企業における帰宅困難者対策 - 東京海上日動WINクラブ

2015 August Special-1
東京海上日動 WINクラブ
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企業における帰宅困難者対策
東日本大震災の直後、首都圏では鉄道の運休や渋滞等により約 515 万人(内閣府推計)が帰宅困難
となり、一斉に徒歩帰宅を試みたことが問題となりました。路上にあふれた帰宅困難者は、余震等によ
る倒壊や火災等に巻き込まれる危険性が大きい上、救助・救命を行う緊急車両の妨げになるためです。
こうした帰宅困難者の一斉帰宅を防ぐ対策は行政だけでは実現できず、企業や個人が一体となって取
り組む必要があります。東京都では、首都直下地震が発生した場合に帰宅困難者 約 448 万人の発生
が想定されることから、行政・企業・個人のそれぞれにおける対策を定めた「東京都帰宅困難者対策条
例」
(以下、
「都条例」と呼びます)を他道府県に先駆けて制定しています(2013 年 4 月施行)
。
ここでは、都条例の取り組みを中心に、企業が取るべき帰宅困難者対策をご紹介します。
Ⅰ.平常時の準備
(1) 3日分の備蓄
災害で生き埋め等になった場合、72 時間(3 日)を境に生存率
が大きく下がるといわれます。このことから帰宅困難者による混乱
が救助・救護活動の妨げとならないよう、企業は発災後 3 日間、従
業員を施設内に待機させることが求められる事態も想定されます。
そのためには、企業は従業員全員が3日間滞在できるだけの物資を
事業所ごとに備蓄しておく必要があります。
都条例では、3 日間の施設内滞在と物資の備蓄を企業の努力義務
としています。従わなくても罰則はありませんが、従業員が被害や
混乱にあわないよう、内閣府の協議会が提示している目安(右表)
を参考にして、施設内滞在に備えておきましょう。
加えて、来客等、従業員以外の帰宅困難者を考慮して 10%程度
余分な備蓄や、長期化に備えて 3 日間分以上の備蓄をすることが望
ましいとされています。
1 人が 3 日滞在するための備蓄の目安
ペットボトル入り飲料水
9L
主食(アルファ化米、クラッ 9 食
カー、乾パン、カップめん等)
毛布/保温シート
1枚
簡易トイレ
敷物(ビニールシート)
衛生用品(トイレットペーパ
ー、生理用品等)
携帯ラジオ
企業で
必要量
を算定
懐中電灯、乾電池
救急医療薬品類
※ 内閣府「首都直下地震帰宅困難者等対策協議会
(2) 建物の安全確保
最終報告」
(2012)を元に作成
従業員を滞在させるためには、建物が安全でなければなりません。耐震基準の改正があった 1981
年以前の建物である場合は耐震診断し、問題があれば耐震補強をする必要があると考えるべきでしょう。
立地自治体によっては耐震診断・補強に補助金を受けられる場合があるので自治体に照会してください。
また、屋内の安全確保のために、オフィス家具等が転倒・落下・移動したり、ガラスが飛散したりし
ないよう対策をとっておくべきです。個別の措置については、東京消防庁が公開している「家具類の転
倒・落下・移動防止対策ハンドブック」
(2012 年 7 月)が参考になります。発災後に建物に顕著な危
険がないかを応急的に確認するチェックリストも準備しておきます。チェックリストの例は「東京都帰
宅困難者対策ハンドブック」
(2014 年 11 月)を参照してください。
また安全な場合に、従業員の滞在場所や応急救護所などをどこに設置するかも決めておきましょう。
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(3) 従業員・家族の安否確認手段
事業所に十分な物資と安全が確保されても、家族の安否
安否確認手段の例
が不明なら、従業員は安心できず帰宅を希望します。不安
「災害用伝言ダイヤル」
(171)
、
「災害用伝言板」
を払しょくするためには家族の安否を事業所で知ること
等の固定電話・携帯電話事業者による災害用伝言
のできる仕組みが必要です。しかし、家族の安否を知りた
サービス
くても、電話は東日本大震災のときと同様、通話規制など
ウェブサイト「Google パーソンファインダー」
で利用できなくなるとみられるため、右表のような通話以
ウェブサイト「J-anpi」等
外の確認手段を複数準備しておくことが重要です。
ソーシャルネットワークサービス「Twitter」
企業は、これらの手段の使用方法を、財布や社員証入れ
ソーシャルネットワークサービス「Facebook」等
等の中に収納できる小型マニュアルの形で配布するなど
※ 「東京都帰宅困難者対策ハンドブック」(2014)を元に作成
して、従業員に知らせておくとよいでしょう。都条例では、
こうした安否情報の確認手段を従業員に周知することを企業の努力義務としています。
なお、従業員自身の安否については、災害時に限らず企業が従業員の所在を把握し、連絡のとれる手
段を確保しておくべきです。
Ⅱ.発災時の行動
(1) 施設内待機の判断
発災時には、国や都道府県が一斉帰宅の抑制をウェブサイトや公
式 Twitter、テレビ、ラジオ等を通じ呼びかける計画になっていま
す。この呼びかけや、鉄道の運休、主要道の通行不能の情報を確認
した場合は、従業員を施設内に待機させるか、判断すべきでしょう。
まず建物に顕著な危険がないか、準備済みのチェックシートで応
急的に確認します。さらに周辺に津波や火災等の危険性がないか情
報を入手して建物や周辺の危険性が小さければ、従業員に待機を伝
えます。
(2) 一時滞在施設の利用
建物や周辺に危険が大きく、施設内に待機できない場合には、行
政が開設する一時滞在施設や避難所の情報を入手し、周辺の被害情
報を踏まえて従業員らを案内・誘導してください。テナントビルに
入居している場合は、ビル管理者の指示に従ってください。
(3) 帰宅支援
施設内待機を指示しても、中には事情により帰宅したい従業員も
出てくるでしょう。企業がこうした人まで待機させることは、人権
の観点からできません。帰宅を許可した上で、極力安全に帰宅でき
るよう、帰宅支援情報や備蓄品を提供してください。帰宅ルートに
火災や津波、倒壊等の危険がある場合は、ルート変更させましょう。
また発災後、時間が経過し、救助活動が落ち着いて徒歩帰宅が可能になったと判断した後にも、従業
員を一斉に帰宅させないよう、居住地や家庭の事情等を考慮しながら順次、帰宅させるルールを定めて
おきましょう。帰宅後には職場に連絡を入れさせるルールも規定しておくことが肝要です。
◇
大都市の企業は、これら対策について防災計画等にまとめ、従業員に周知することが求められます。
地震対策訓練の際に帰宅困難者対策の手順を確認する等により、有効な備えとしていきましょう。
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