実は見た目以上に厳しい中国経済 ~1Q成長率は前期

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Asia Trends
マクロ経済分析レポート
実は見た目以上に厳しい中国経済
~1Q成長率は前期比年率+5%強に低迷、追加対策は不可避の状況~
発表日:2015年4月15日(水)
第一生命経済研究所 経済調査部
担当 主席エコノミスト 西濵
徹(03-5221-4522)
(要旨)
 昨年末以降の中銀による政策転換を受けて中国金融市場は活況を呈する一方、実体経済は芳しくない状況
が続く。1-3月期の実質GDP成長率は前年比+7.0%であったが、前期比年率ベースでは+5%程度と
減速基調が鮮明になった。内需は全般的に低迷し、投資は依然公共投資頼みである上、個人消費の勢いも
弱いなど構造転換が遅々として進んでおらず、足下の状況は云わば「迷走状態」に近いと捉えられよう。
 国内に様々な過剰状態を抱えるなか、安定成長には外需取り込みが必要であり、中国主導で設立計画が進
むAIIBもその一端である。ただし、足下の人民元高や生産コスト上昇は外需鈍化を招いている。AI
IBは人民元の国際化を目指す上でも重要だが、その機能を果たすためには充分な透明性が不可欠であ
る。金融市場の発展やAIIBの成功は、中国の思惑に拘らず透明性の向上を図れるか否かが左右する。
 昨年末以降の政策転換に伴い銀行融資の伸びは反転加速しており、政策期待を背景とする海外マネーの流
入も金融市場の活況を後押ししている。足下の実体経済の悪さ、地方を中心とする不動産市況の低迷など
を勘案すれば追加的な金融緩和は不可避と見込まれる。一方、過去には過度な緩和が資産価格の狂乱的な
上昇を招いており、すでに急騰状態にある株式相場などをみれば、微妙な政策対応が求められよう。
《前年比7%に収めるも前期比年率では5%程度、成長率目標実現には追加対策の実施は避けられないと予想される》
 昨年末以降、人民銀(中銀)が金融政策の基本姿勢を「穏健」に据え置きつつ緩和方向に動いていることを受
け、足下の同国金融市場では株式相場が軒並み上値を追う動きをみせるなど活況を呈する一方、実体経済面で
は芳しくない動きが続いており、両者の動きには大きな乖離が生まれている(詳細は4月 10 日付レポート
「「李克強指数」でみえる中国経済の奇妙な現実」をご参照ください)。足下の同国経済を巡っては、共産党
及び政府が掲げるスローガンである『新常態(ニューノーマル)』に沿って構造改革を前進させる一方、それ
に伴う景気減速を容認する姿勢がみられるなか、結果的に
図 1 実質 GDP 成長率の推移
経済成長率は鈍化基調を強めている。1-3月期の実質GD
P成長率は前年同期比+7.0%と前期(同+7.3%)から鈍
化して6年ぶりとなる低い伸びに留まったものの、政府が
掲げる今年の経済成長率目標(7%前後)はクリアしてい
る。しかしながら、前期比は+1.3%と前期(同+1.5%)
を下回るなど減速感が強まっており、年率換算では+5%
をやや上回る水準に留まるなど、足下の同国経済は極めて
厳しい状況に立っている。全産業の生産に減速感が強まっ
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
ているが、内・外需の低迷や党及び政府主導による構造改革の影響で製造業を中心とする第2次産業で減速基
調が強まったほか、現政権が経済成長のけん引役として期待するサービス業をはじめとする第3次産業も減速
基調を脱せず、同国経済の「成長の芽」が育っていないことも改めて確認された。工業生産については3月単
月ベースの伸びは前年比+5.6%、1-3月通期でも同+6.4%に留まり、外資合弁企業などでは堅調な一方、
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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国有企業での低迷が足かせとなっており、昨年後半以降の原油安をはじめとする国際商品市況の低迷を受けて
鉱業部門の生産調整が全体の重石となる様子がうかがえる。一方、党及び政府がここ数年抑制を図ってきた固
定資産投資については、昨年末以降に政府が金融政策を実質的に緩和姿勢に転換するなど政策対応に変化の動
きが出ているものの、1-3月通期の伸びは前年比+13.5%と1-2月(同+13.9%)から鈍化している。ただ
し、月次ベースでは3月は前月比+1.04%と前月(同+1.03%)からわずかに加速しており、中央政府が主導
する既存の投資計画を中心とする進捗が押し上げに繋がっている。その一方、製造業をはじめとする民間部門
の投資は低調な推移が続いており、依然として国内投資は公共投資頼みとなっている。さらに、個人消費の動
向を反映する社会消費支出(小売売上高)は3月単月で前年比+10.2%、1-3月通期でも同+10.6%と勢い
に乏しく、春節(旧正月)後で物価上昇圧力が後退したことを勘案すれば、3月は前月比+0.71%と前月(同
+0.97%)を下回る伸びに留まったことは個人消費の弱さを示している。党及び政府主導による綱紀粛正策で
高額消費が抑制されていることも影響しているが、主要品目ごとの動きをみると、春節の際に海外において
『爆買い』と称される旺盛な消費をみせた反動もあり、国内消費が抑制されたことが少なからず影響したとも
考えられる。こうした状況を勘案すると、足下の同国経済は構造転換の過渡期にあると考えられる一方、依然
としてその動きはスムーズに進んでいるとは言いがたく、迷走に近い状態にあると判断することも出来よう。
 一方、同国内をみれば多くの分野で過剰設備や過剰在庫をはじめとする、様々な過剰状態に直面するなか、党
及び政府が目指す持続可能な経済成長を実現するためには、国内経済の構造転換を進めるとともに、海外に新
たな市場を発掘することを通じて過剰状態の調整を進めることが不可欠になっている。昨今、中国主導での設
立計画が進められているアジアインフラ投資銀行(AIIB)を巡る議論が国内外において喧しいが、彼らが
今後の世界経済のけん引役として期待されるアジアの経済成長を支援しようとする背景の一つには、こうした
事情があると考えられる(詳細は3月 23 日付レポート「中国主導によるAIIBをどう考えるか」をご参照
ください)。党及び政府はこれまで、様々な場面において同国経済の成長のけん引役を外需から内需にシフト
させる考えを示しているが、上述のように内需の構造転換は容易に進まないことを勘案すれば、過度な景気減
速を回避するためにも外需の底入れを図ることが避けられ
図 2 人民元の対ドル為替レートの推移
ない。こうした状況は、同国の為替市場の閉鎖性なども相
俟って、先日米国財務省が発表した『為替報告書』におい
て、通貨人民元の為替相場が「 著しく過小評価されている 」
と評されることにも現れている。なお、足下の動向につい
て上述の報告書では「為替介入を減らしているものの、市
場の透明性向上に向けて情報開示が必要」との考えをみせ
ており、年明け以降において人民元高基調が強まっている
ことを評価しているものと思われる。他方、製造業を中心
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
とする生産現場においてはここ数年、大幅な賃金上昇圧力が高まっていることに加え、人民元高の進展による
全体でみた生産コストの上昇に伴いコスト競争力が低下しており、輸出の足かせとなることが懸念されている。
こうした状況はすでに貿易統計においても確認されており、3月の輸出額は前年比▲15.0%と大幅なマイナス
となったほか、1-3月通期でも同+4.6%と低い伸びに留まったことに現れている。3月の大幅な輸出鈍化は
国内における生産の足かせになったことに加え、生産に必要な原材料需要の鈍化は原油をはじめとする商品市
況の調整を相俟って輸入の減速に繋がっており、中国向け輸出への依存度を高めてきたアジア新興国や多くの
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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資源国にとっては景気の足かせとなる懸念となっている。なお、3月の輸入をみると石炭や鉄鋼石、銅鉱石、
原油といった鉱物資源の輸入量には底入れの動きがみられることから、先行きの生産拡大を見越した動きと考
えることも出来、足下における商品市況の底堅さに繋がっている。なお、国家統計局は記者会見において「人
民元相場が急激に上昇すれば輸出が打撃を受ける」との見解を示しており、先行きの人民元相場は緩やかな
上昇に留まる可能性を示唆したものと受け取れる。その一方、中国がAIIBの創設を急ぐ要因のひとつとし
ては人民元取引の拡大を通じた「人民元の国際化」を目指す動きも影響しているものと考えられ、人民銀など
が資本取引の自由化に意欲をみせていることもこうした姿勢を反映しており、英国など欧州諸国が相次いで参
加表明した背景にあると考えられる。ただし、資本取引の自由化が進めば現在のように当局の監視の下で実質
的な為替介入が行われる環境を維持することは難しくなり、党及び政府の思惑が大きく外れる可能性もある。
政府はすでに預金保険制度の導入など来るべき金利自由化をはじめとする金融システムの自由化に向けた取り
組みを進めているが、資本取引の自由化の実現には外国為替法など関係法令の整備・緩和とともに、表面上の
自由化に留まらない取り組みが求められる。そうした透明性向上が着実に進むかは、同国金融市場のさらなる
発展のみならず、AIIBの取り組みが成功するかをも左右すると考えられる。
 足下の同国金融市場を巡っては、このところの経済指標の悪化を受けて、政府が追加的に金融緩和をはじめと
する景気刺激策が実施されるとの思惑を受けて、実体経済
図 3 銀行融資(前年比)の推移
の悪さと相反する形で活況を呈している。特に、昨年 11 月
末に人民銀は予想外の形で利下げに踏み切るなど、従来か
らの「穏健」とする金融政策を維持しつつ現実的には金融
緩和に踏み切り、その後も預金準備率の引き下げや追加利
下げなど段階的に緩和姿勢を強めていることが影響してい
る。また、先月末には政府内の関係部局が総勢で住宅ロー
ンの規制緩和に動くなど、それまでの政策対応から姿勢を
一変させていることも、金融市場の期待感の火に油を注ぐ
一因になっていると考えられる。一連の政策対応の変化を
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
図 4 主要株式指数(上海総合指数)の推移
背景に、銀行融資の伸びは昨年末を底に加速感を強めてお
り、国内金融市場におけるマネーの伸びは依然として一進
一退の動きをみせているのとは対照的である。また、国際
金融市場においては先進国による量的金融緩和の影響でマ
ネーの規模はかつてない規模に膨張していることから、上
述の政策期待は短期資金を中心とする海外資金の流入に繋
がりやすくなっており、こうしたことも国内金融市場の活
況を一段と後押ししている。結果、足下の主要株式指数で
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
ある上海総合指数は世界金融危機直後につけたピークを大きく上回る水準まで上昇しており、昨年末以降の上
昇ペースを勘案すると一部で過熱感を警戒する動きもみられる。足下の経済成長率がみため以上に悪い状況に
ある一方、例年は4月以降に財政政策の進捗がみられる上、政府は「積極的な財政政策」を志向していること
を勘案すれば、その進展は先行きの景気を押し上げると期待されるものの、地方を中心に不動産の過剰在庫が
問題となるなか、市況低迷による資産デフレは足下のディスインフレ基調からデフレへの転換を促す引き金と
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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なるリスクもくすぶっている。そうした観点からは、今後も追加的な金融緩和などを通じて資産価格の下落を
食い止めるとともに、景気を下支えする政策が採られる可能性は高いと考えられるものの、過去においては過
度な緩和が資産価格の狂乱的な上昇を招き、社会不安を招く一因になってきただけに、微妙な政策の舵取りが
求められる状況は変わらないと言えよう。
以
上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。