
図 3 インフレ率の推移
しやすい財を除いたコアインフレ率は高止まりしており、
必ずしもインフレ圧力が総じて後退している訳ではない。
その水準についても、中銀は今年のインフレ目標を5%
と設定しているものの、足下のインフレ率はこれを上回
っているほか、コアインフレ率に至っては目標の倍近く
の水準で推移している。新総裁の下で金融政策決定会合
はすでに3回実施されているが、そのすべての会合後に
発表された声明文において「足下では世界経済を巡るボ
ラティリティーは低下しており、金融市場を取り巻く環
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
図 4 リラ相場(対ユーロ、ドル)の推移
境も改善している」との考えを示すとともに、「こうし
た外部環境の改善を追い風に、昨年8月に決定したロー
ドマップに沿う形で緊縮的な金融政策とともに慎重なマ
クロ安定化政策の実現を通じて外的ショックに対する耐
性を高める」との考えをみせている。現時点においては
主要政策金利こそ引き下げておらず、その点で依然とし
て「引き締めスタンス」を維持しているとの姿勢を国内
外に示しているとみられる一方、大統領周辺からはさら
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
なる利下げを求める圧力が強まっていることを勘案すれば、今後も短期金利の上限を切り下げる動きが続く可
能性は残る。他方、このところは安定が続いてきた国際金融市場であるが、英国におけるEU(欧州連合)離
脱を巡る国民投票において「離脱派」が勝利したことで、金融市場は一転して大きく混乱する可能性が高まっ
ている。その場合、同国では通貨リラ安圧力が急速に強まることで輸入物価を通じてインフレ圧力が高まるこ
とが懸念されることから、中銀及び政府にとっては通貨安を招きかねないこれ以上の利下げに踏み切ることは
難しくなることが予想される。原油安の影響で経常赤字の圧縮が進むなど対外収支は改善しているものの、短
期の対外債務残高に比べて外貨準備高が少ないなど主要新興国のなかでは構造的な脆弱性を抱えることを勘案
すれば、厳しい経済運営が迫られることは避けられないと予想される。
以
上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。