パワハラ訴訟のリスク - 東京海上日動WINクラブ

2016 June Special-1
東京海上日動 WINクラブ
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パワハラ訴訟のリスク
職場のパワー・ハラスメント(以下、パワハラ)は、多くの職場で発生しています。厚生労働省の調査1では、過去3
年間に従業員からパワハラに関する相談を受けたことがあると回答した企業は4,580社中45%に達し、パワハラを受
けたことがあると答えた従業員は9,000人中25%に達しています。
パワハラは企業の財産である社員の心身の健康を害するだけでなく、職場環境を悪化させることで生産性の低下、ヒ
ューマンエラーの誘発、人材の流出、企業イメージの悪化など企業に様々な悪影響を与えますが、加えて、企業はパワ
ハラ訴訟というリスクにも直面します。パワハラ訴訟が起きれば、高額な賠償金や弁護士費用の金銭的な支出、訴訟対
応に要する手間・時間・精神的なストレス等の大きな負担が企業に生じます。
Ⅰ.最近のパワハラ訴訟高額賠償事例
図表1は、最近のパワハラ訴
訟における高額賠償の事例です。
【図表1】最近のパワハラ訴訟における高額賠償例
報道年月
概要
判決または
和解概算金額
2016年3月
岐阜県の大手電子機器製造メーカーに勤めていた30代男性が
上司のパワハラ(「何でできんのや」、「バカヤロー」など
の言動)を原因として、2013年10月自殺。遺族が提訴。
1億550万円
2016年1月
岐阜県職員の30代男性が、2012年夏頃より医療施設の整備
を担当。上司からパワハラ(繰り返し怒鳴られるなど)を受
けるようになり、2013年1月自殺。遺族が提訴。
9,600万円
2015年3月
大手住宅メーカー勤務の男性社員(当時35歳)が、上司のパ
ワハラ(「死ね」、「辞めてしまえ」など日常的に罵倒)を
原因として、2011年9月自殺。両親が提訴。
6,000万円
2015年3月
兵庫県の公立病院に勤務する男性医(当時34歳)が、長時間
労働を強いられたうえに上司(医師)によるパワハラ(「田
舎の病院だと思ってなめとるのか」、「給料の3分の1しか働
いていない」などの叱責)により2007年12月自殺。両親が
提訴。
1億円
2014年11月
東京都渋谷区のステーキハウスの店長(当時24歳)が、長時
間労働とパワハラ(暴言、使い走り、私生活への介入など)
により、2010年11月自殺。社長の個人責任も認められた。
5,790万円
2014年11月
2010年4月、福井県の消火器販売会社に入社した男性(当時
19歳)が、上司のパワハラ(「辞めればいい」、「死んでし
まえばいい」などの人格を否定する言動の繰り返し)によ
り、同年10月自殺。(高校卒業後入社半年で自殺)
7,261万円
海上自衛隊横須賀基地に配備されている護衛艦の1等航海士
(当時21歳)が、上司によるパワハラ(「自衛隊を辞め
ろ」、「田舎に帰れ」などの言動、バケツを持って立たされ
るなどのいじめ)により2004年自殺。遺族が提訴。
7,331万円
日本におけるセクシャル・ハラ
スメント訴訟では高額な賠償金
が認められた事例は必ずしも多
くありませんが2、
パワハラの場
合は 5,000 万円を超える賠償
事例は決して珍しくなく、1 億
円を超える賠償事例も発生して
います。訴訟は加害者個人と会
社を相手取って行われる場合が
ほとんどですが、2014 年 11
月に報道されたステーキハウス
店長の例のように、会社社長の
個人責任が追及される事例も発
生しています。
パワハラ訴訟件数の増加や、
賠償金額の高額化を裏付ける統
計は残念ながら存在しませんが、
2014年4月
近年の賠償事例を見るだけでも、 各種報道をもとに弊社にて作成
パワハラ訴訟が企業の大きなリ
スクになっていることは否定できません。
1
2
平成 24 年度 厚生労働省「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」
WIN プラザ 2015 March Special-2「セクハラと企業の責任」参照
1
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Ⅱ.増加する労災認定
2009 年に精神障害の労災認定基準が改訂され、職場におけるひどいいじめや人格を否定するような言動、いじめの
繰り返し、更には、いじめの放置などについては、心理的負荷の強度が高いと判断されるようになり、パワハラによる
精神障害についても柔軟な労災認定が行われるようになりました。
図表2に、2009 年度から 2014 年度の 6 年間
における精神障害の労災認定件数とその中に占める
パワハラによる労災認定件数の推移を示しました。
指針改定以降、パワハラの労災認定件数は増加傾向
にあり、精神障害の労災認定件数に占める比率も毎
年 10%を超えていることがわかります。
パワハラを受けて精神障害となった被害者(また
はその遺族)は、安全配慮義務に違反したとして民
法 415 条の債務不履行責任、正常な環境で働く権
利を侵害したなどとして民法 709 条の不法行為責
任等を問う訴訟を会社に提起することになりますが、
いずれの場合も、パワハラと精神障害との間に因果
関係があるか否かが大きな争点となります。しかし
ながら当該労働者の精神障害が労基署によって労災
認定されていれば、その因果関係が裁判においても
認められやすくなることは当然であり、パワハラの
損害賠償訴訟が増えている背景にはこういった事情
もあると考えられます。
Ⅲ.企業のパワハラ対策
企業はパワハラ対策に真剣に取り
【図表3】企業のパワーハランスメント対策
組むべき時代となりました。図表3
■予防のための対応
は、企業のパワハラ対策の骨子を示
①
トップメッセージ:職場からパワハラをなくすべきであるとの明確で強いメッセージ
②
社内規定の制定:就業規則に関係規定を設けたり、労使協定を締結
③
実態調査:アンケート等により、パワハラが現実に起きていないかなどを調査
しています。詳細は、厚生労働省の
「パワーハラスメント対策導入マニ
④
教育:管理職及び一般社員向けの研修
ュアル」に記載されていますので、
⑤
周知:組織の方針や取り組みについて周知・啓発
是非参考にしていただき、具体的な
■発生後の対応
対策を進めていただきたいと思いま
す。
⑥
相談窓口:企業内・外に相談窓口設置、職場の対応責任者を決める、外部専門家と連携
⑦
再発防止:行為者に対する再発防止研修など
厚生労働省「パワーハラスメント対策導入マニュアル」を基に弊社にて作成
パワハラのない職場づくりとは、
職場の仲間を互いに尊重し、異なる個性を認め、一人ひとりが伸び伸びと働ける職場風土を築くことです。時間はかか
るかもしれませんが、トップやリーダーが意識を変え、自ら実践していくことで、少しずつ職場は変わっていくのでは
ないでしょうか。
東京海上グループのソリューション
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います。詳細は社員または代理店にお問い合わせください。
東京海上日動リスクコンサルティング(株)では、ハラスメントやメンタルヘルスに関するセミナー・研修等、各種労務
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