豪州、堅調な雇用と物価安が景気を下支え ~今後の金融政策の動向は

1/3
Asia Trends
マクロ経済分析レポート
豪州、堅調な雇用と物価安が景気を下支え
~今後の金融政策の動向は雇用環境の行方如何~
発表日:2016年3月2日(水)
第一生命経済研究所 経済調査部
担当 主席エコノミスト 西濵
徹(03-5221-4522)
(要旨)
 中国経済の不透明感やそれに伴う商品市況の低迷は資源輸出の割合が大きい豪州経済の重石になると懸念
されるが、足下の景気は底堅い拡大を続けている。昨年10-12月期の実質GDP成長率は前年比ベースで
拡大基調が続き、前期比年率ベースでは+2.55%に鈍化したが、堅調な雇用や物価安を追い風に個人消費
がけん引役となっていることが確認された。足下では長期に亘り低迷が続いた設備投資意欲に底入れの兆
しが出つつあるなど、当面は旺盛な内需が経済成長を押し上げる展開が続くものと予想される。
 1日の定例会合で準備銀は、政策金利を引き続き据え置く決定を行った。内外経済に対する見方はほぼ変
わらないなか、堅調な雇用拡大を重視する姿勢が一段と鮮明になっている。さらに、これまでに比べて豪
ドル安志向がやや後退している様子もうかがえる。先行きの金融政策は雇用動向次第であり、低インフレ
が続いた場合に追加緩和の可能性を示唆する姿勢もみせた。ただ、旺盛な移民流入などを追い風に雇用環
境は堅調さを維持すると見込まれ、追加利下げは見込みにくく、豪ドル相場は下値の堅い展開が続こう。
《堅調な雇用や物価安による底堅い内需が景気をけん引。準備銀は追加利下げを示唆するも、可能性は低いと予想》
 中国経済に対する不透明感を背景に国際商品市況の低迷が続いていることは、輸出全体の約6割を原油や天然
ガス、石炭といった鉱物性燃料のほか、天然資源などが占める豪州経済にとって、外需に価格と数量の両面で
下押し圧力となる事態を招いている。先月以降の原油相場に底入れの動きが出ていることを受けて、直近では
2年以上に亘って下落基調が続いてきた交易条件がやや底入れする兆しは出ているものの、足下の水準は 10
年ぶりの低さに留まるなど依然として厳しい環境に直面していることには変わりがない。他方、2013 年初旬
をピークに下落が続いている豪ドル相場は、昨年末にかけて一段と下落基調が強まったことで輸出競争力の向
上をもたらす効果も生まれており、一時に比べて輸出に対する下押し圧力は軽減されつつある。こうしたなか、
昨年 10-12 月期の実質GDP成長率は前年同期比+3.0%と前期(同+2.7%)から加速しており、中期的な傾
向を示すトレンドベースでみた前年同期比でも+2.8%と
図 1 実質 GDP 成長率(前期比年率)の推移
前期(同+2.6%)から3四半期連続で加速感が強まるな
ど堅調な景気拡大が続いていることが示された。前期比年
率ベースでは+2.55%と前期(同+4.44%)に加速した反
動で鈍化しているものの、好調さが続く雇用環境に加え、
原油安をはじめとする国際商品市況の調整がインフレ圧力
の後退をもたらすなか、これに伴う家計部門の実質購買力
の押し上げが個人消費を下支えしており、依然として成長
をけん引している。さらに、同国政府は今年度予算におい
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
て歳出拡大姿勢を強めており、これに伴う中央及び地方政府による消費拡大の動きも景気の下支えに繋がって
いる。他方、これまで調整圧力が強まってきた企業の設備投資にはようやく底入れの兆しが出つつあるが、原
油相場の低迷長期化などを受けて鉱物資源部門を中心に知的財産関連投資に対する抑制の動きが出ているほか、
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
2/3
住宅以外での不動産投資も鈍化した結果、固定資本投資の
図 2 民間部門による新規資本支出動向の推移
成長率寄与度は前期に続いて2四半期連続でマイナスとな
っている。また、前期に輸出が拡大した反動で伸びが鈍化
したことから、純輸出の成長率寄与度はプラス幅を大きく
縮小させている。分野別では、昨年半ばにかけて干ばつの
影響で生産が大きく落ち込んだ農業部門に底入れの動きが
出たが、製造業の生産に対する下押し圧力が強いなか、個
人消費をはじめとする内需の堅調さを反映してサービス業
の好調が景気をけん引する状況が続いている。足下では企
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
業部門による中長期的な資本投資の見通しに底入れの兆しが出つつあるなど、低迷が続いてきた設備投資を取
り巻く環境が改善する可能性が出ているものの、依然として原油をはじめとする国際商品市況は低位での推移
が続いているほか、中国経済についても製造業を中心に厳しい状況に直面している。したがって、直ぐに同国
経済の浮揚感が高まる状況は想定しにくいものの、足下では堅調な雇用環境を追い風に内需主導による景気拡
大を続けており、これには順調な移民流入も影響している可能性がある。欧州で移民流入への反発が高まって
いることを受けて同国でも移民受入に消極的な動きが出る可能性はあるものの、急激な政策変化に至ることは
ないと見込まれるなか、当面は物価安定も追い風に底堅い景気拡大が続くものと予想される。
 こうした環境のなか、1日に準備銀行は定例の金融政策委員会を開催し、政策金利であるオフィシャル・キャ
ッシュ・レート(OCR)を9会合連続で 2.00%に据え置く決定を行っている。足下のOCRは長期に亘っ
て過去最低水準で据え置かれており、会合後に発表された声明文において、海外経済に対する見方は前回会合
から一言一句変化していないなど、厳しい見方を据え置い
図 3 雇用環境の推移
ている。さらに、商品市況の動向に対する見方も前回会合
から大きく変化しておらず、依然として「交易条件の悪化
が続いている」との認識が示された。その上で、ここ数ヶ
月に亘って動揺が続いた国際金融市場についても「リスク
許容度の低下で新興国国債やハイイールド債で資金需給が
タイトになる一方、高格付債の資金調達コストは低く、世
界的に見た金融政策のスタンスは依然緩和的」との見方を
据え置いている。他方、同国経済については「鉱業部門で
投資抑制の動きが広がったが、鉱業以外では拡大の動きが
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
図 4 豪ドル相場(対米ドル、日本円)の推移
広がっており、この動きは雇用環境の改善や企業向け融資
が拡大している動きに現われている」とする一方、「イン
フレは低水準で推移するなか、労働コストも抑制されてお
り、向こう1~2年のインフレ率は引き続き低水準に留ま
る」との見方を示している。したがって、足下の環境を勘
案すれば「緩和的な金融政策の継続が望ましい」とし、低
金利の長期化は「需要を下支えする」一方、住宅融資に対
する規制強化策の影響で「不動産市場のリスクは抑制さ
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
3/3
れ」、家計部門の信用拡大についても「投資用物件と住宅用物件との間で差はあるが、全体的に落ち着いてい
る」とした。高騰が懸念された不動産市況についても「メルボルンとシドニーで鈍化しつつある」なか、豪ド
ル相場については「経済見通しに併せて調整する」とし、これまでに比べて豪ドル安へのスタンスを緩める姿
勢をみせている。先行きの金融政策については「このところの国際金融市場の動揺や国内外における景気下振
れによっても雇用環境の改善が続くか否かを注視する」とし、「低インフレが続けば、需要喚起に適切と判断
すれば追加緩和の余地も生まれる」として追加利下げに含みを持たせる姿勢をみせた。今後の政策動向の鍵を
握るのは雇用動向であることが明確になるなか、足下では改善の動きにピークアウトの兆候が出つつあるもの
の、旺盛な移民流入を追い風に堅調さを維持すると見込まれ、現時点において追加利下げに踏み切る可能性は
低いと予想する。結果、豪ドル相場については先行きも下値の堅い展開が続くであろう。
以
上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。