2016 September Special-2 東京海上日動 WINクラブ http://www.tmn-win.com/ 有期労働契約の無期転換ルール 2012 年公布の 「改正労働契約法」 において有期労働契約の無期転換ルールが定められました (労働契約法第18 条) 。 本年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」の若者の雇用安定・待遇改善の施策においても、その推進が 盛り込まれています。この背景には有期労働契約で働く人の「雇い止め」の不安を解消し、安心して働き続けることが できるようにする目的があります。本稿では無期転換ルールの概要と、企業が取り組むべき対応について解説します。 Ⅰ.無期転換ルールの概要 「無期転換ルール」とは、同一の使用者との間で、有期労働契約が「通算で 5 年を超えて」繰り返し更新された場合 は、 「労働者の申込み」を前提に、当該有期労働契約を無期労働契約に「転換」しなければならないルールのことです。 使用者の意思に関わらず、労働者からの申込みがあれば、無期労働契約がその時点で自動的に成立し、申込み時の有 期労働契約が終了する翌日から無期契約に転換されます。 「通算5年」のカウントは、2013 年 4 月 1 日以後に開始(更新)する有期労働契約が対象です。従って、無期労 働契約への転換を申し込む権利は、契約期間が 1 年の労働契約を想定すれば 2018 年 4 月以降に発生しますが、契約 期間が2年間または3年間となっている場合、無期労働契約への転換を申込む権利が既に発生している場合があるため 注意が必要です(図表 1) 。 また、転換時の労働条件(職務、賃金、労働時間等)は、契約期間以外は「別段の定め」がない限り変更なしとされ ています。 3年目 4年目 無期労働契約 6 年目 5年目 転換 申込み 目 最初の3年 転換 2 年目 2019年4月 1 年目 申込み 2013年4月 2016年4月 2018年4月 【図表1:有期労働契約期間が 1 年の場合の例(上) 、3 年の場合の例(下)の概念図】 無期労働契約 次の 3 年 Ⅱ.企業としての対応(準備) 企業の対応(準備)として必要なのは、まずは現状把握です。自社の有期契約労働者の人数、契約更新時の判断基準、 契約更新の状況、無期転換申込権が生じる時期、職務の内容、本人の今後の働き方の希望等を把握し、整理します。 次に、把握した現状を踏まえて、自社の対応方針を決定します。この時の対応は大きく分けて以下の3パターンに分 類することができ、自社の状況に合わせてこれらを組み合せて対応方針を決定します。 ① 無期契約労働者への転換(契約期間のみ無期に変更) 1 Copyright (c) Tokio Marine & Nichido Risk Consulting Co., Ltd. ② 新たな正社員区分を創設し、その区分に移行(多様な正社員の活用) ③ 既存の正社員に移行 さらには、その対応方針に沿った、詳細な労働条件の決定と就業規則等の見直しを行います。例えば、上記②のパタ ーンのように新たな正社員区分が生じる場合は、就業規則等を作成して定年や退職金制度等の必要な事項について明確 化する必要があります。例えば、万が一定年に関する規定が漏れていた場合、 「定年のない労働者」に移行することとな りますので、社員区分ごとに就業規則を点検、整備する必要があります。 図表2に、企業としての対応をまとめましたので参考にしてください。 【図表2:企業としての対応のまとめ】 項 第1ステップ 目 現状把握 行うべきこと 有期契約労働者の人数、契約更新時の判断基準、契約更新の状況、無期転換申 込権が生じる時期、職務の内容、本人の今後の働き方の希望等を把握する。 第2ステップ 対応方針の決定 自社の状況に合わせて下記のいずれの対応方針にするかを決定する。組み合わ せもあり。 第3ステップ ① 無期契約労働者への転換(契約期間のみ無期に変更) ② 新たな正社員区分を創設しその区分に移行(多様な正社員の活用) ③ 既存の正社員に移行 労働条件の決定と就業規則の見直 上記のの対応方針に沿った、詳細な労働条件の決定と就業規則等の見直しを行 し う。 「定年制度」 「退職金制度」に注意。 Ⅲ.無期転換ルールのメリットと留意点 無期転換ルールに対応していく上で、企業としてのメリットと留意点を以下に解説します。 まずは、無期労働契約への転換が、有期労働者の雇止め1の不安を解消することによって、モチベーションアップに寄 与し、ひいては人材の流出防止や優秀な人材の確保に繋がること、さらには長期的な人材育成が図れるなど、大きなメ リットがあることを認識する必要があります。特に、有期労働契約者が「恒常的な業務」を担当している場合などは、 この機に積極的に無期労働契約への転換を図ってはいかがでしょうか。また、長期的な人材活用の観点で「正社員への 登用制度」についても展望・構築していく必要があります。 企業によっては、人件費抑制の観点から、無期労働契約への転換ができず、有期契約労働者の雇止めを検討せざるを 得ないケースもあろうかと思います。その場合は、次の 2 点に留意する必要があります。 ① これまで継続してきた有期労働契約者について雇止めを検討する際には、 「雇止めの法理2」 (労働契約法 19 条) に抵触しないか十分に吟味する必要があります。更新が何回も繰り返し行われている場合等は、 「雇止め」には「解 雇」と同様に、客観的・合理的な理由が必要となります。 ② 新たな有期労働契約について、 有期労働契約期間の上限を定める (例えば有期労働契約期間の上限を5年と定め、 無期労働契約への移行の前に雇止めとすることを予め制度化しておく)ことは可能ですが、例えば優秀な人材に ついては社員登用を行う等の例外適用が発生する場合は、制度運営における透明性・客観性確保の観点から、例 外適用時の明確な基準が必要です。 なお、法律的には、企業側から無期転換申込権の発生有無等について社員に説明をする義務はありませんが、信義誠 実の観点からも、早期に対応方針を決定・開示し、社員との円滑なコミュニケーションを図っておくことが推奨されま す。 1 有期労働契約において使用者が契約更新を拒否すること。 2 労働者保護の観点から形成された判例法理。一定の条件の下で、客観的・合理的な理由のない雇い止めを違法とする考え方。労働契約法19 条に明文化された。 2 Copyright (c) Tokio Marine & Nichido Risk Consulting Co., Ltd.
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