Economic Indicators 定例経済指標レポート

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Asia Trends
マクロ経済分析レポート
豪ドル相場は暫くの間のこう着状態を予想
~日本円に対しては米ドル/円相場の動向如何の展開へ~
発表日:2016年9月6日(火)
第一生命経済研究所 経済調査部
担当 主席エコノミスト 西濵
徹(03-5221-4522)
(要旨)
 年明け以降の原油相場の底入れに加え、国際商品市況が底堅い値動きをみせるなか、その輸出国である豪
州では交易条件も底入れしている。さらに、準備銀は先月の定例会合で一段の利下げに踏み切り、物価安
定と低金利は内需を押し上げると期待される。他方、足下の国際金融市場では「カネ余り」が続くなか、
同国への資金流入が活発化する動きがみられ、豪ドル相場は底堅く推移している。準備銀はハト派姿勢を
みせる一方、堅調な内需を示唆する動きもみられ、このことも豪ドル相場の底堅さに繋がっている。
 6日に準備銀はスティーブンス総裁による最後の定例会合を実施し、政策金利を据え置いた。会合後の声
明文は前回会合に比べて中立的な内容の一方、内需の堅調さを示唆する動きもみられる。ただし、引き続
き豪ドル高をけん制する姿勢もみせるなど、先行きの方向感を見極めにくい内容である。なお、人事交代
を経ても政策スタンスが変わる可能性は低いなか、しばらく低金利環境が続くことは変わりない。豪ドル
は米ドルに対して一進一退の展開が続くとみられ、日本円に対しては米ドル相場如何の展開となろう。
 年明け以降の原油相場を巡っては底入れの動きが進み、先月以降は主要産油国間で増産凍結に向けた協議が前
進するとの思惑を反映して一段と上値を探る動きが強ま
図 1 商品市況(豪ドルベース)の推移
るなか、足下では豪州の主要輸出財である鉄鋼石や石炭
の価格も高止まりしており、豪州経済にとっては悪化が
続いてきた交易条件が底入れする動きがみられる。こう
した背景には、最大の輸出先である中国において依然と
して鉄鋼製品などの過剰生産状態に陰りがみえないなど、
先行きの世界経済に対する潜在的なリスク要因となり得
る事情が影響していると考えられるものの、商品市況の
上昇に伴う交易条件の改善は同国経済にとって国民所得
(出所)豪州準備銀行より第一生命経済研究所作成
の拡大を通じて景気の押し上げに繋がると期待される。さらに、豪準備銀は先月の定例会合において政策金利
を 25bp 引き下げる決定を行った結果、その水準は 1.50%と過去最低に達するなど一段の金融緩和を実施して
おり、足下のインフレ率が原油安の長期化などをきっか
図 2 豪ドル相場(対米ドル、日本円)の推移
けに低下トレンドを強めるなど、家計部門の実質購買力
の押し上げに繋がっていることも相俟って国内景気を下
支えすると見込まれる。他方、足下の国際金融市場にお
いては米国の利上げ再開時期及びそのペースに対する思
惑が交錯する展開が続いているものの、欧州や日本など
主要国による量的金融緩和政策などの影響による低金利
環境の長期化と「カネ余り」が常態化するなか、利回り
を求める資金の動きが活発化している。上述のように同
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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国の政策金利は過去最低を更新するなど、すでに「高金利通貨」とは呼べない環境になりつつあるものの、相
対的な利回りの高さと高格付を維持していることも相俟って同国には資金流入が活発化する動きがみられる。
その一方、準備銀はこのところ豪ドル高圧力が高まることに対するけん制を強める動きを示しており、その度
に豪ドル相場は上値を抑えられる展開が続いているものの、足下においては底堅い動きをみせるなど堅調な資
金流入をうかがわせる状況となっている。こうした展開が続いている要因としては、先月の利下げ実施に際し
ては追加的な金融緩和に含みを持たせるなど「ハト派」姿勢を強調する動きをみせている一方、足下の不動産
需要は堅調な推移をみせているほか、個人消費も底堅い動きが続いており、物価安定と低金利状態の長期化が
景気を下支えする動きが確認されるなど、追加緩和に対する見方が定まりにくい状況にあることも影響してい
ると考えられる。
 こうしたなか、6日に準備銀はスティーブンス総裁の下で実施する最後の定例会合を開催し、政策金利を2会
合ぶりに据え置く決定を行った。なお、会合後に発表された声明文では、海外経済及び国際商品市況、国際金
融市場に対する見方は前回会合からほぼ変わっておらず、国内経済や物価の見通しなどについても大きな変更
はなされておらず、追加緩和に含みを持たせた前回会合と比較しても中立的な内容となっている。前回会合後
の世界経済を巡る動きをみれば、原油相場は足下で再び頭打ちの動きをみせているものの、堅調な値動きが続
くなど少なくとも下値を探る展開ではなくなっており、
図 3 雇用環境の推移
これを輸入に依存する同国にとってディスインフレ圧力
が高まる懸念は後退している。また、足下で拡大ペース
に頭打ちの兆候が出ている雇用環境についても、直近に
おいては正規雇用を中心に一段と鈍化基調が強まる動き
がみられる一方、非正規雇用については底堅さがみられ
るなど、まちまちの動きが続いている。同行は当面の雇
用について「拡大基調が続く見通し」との見方を示して
おり、雇用環境が急速に悪化する事態は想定しにくい状
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
況にあるものの、正規雇用に比べて所得水準が相対的に低いとされる非正規雇用を中心とする拡大の動きは内
需の拡大ペースを鈍化させる可能性には注意が必要と言える。さらに、過去において市況高騰が懸念された不
動産市場を巡っては、「当局による規制強化の動きに加え、貸手側の慎重姿勢も影響して上昇ペースが鈍化し
ている上、不動産融資の伸びも減速している」として、以前のような警戒感が薄れつつある様子もうかがえる。
先行きの景気については「低金利の継続が内需を支援す
図 4 長期金利(10 年債利回り)の推移
るほか、2013 年以降の豪ドル安の進展は外需を下支えす
るとともに同国経済の構造転換を促す」との見方を示す
一方、「豪ドル高はこうした取り組みを難しくする」と
して引き続き豪ドル高をけん制する姿勢をみせている。
今月 18 日付でスティーブンス総裁は退任するとともに、
後任にはロウ副総裁が昇任するほか、ロウ氏の後任には
デベル総裁補が就任するなど、来月以降の政策運営を巡
って大きく変化するとは考えにくい。早々に追加利下げ
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
が行われる可能性は後退しているものの、金融市場においてはさらなる利下げの可否も含め、相当期間に亘っ
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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て低金利状態が続く可能性が高いとの見方から長期金利は底這いで推移するに繋がっている。こうしたことか
ら、先行きの豪ドル相場については米ドルに対しては米国の金融政策の行方如何ではあるものの、上値の重い
一進一退の展開が続き、日本円に対しては米ドル/日本円相場の動向に沿った動きになると予想される。
以
上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。