1/3 Asia Trends マクロ経済分析レポート 豪州、足下の景気は穏当も不透明感残る ~豪ドル相場のこう着状態を後押しする内容~ 発表日:2016年9月7日(水) 第一生命経済研究所 経済調査部 担当 主席エコノミスト 西濵 徹(03-5221-4522) (要旨) 年明け以降の商品市況の上昇に加え、低インフレや低金利など豪州の内需を取り巻く環境が整いつつある なか、先行きにおける企業投資の底入れを示唆する動きも出ている。こうしたなか発表された4-6月期 の実質GDP成長率は前期比年率+2.12%と減速しており、公的部門による消費や投資が活発化する一 方、個人消費は鈍化した。企業の設備投資は底打ちしたほか、低金利を追い風に住宅投資も活発化する一 方、規制強化による商業用不動産の頭打ちは下押し圧力となるなど、内容はまちまちの展開であった。 分野別では、豪ドル安により製造業が底入れする一方、鉱業や建設業、農林漁業の動きが足かせになっ た。先行きについては低インフレや一段の金融緩和、景気を重視した今年度予算が内需の押し上げに繋が ると見込まれる一方、外需には中国経済の動向など不透明要因が残る。個人消費の弱さは準備銀の懸念要 因になるとみられるなか、先行きについては引き続き追加緩和の余地が残ると予想される。結果、豪ドル 相場は米ドルに対してこう着状態が続き、日本円に対しては米ドル/日本円相場に左右されるであろう。 足下における鉄鋼石や石炭をはじめとする国際商品市況の底入れを背景に、豪州経済を巡っては長期に亘り悪 化基調が続いてきた交易条件に底入れの動きがみられ、 図 1 民間部門の新規投資動向(前年比)の推移 国民所得の向上を通じて景気の底打ちを示唆する動きが みられるなか、インフレ率の低下やそれに伴う一段の金 融緩和も重なり、個人消費を中心とする内需を取り巻く 環境に改善を促す材料が整いつつある。さらに、このと ころは鉱業部門を中心に設備投資を控える動きが広がっ たことも景気の足かせとなる展開が続いてきたが、足下 では民間部門による資本投資に底打ちの兆候が出ている ことに加え、将来的には底入れが一段と進むとの期待も (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 強まるなど、景気を巡る状況は大きく好転するとの見方に繋がっている。また、先行きの世界経済のリスク要 因となる懸念はくすぶるものの、最大の輸出先である中国経済を巡っては、足下でインフラ投資や不動産投資 などが景気を下支えする動きが続いており、結果的に豪 図 2 実質 GDP 成長率(前期比年率)の推移 州経済にとっては外需の下支えを促している。こうした なかで発表された4-6月期の実質GDP成長率は前年同 期比+3.3%と前期(同+2.9%)から伸びが加速してお り、9四半期ぶりに3%を上回る伸びとなるなど堅調な 景気拡大を続けていることが確認されている。なお、前 期比年率ベースでは+2.12%と前期(同+4.26%)から 伸びが鈍化しており、景気動向については加速と減速を 繰り返す一進一退の展開が続くなど、本調子にはほど遠 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判 断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一 生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2/3 い状況にあるものの、比較的底堅い景気拡大が続いていると判断出来る。内訳をみると、インフレ率の低下に よる家計部門の実質購買力の押し上げが期待される状況にも拘らず個人消費の伸びは鈍化しており、このとこ ろの雇用の拡大ペースの鈍化が消費の足かせとなりつつある様子がうかがえる。一方、政府によるインフラ投 資を中心とする公共投資の促進を受けて政府消費が大幅に拡大しており、消費全体としては前期並みの拡大ペ ースを維持している。また、依然として厳しい状況に直面している鉱業部門を中心に知的財産関連の投資を大 きく抑制する動きが続いているほか、当局による規制・監督強化の動きを反映して商業用不動産を中心に一段 と頭打ち感を強める動きがみられる。その一方、低金利環境を追い風に住宅向け投資は堅調な推移が続いてい るほか、企業の設備投資にも底入れの動きが進むなか、上述のように公共投資が進捗したこともあり、固定資 本投資の成長率寄与度は前期比年率ベースでほぼゼロとなっている。さらに、輸出も中国のみならずアジア新 興国の底堅い景気拡大を反映して拡大基調が続いている一方、堅調な内需を反映する形で輸入が拡大に転じた 結果、純輸出の成長率寄与度はマイナスに転じており、結果的に成長率の足を引っ張る格好となっている。 分野別では内需の底堅さを背景に加え、年明け直後に大きく混乱した国際金融市場が落ち着きを取り戻すなか、 世界的な「カネ余り」を追い風に同国への資金流入が再び加速化する動きもみられており、小売・卸売をはじ めとして、金融など幅広くサービス業で生産が加速する 図 3 実質 GDP 成長率(前期比年率)の推移 動きがみられている。2013 年初旬をピークに豪ドル相 場が低下基調を強めるなか、足下では実質実効ベースで もピークから約2割減価するなど輸出競争力が大きく向 上しており、長期に亘って減産圧力が掛かり続けてきた 製造業においても一部で生産拡大に向けた動きが出るな ど底入れを示唆する兆候も出ている。その一方、過去数 四半期に亘って堅調な生産が続いてきた鉱業部門につい ては再び大きく調整圧力が強まる動きがみられたほか、 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 商業用不動産を中心とする建設需要の頭打ちは建設業の生産を下押ししており、さらに、異常気象の影響は農 林漁業の生産の足かせとなるなど、景気の下押し材料が拡大したことも景気一服に繋がっている。ただし、上 述のように将来的な企業の設備投資期待に一段と底入れの動きが進むとの期待が広がっていることに加え、豪 ドル安の進展による輸出の下支えが見込まれることも、先行きの景気見通しに明るさをもたらすとみられる。 また、準備銀は原油安の長期化によりインフレ率が低位で推移するなか、雇用拡大ペースの頭打ちによる賃金 上昇圧力の後退がインフレ率のさらなる下振れを招くことを警戒して、年明け以降だけで5月と8月の計2回 (累計 50bp)の利下げを行い、足下の政策金利は過去 図 4 鉄鋼石及び石炭のスポット価格の推移 最低水準の 1.50%となる一段の金融緩和に踏み切って いる。4-6月期の景気にはこの利下げ効果が充分に織 り込まれていないことを勘案すれば、先行きについては 利下げによる個人消費や固定資本投資に対する押し上げ 効果も期待されよう。さらに、政府は7月からの今年度 予算において従来からの財政健全化路線を堅持しつつ、 中小企業向けの法人税減税のほか、中間所得層に対する 減税やインフラ投資の一段の拡充などを通じて、雇用及 (出所)Thomson Reuters より第一生命経済研究所作成 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判 断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一 生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 3/3 び経済成長をより重視する姿勢に舵を切っており、これも景気の下支えに繋がると見込まれる。なお、年明け 以降上昇基調を強めている石炭価格は一段と上値を追う動きをみせる一方、鉄鋼石価格が頭打ちの様相を呈し ており、先行きについては最大の輸出先である中国経済の動向に大きく依存した展開になると予想される。足 下の中国経済を巡っては、上述の通り公共投資の拡充に伴うインフラ投資や不動産投資が景気を押し上げる展 開が続いているものの、年後半についてはこの押し上げ効果が徐々に剥落すると見込まれるなか、相場が先行 きも一段と上値を追う展開が続くとは考えにくい。したがって、外需をけん引役に成長率が押し上げられる展 開は想定しにくく、引き続き個人消費を中心とする内需の動向が景気を左右する状況が続くと予想される。準 備銀は6日に開催した定例会合において、政策金利を据え置く決定を行い、先行きの見通しについても中立的 な姿勢をみせている(詳細は6日付レポート「豪ドル相場は暫くの間のこう着状態を予想」をご参照くださ い)。4-6月期のGDP統計において個人消費が予想外に力強さを欠く展開となったことは、準備銀にとっ て先行きの景気判断に影響を与えると見込まれるなか、過去における利下げ効果が個人消費やインフレ動向に 反映されなければ、さらなる追加利下げに踏み切る可能性を残す内容になったと判断出来る。したがって、豪 ドル相場は引き続き米ドルに対してこう着した展開が続くと見込まれるとともに、日本円に対しては米国の金 融政策の動向に伴う米ドル/日本円の動きに依存する状況が続くと予想される。 以 上 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判 断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一 生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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