内部不正を発生させないために - 東京海上日動WINクラブ

2016 March Special-2
東京海上日動 WINクラブ
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内部不正を発生させないために
社員や業務委託先社員など内部の人間による不正、例えば社内の機密情報の窃取、公金の横領、顧客の金品の詐取と
いった事件は決して珍しいことではなく、頻繁に報道されています。内部事情に詳しく、権限を持つ内部者の不正を完
全に封じることは極めて困難ですが、会社や職場の環境を改善すれば、内部不正の発生をある程度防ぐことができると
言われています。本号では、人間の心理に焦点を当て、
「どんな場合に内部不正が起こりやすいか」
、そして「内部不正
を防止するためにどのような観点で職場環境を整えたらよいか」について考察します。
Ⅰ.過去の事例
これまでに以下のような事例が発生しています。
報道時期
2011 年
類型
顧客の金品の詐取
事件の概要
銀行員が預金払い戻しの依頼があったかのように見せかけて、顧客の預金から約
1 億 4000 万円を着服した。
2012 年
インサイダー取引
信託銀行の運用担当者が、証券会社の営業社員より公募増資に関わる情報を得て
株の空売りを行った。
2012 年
公金の横領
文具会社の経理担当者が、虚偽の給与振込みデータ入力等の手口で、ネットバン
キングを利用し、会社の口座から自口座に約 3 億 9 千万円を振り込んだ。
2012 年
機密情報の窃取
機械メーカーから、設計図等の機密情報を社員が複製して持ち出したとして逮捕
された。
2014 年
公金の横領
ある総合商社の社員が、出向先の会社で経理・総務・営業等の全ての業務を担当
し、請求書を偽造するなどの手口で約 6 億円着服した。
2014 年
顧客の金品の詐取
銀行のATM保守業務の管理者が、顧客のカード情報を盗み取り、口座から不正
出金した。
2014 年
個人情報の窃取
ある企業の保有する顧客の個人情報が大量に流出した。業務委託先の社員が個人
情報を大量に窃取し、名簿会社に売却していることが判明した。
出典:各種報道より弊社作成
不正の動機は様々であり、また、不正が行われるに至った原因や背景も様々ですが、たった 1 つの事件によって、企
業は直接の金銭的被害に加えて、企業イメージの失墜・風評被害を被る等、会社の経営の根幹を揺るがすような事態に
発展してしまう例もあります。
Ⅱ.不正のトライアングルとは何か
米国の組織犯罪研究者であるドナルド・R・クレッシーは、不正は「動機・プレッシャー」
「機会」
「正当化」の3つ
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Copyright (c) Tokio Marine & Nichido Risk Consulting Co., Ltd.
の要因が揃ったときに発生するという「不正のトライアングル」という考え方を提唱しています。
1.動機・プレッシャー
人間が不正に手を染めるときには、何らかの理由(動機・プレッシャー)があるはずです。ノルマが達成できない、失
敗を隠したい、借金がある、昇進したい、不当に叱責された、等の問題を抱えた者が、合法的なやり方ではその問題を
解決することができないとき、不正が行われます。
2.機会
不正を行おうとすればそれができる環境(=機会)があれば、不正が行われやすくなります。不正が発覚しにくいとい
う環境も不正を誘発します。
3.正当化
通常は良心の呵責が人間の不正にブレーキをかけますが、その行為を自分の気持ちの中で正当化することができれば、
ブレーキが効かずに不正が行われます。
「周りの人も自分と同じように悪いことをしている」
「悪いのは会社だ」
「会社も
見て見ぬふりをしている」
「自分は会社のためにやっている」などといった、
「責任転嫁」の心理です。
Ⅲ.内部不正防止の基本原則
この「不正のトライアングル」の理論に沿って、内部不正への対策を考察してみましょう。
類型
動機・プレッシャー
対策の例
解説
・実現不可能なノルマを与えない
誰にも相談できずに追いつ
・
(成果だけでなく)正当に評価する
められることで人間は不正
・失敗を必要以上に咎めない
に手を染めます。従業員と
・部下から信頼される上司を置く
常に本音の対話を行い、不
・パワハラを許さない
満や悩みを聞き出すことが
・気軽に相談できる窓口を設ける(相談者の保護)
重要です。
・職場のコミュニケーションを良好に保つ
機会
・常に人間またはモニターで監視されている状況を作る
「簡単には不正ができな
・チェック体制をつくる(上司の承認、チェッカーの設置)
い」
「不正をしてもすぐ発覚
・社内監査、内部点検を隈なく行う
する」
「危険を冒すことは割
・担当を定期的に変える(同じ人間に長年担当させない)
が合わない」といった認識
・システム操作の履歴が残るようにする
を社内関係者に持たせるこ
・厳しい処分を社内で規定化する
とが大切です。
・処分された事例を公表する
・休暇を取得させる
正当化
・会社は絶対に違法なことを社員にやらせない、黙認もしない
社員が言い訳することがで
・遵法第一だということを社員に常に訴える
きないように環境を整えま
・不正を犯した社員は厳しく処分する
す。
・内部通報に対しては厳正に対処する(放置しない)
独立行政法人情報処理推進機構は、
「組織における内部不正防止ガイドライン」の中で、内部不正防止の対策を詳細に
示しています。
「情報セキュリティ管理」としての内部不正防止対策ではありますが、大変参考になりますので一読をお
勧めします。
以上の考察を踏まえながら、経営者は自社の方針を決定して、社内へ発信し、その方針の実現のために必要な人材や
予算等のリソースを確保する等の具体的な対策を検討しましょう。
その後も定期的に、
不正防止のための対応や対策が、
実際にうまく機能しているのかを確認することも必要です。
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