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2015 September Special-2
東京海上日動 WINクラブ
http://www.tmn-win.com/
不動産取引と土壌汚染
2015 年 8 月、
「国の仙台第1地方合同庁舎の新棟建設工事について、ひ素による土壌汚染が発覚したため、工期
が 8 ヶ月遅れ、事業費が 20 億円以上増加した」との報道がありました。汚染土の処理には高額な費用や工程変更など
想定外の負担がかかることから、事前に土地の性状や土地利用履歴を把握することが重要です。
Ⅰ.土壌汚染とは
土壌汚染とは、薬品や排水の漏洩などの人為的原因や、自然界に
もともと重金属類が多く含まれている自然的原因など、様々な理由
により特定有害物質(26種類)が土壌中に蓄積され、その濃度が法
や条例で定められた基準値を超えている状態を指します。基準値は、
その土地に長年住む人々の健康被害リスク(汚染土壌が口に入った
り、汚染地下水を飲んだときの身体への悪影響)が発生しないよう
に設定されています。
土壌汚染対策法(以下、法)や東京都をはじめとする各自治体の
条例等の多くは、国民の健康を保護することを目的として作られた
法律・条例であり、健康被害リスクを防止するために、汚染の存在
や広がりを的確に把握する調査方法が、細かく定められています。
図1:土壌汚染概念図
【出典】東京都環境局 中小事業者のための土壌汚染対
策ガイドライン
Ⅱ.調査のタイミングは売る前・買う時・借りる時
(1)調査義務は「所有者・届出者」にあり
法や条例に基づいた主な調査実施条件としては、以下の 2 種類があります。
①有害物質を使用している工場・施設等を廃止するとき1
②3000 ㎡以上(地域によって違いあり)の土地の形質の変更(土地の掘削・宅地造成等)を行うとき
上記のうち、特に①については、基本的に土地の所有者・施設認可届出者に求められる調査になりますので、前所有
者が廃止届の提出を怠ったまま土地を取得した場合、新所有者に費用負担が発生することがあります。このように疑義
の生じる事態を防ぐために、近年はほとんどの土地取引のタイミングで土壌調査を実施することが通例となってきてい
ます。実際に、1 年で 6000 件程度実施されている国内の土壌調査は、その半数以上が「土地売買」を契機に実施さ
れているのです。
(2)土地を「売る前」の注意点
上記のように、土地取引の際には土壌調査を実施することが一般的になってきています。土地取引の中で汚染土壌の
存在が明らかになった場合、その対策費が取引価格から差し引かれることが多くありますので、経営戦略上のダメージ
が生じてしまいます。また、上記①・②にあてはまる、法・条例などで将来土壌調査が求められる土地であれば、2010
年度から適用された会計基準の変更に伴い、将来的に土地を売却する際の土壌汚染対策に関わる費用等を資産除去債務
として引当てる必要があります。土壌調査の事前実施は、将来の不動産取引を円滑化させるだけでなく、企業の社会的
信頼の向上にもつながります。
1 有害物質を使用している工場や施設等が廃止された場合でも、引き続き工場の敷地等として利用され、人の健康への影響が生じるおそれがない場合や調査が困
難な場合等については、調査の実施が猶予されることがあります。
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(3)土地を「買う時」の注意点
冒頭の報道のように、土地の開発時において、汚染土壌の存在が発覚する事が近年増えています。新しく基礎や杭を
打って排出される建設残土を搬出処理する際に、残土の受入側の土壌分析を行うため、基準値を超えてしまうと土の処
理費が予定よりも格段に増幅するのです。その結果、掘削・搬出計画の変更による工期の延伸が生じ、工事計画全体に
影響を及ぼすことが懸念されます。
我が国は火山国であることから、自然界に存在する重金属類の濃度が環境基準値を超えることは珍しくありません。
自然的原因の汚染は国内各地で見られる現象ですので、いずれの地域においても事前に指定調査機関をはじめとする専
門家と相談の上、リスクを把握し、汚染のおそれがある場合は、工期に余裕を持ち、土の搬出を最小限に抑える建築計
画を設定することが重要です。
関東:ひ素
東北:ひ素
近畿中京地方:ひ素
図2:関東地方・近畿中京地方における重金属濃度分布(赤いほど濃く、青いほど薄い)
【出典】海と陸の地球化学図 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
(4)土地を「借りる時」の注意点
土壌汚染調査・対策は基本的には所有者の責任になりますが、法や条例で「特定施設」や「工場」
「指定作業場」とし
て借り主が届出をしている場合は、届出者として調査義務を負うことがあります。
具体例として、都内某区の自動車整備場 A 社(敷地面積:約 800 ㎡)の事例を挙げます。A 社は 2004 年に居抜
きでテナント入居し、2013 年に退去に伴い都の環境確保条例に基づく「工場廃止届」を出したところ、それまで使用
したことのない有害物質について調査命令が出てしまいました。実は、前使用者 Z 社も自動車整備場であり、
「工場設
置届」を出していましたが、A 社は入居時に Z 社の工場認可を「承継届」によって譲り受け、廃止する際に Z 社の使
用していた有害物質についても調査義務を負っていたのです。
調査を実施した結果、重篤な汚染がみつかり、結果的には調査・対策費用に 3000 万円程度要しました。Z 社は既
に倒産した会社なので費用を請求出来ず、土地所有者と協議の末、折半負担という形に決着がついたとのことです。
小規模工場であっても、用地選定・土地取得の際は、法に規定する環境省指定調査機関2へ事前相談の上、土地の利用
履歴等を確認することをおすすめします。
東京海上グループのソリューション
東京海上日動リスクコンサルティング株式会社では、各種土壌調査や土壌汚染対策工事を承っています。
・資料等調査[価格:約 20 万円~ 調査期間:約 2 週間~]
対象の土地や周辺で、有害物質が土壌汚染の原因となるような使われ方をしていなかったかを、過去の地図、空中写真、
登記簿等の資料から把握します。歴史は戦前~明治時代まで遡って調べ、必要があれば、現地にてヒアリングを行うこと
もあります。
・土壌汚染調査、土壌汚染対策工事[価格・調査期間:面積や資料等調査の結果による]
実際に土を採取し、分析します。結果汚染があった場合、汚染土壌を搬出するだけでなく、可能な限り、低価格・短工
期で健康被害リスクを低減する方法を提案致します。
2 指定調査機関一覧は、環境省のホームページ(http://www.env.go.jp/water/dojo/kikan/index.html)に掲載されています。TRC も指定調査機関です。
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