Economic Indicators 定例経済指標レポート

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Asia Trends
マクロ経済分析レポート
地味にヒドい!トルコの金融政策
~大統領周辺の圧力を受け、中銀は「裏口」での対応を迫られる事態に~
発表日:2017年1月25日(水)
第一生命経済研究所 経済調査部
担当 主席エコノミスト 西濵
徹(03-5221-4522)
(要旨)
 足下の世界経済は先進国の緩やかな景気拡大に伴い、資源国や新興国にも底打ちを示唆する動きがみられ
るものの、トルコは依然そうした動きに沿えない展開が続く。外需低迷に加え、雇用悪化やインフレ率の
最加速が内需の重石となる事態も予想される。治安悪化が続くなかで通貨リラ相場も下落するが、大統領
周辺の中銀への圧力に伴う信認低下も悪影響を与え、リラ安に歯止めが掛からない事態となっている。
 中銀は昨年11月に大統領の意向に反し利上げに踏み切ったが、反発が強く矛を収めざるを得なくなった。
24日の定例会合では短期金利の上限を引き上げたほか、裏口から実質的な短期金利を引き上げる苦肉の策
に出た。ただ、こうした政策の複雑さは不透明感を招く。トルコを取り巻く環境は外交、治安面で一段の
悪化も懸念されるなか、対外収支の脆弱さも加わり、リラ相場は調整しやすい地合いが続くとみられる。
 足下の世界経済を巡っては、先進国が緩やかな景気拡大を続けるなか、OPEC(石油輸出国機構)による減
産合意の動きを反映して国際商品市況が底入れして資源国経済も底打ちし、中国をはじめとする新興国の減速
懸念が後退していることもあり、全世界的に改善に向けた動きが広がりをみせている。こうした動きは世界的
に製造業の景況感の改善を促しているほか、依然として国際金融市場には「カネ余り」の状況が続くなかで活
況を呈する動きもみられる。昨年 11 月の米大統領選で
図 1 製造業 PMI の推移
のトランプ氏の勝利を受けて、金融市場においては先
進国を中心に株式相場が上昇基調を強める動きがみら
れる一方、新興国では資金流出を懸念して一時的に調
整圧力が強まったものの、その後は落ち着きを取り戻
して上昇基調に転じている。このように世界の実体経
済と金融市場は堅調さをうかがわせる展開となってい
るにも拘らず、足下においてその「波」に乗ることが
出来ない国が存在している。トルコを巡っては最大の
輸出相手であるEU(欧州連合)向け輸出が頭打ちの様
(出所)Markit より第一生命経済研究所作成
図 2 インフレ率の推移
相をみせるなか、隣国シリア情勢を巡る混迷を反映して
中東向け輸出も力強さを欠く展開が続くなど、外需をて
こにした景気回復に繋がりにくい状況にある。さらに、
足下では外需の低迷を理由に製造業を中心とする景況感
が悪化して生産に下押し圧力が掛かり、雇用の拡大ペー
スも鈍化して失業率も悪化するなど内需を取り巻く環境
も急速に悪化している。また、国際金融市場が度々動揺
するなかで同国は慢性的な経常赤字国であるなどファン
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
ダメンタルズ(基礎的条件)が脆弱であることを理由に資金流出圧力が高まる展開に直面し、通貨リラ相場は
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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下落基調を強める動きをみせてきた。こうした事態に加え、隣国シリア情勢の悪化のみならず、エルドアン政
権が国内向けに強権姿勢を強めたことも重なりクルド人勢力によるテロも頻発するなど国内の治安情勢は悪化
の一途を辿っており、海外資金の流出圧力に歯止めが掛かりにくい状況に直面するなか、足下のリラの対ドル
相場は最安値圏で推移する状況が続いている。結果、慢性的な経常赤字を抱える同国にとっては通貨安による
輸入インフレを通じた物価上昇が懸念されるなか、過去数ヶ月に亘って減速基調が続いてきたインフレ率が一
転して加速しており、この動きが個人消費をはじめとする内需の下押し圧力となることも懸念される。こうし
たことから、金融市場においてはリラ相場の安定が経済の立て直しにとって急務とみられているにも拘らず、
中銀は有効な手立てを打ち出すことが出来ずにリラ安を一段と加速させる事態となってきた。その背景には、
同国経済の減速懸念が強まるなかでエルドアン大統領を中心とする側近連中が中銀に対して強硬に利下げ実施
を求め、リラ相場の安定に向けた利上げ実施に反対するなど独立性を無視する動きをみせてきたことが影響し
ている。こうした様々な要因が交錯したことも影響して、国際金融市場ではトルコ政府、ひいては通貨リラに
対する信認が低下する状況が強まり、リラ安圧力に歯止めが掛からない事態を招いてきたと判断出来る。
 というのも、同国中銀を巡っては大統領周辺による利下げ実施圧力を受け、昨年来短期金利の上限に当たる翌
日物貸出金利の引き下げを通じた金融緩和に押し切られる展開が続いてきたが、昨年 11 月の定例会合におい
ては、米大統領選でのトランプ氏勝利を受けて多くの新興国で資金流出懸念が高まったことから、大統領周辺
の意向に反する形で利上げを断行するなど「中銀の独立性」の回復に繋がると期待された(詳細は 11 月 25 日
付レポート「トルコ中銀、大統領の意向に反し利上げ断行」をご参照下さい)。しかしながら、先月の定例会
合では事前の市場予想に反して政策金利を据え置く決定を行っており、大統領周辺による景気に配慮を求める
圧力が政策対応に影響を及ぼしていることが改めて意識されるとともに、その後の通貨リラ相場の一段の不安
定化を招くことに繋がった(詳細は 12 月 21 日付レポート「トルコ中銀の「背水の陣」はどうなるか?」をご
参照下さい)。こうしたなかで 24 日にトルコ中銀は定
図 3 金融政策の推移
例の金融政策委員会を開催し、短期金利の上限である
翌日物貸出金利を 75bp 引き上げて 9.25%とする一方、
主要政策金利である1週間物レポ金利及び短期金利の
下限である翌日物借入金利をそれぞれ 8.00%、7.25%
に据え置く決定を行った。その上で、今月中旬から適
用を開始した実質的な短期金利に相当する「後期流動
性ファシリティー(午後4時から5時に適用)」の上
限である貸出金利を 100bp 引き上げて 11.00%とする決
(出所)CEIC, トルコ中銀より第一生命経済研究所作成
定を行った(借入金利は引き続き 0.00%に据え置き)。通貨リラ相場が最安値圏で推移するなか、同行は大
統領周辺による圧力に伴い表向きは利上げが実施しにくい環境が続くなか、非伝統的な措置を通じて実質的に
「裏口から引き締めを実施する」という複雑な対応をせざるを得なくなっている事情がうかがえる。とはいえ、
こうした対応は市場参加者にとって極めて不透明な環境を招くとともに、中銀にとっては市場が安定している
時は市場金利を利用する一方、市場が不安定な状況に直面した場合は流動性を減らすことで対応することを意
味しており、いずれにせよリラ相場にとっては下落圧力が掛かりやすくなることが予想される。折しもトルコ
では、昨年末にエルドアン大統領が依然実質的な影響力を行使する与党AKP(公正発展党)が国会(大国民
議会)に対して大統領権限の強化などを盛り込んだ憲法改正案を上程し、こうした動きも欧州諸国からの反発
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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を招いてきたが、今月 21 日には同案が議会で承認され
図 4 リラ相場(対ドル)の推移
たことで今春にも国民投票が行われる見通しとなった。
憲法改正案に拠るとエルドアン大統領は最長で 2029 年
まで大統領職を続けることが可能になると読むことが出
来、欧州を中心に同氏による「独裁色」がこれまで以上
に強まることを警戒する向きが強いものの、一昨年の出
直し総選挙の結果などを勘案すれば成立する可能性は充
分に考えられる。表面上の政治情勢は安定するとみられ
るものの、欧州との外交関係は極めて劣悪な状態におか
(出所)Thomson Reuters より第一生命経済研究所作成
れる可能性が高い上、国内ではクルド人などに対する締め付け強化の反動でテロ行為が発生しやすい事態も予
想されるなか、金融市場においては同国に対する信認が低下することは避けられないであろう。政府はリラ相
場の安定に向けて、国民に対して外貨をリラないし金に交換するよう求める訴えを行うなど「破れかぶれ」の
対応をみせる一方、中銀は今月初めに国内市場で外貨不足に陥っている事態に対応すべく外貨建預金準備率を
50bp 引き下げるなど難しい対応に迫られている。同国は外貨準備に占める流動性部分が昨年 11 月末時点で
978 億ドルに留まる一方、昨年9月末時点における短期対外債務残高が 1033 億ドルと外貨準備に比べて大き
いなど、経常赤字を抱えていることに加えて対外収支が構造的に脆弱である。金融市場が平時であれば対外債
務のロールオーバーも比較的容易に行なうことが可能とみられるものの、ひとたび動揺すればそうした動きが
急激に難しくなることも予想されるなど、構造的に極めて難しい状況も見込まれる。先行きの金融市場につい
ては引き続き不透明な展開が続くとみられるなか、通貨リラ相場にとっては一段の下落圧力が高まる可能性は
くすぶっていると考えられよう。
以
上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。