新生ストラテジーノート 第 237 号

新生ストラテジーノート 第 237 号
2016 年 9 月 23 日
調査部長 江川 由紀雄
[email protected]
(03) 6880-6035
「イールドカーブ・コントロール」政策下での MBS 投資について
住宅ローンの特性を踏まえた考え方
日本銀行は、9 月 21 日に、長短金利操作(「イールドカーブ・コントロール」)を含む金融政策を
決定した。オペの方針として、長期金利については、「10 年物国債金利が概ね現状程度(ゼロ%
程度)で推移するよう、長期国債の買入れを行う」とした。買い入れ対象となる国債の平均残存期
間の定めは廃止する。更には、指値オペ(日本銀行が指定する利回りによる国債買い入れ)を導
入し、資金供給オペの期間を最長1年から最長 10 年へと延長する。
これは、今後当面の間、10 年国債利回りをゼロ%近辺に維持するという日銀の強い意思表示
であると考えられる。そして、市場実勢が日銀が意図する金利水準から大きく乖離する際には、
「指値オペ」による国債買い入れや資金供給オペを行う用意があることを日銀が明示したことにな
る。
日銀は、言うまでもないが、中央銀行であり、自らの負債が通貨であるため、「指値オペ」を実
際に行う際には、金額の上限を設けず、応札が枯渇するまで全量買い入れすることが可能である。
つまり、その気になれば、無理やりにでも市場金利を日銀の思う水準に収れんさせることができる。
もっとも、実際に「指値オペ」や期間 10 年の資金供給オペが実施されることがあるかは不明であ
るが、こうした新型オペレーションの導入を決定したこと自体が、市場に対する強いメッセージとな
っている。
こうした日銀の政策の修正によって、「長期金利」の代表格である 10 年国債利回りがゼロ%程
度にアンカーされるとともに、円金利のイールドカーブがスティープ化することが予想される。
この結果生じる金利環境の変化に際して、MBS 投資と住宅ローン市場への影響とその解釈に
ついて考えてみたい。
住宅ローン金利の引き下げ趨勢は一段落
住宅金融支援機構の【フラット 35】等のプログラムを用いる住宅ローンの貸出金利は、原則とし
て毎月1回更改されているが、前月に発行条件を決定した住宅金融支援機構 MBS のクーポン
(利率)の条件決定時において指標として用いた新発 10 年国債の利回りに対する上乗せ幅(名
目スプレッド)と、前月下旬時点における 10 年国債の流通利回りを参考に決定されている模様で
ある。このため、いまのところ、2016 年 8 月に史上最低水準となり、9 月は、8 月下旬における国
債流通利回りが 7 月下旬のそれよりも高かった分、史上最低水準だった前月からはやや上昇し
1
1
新生ストラテジーノート
新生証券株式会社 調査部
た 1。民間金融機関等の住宅ローン金利は、各銀行等が独自に決めており、その決定方法は明ら
かにされておらず、業界における競合状況等を踏まえた柔軟な運営がなされているとともに、固定
期間選択型の固定期間(たとえば、当初 10 年間)の貸出金利の設定にあたっては、国債利回り
がある程度参考にされていると推測される。
こうした過程で重視されるのが、「長期金利」の代表格である 10 年国債流通利回りである。今
般の日銀の政策修正により、これが、人為的にゼロ%近辺にアンカーされることになる。ということ
は、今年の 6 月~7 月に見られた水準よりはやや切りあがると見てよいのではないだろうか。とな
ると、【フラット 35】の貸出金利や民間の長期固定金利型の住宅ローンの貸出金利がふたたび史
上最低(2016 年 8 月実績)を試すことは当面考え難い。住宅ローンの借り換え動向にも影響を及
ぼすであろう。
機構 MBS の「スプレッド」の考え方(一部に民間 RMBS とも共通)
市場参加者の機構 MBS に対する評価や需給環境に大きな変化が生じないとしても、条件決定
時に用いられる名目スプレッドが大きく変化する可能性がある。とくに、短中期の市場金利の低下
幅が限定的な水準にとどまり、超長期が大きく上昇するようなことになれば、機構 MBS の名目ス
プレッドは拡大することになる。
住宅金融支援機構 MBS の発行条件決定プロセスでは、多くの市場関係者間の「共通言語」とし
て 10 年国債利回りに対する利回りの上乗せ幅(名目スプレッド)が用いられている。しかし、機構
MBS のキャッシュフロー特性は、元本が満期に一括で償還される利付国債のそれとは大きく異な
っている。毎月の元本償還額が予め決まっていない(裏付資産となる信託財産に含まれる住宅ロ
ーンの繰上げ返済等の発生状況次第となる)ことを横に置いても、短期から超長期にわたる多く
のキャッシュフローのパッケージである。これを敢えて国債にたとえるとすれば、短期、中期、長期、
超長期の様々な年限の債券を少しずつ保有しているようなものである。便宜的に用いられている
MBS の利率なり利回りと 10 年国債利回りの差としての名目スプレッドは、わかりやすさと一意に
決められる(国債の銘柄を特定しておけば、その流通利回りは、同じ日時に誰が観測してもほぼ
同一となる)利便性があるため利用されているだけであり、イールドカーブの形状が異なれば、同
水準の名目スプレッドであっても、その意味合い(国債利回りに比べて実態的にどれだけ上乗せ
の利回りが得られるのか)が大きく異なる。その欠点を補う指標が国内 MBS 市場関係者の間では
数年前から「イールドカーブスプレッド(YCS)」と呼ばれるようになった(それ以前は米国モーゲー
ジ債市場で一般的に用いられる Z-spread, zero volatility spread の表現を使う市場関係者
1
【フラット 35】の貸出金利の推移については、たとえば、住宅金融支援機構が運営するサイト
Flat35 を参照 http://www.flat35.com/kinri/index.php/rates/top
2
2
新生ストラテジーノート
新生証券株式会社 調査部
が多かったように記憶している)、一定の元本償還を前提にしたうえで、スプレッドが全期間にわた
り一律とした場合の国債のイールドカーブに対する上乗せ幅であるが、元本償還の予想は、予想
に使用するモデルやその前提によってまちまちであるため、一意には決定できない。こうしたこと
もあり、今後も機構 MBS に関しては、市場関係者の間で、「名目スプレッド」が使われ続けることが
予想される。
民間 RMBS の固定利回りトランシェについては、裏付資産に一定の速度の繰上げ返済が発生
すると想定したうえで、国債流通利回りではなく、スワップレートとの比較で「スプレッド」(機構
MBS における YCS と共通の考え方に基づく指標)が論じられることが多いが、この場合でも、スワ
ップレートのイールドカーブの形状次第で、その「スプレッド」の意味合いが異なってくる。
こうしたことを踏まえて、今後の機構 MBS の発行額の趨勢(最近の回号では、裏付資産に含ま
れる借り換え目的のローンの比重が高いことに留意)や名目スプレッドの動向に向き合って行きた
い。
機構 MBS の発行額は【フラット 35】の取扱高に連動するが
ところで、、10 月 1 日申込分から【フラット 35】リノベ(性能向上リフォーム推進モデル事業)の
取扱が開始されることになっている。中古住宅(既存住宅)を取得し、リフォームにより性能を向上
させた場合に、【フラット 35】の当初 10 年間または 5 年間につき、貸出金利を 0.6%引き下げる
というもの 2である。現状の金利環境下で「0.6%」の金利引き下げのインパクトは相応にあると考
えるのが自然であろう。
既存住宅(または中古住宅)の流通促進といった住宅循環システムの構築は、今年 3 月に閣議
決定された「住生活基本計画」 3と整合的な施策であり、中古住宅の流通活性化に伴い、【フラット
35】リノベの実績積み上げが今後期待できよう。こうした新たなプログラムに基づく中古住宅取得
者を対象とする【フラット 35】の取扱により、史上最低水準に近い住宅ローン金利に着目した住宅
ローン借り換え動向の沈静化による取扱の減少をある程度補う可能性も考えられる。こうしたこと
もあり、機構 MBS の発行額が向こう半年から 1 年を見通して、大幅に減少していくとは考え難い。
(調査部長 江川 由紀雄)
2
住宅金融支援機構ホームページ参照
http://www.flat35.com/topics/topics_20160701.html
3
国土交通省の発表文
http://www.mlit.go.jp/report/press/house02_hh_000106.html
3
3
新生ストラテジーノート
新生証券株式会社 調査部
4
名称
:新生証券株式会社(Shinsei Securities Co., Ltd.)
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第95号
所在地
:〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号
日本橋室町野村ビル
Tel : 03-6880-6000(代表)
加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会
資本金
:87.5 億円
主な事業 :金融商品取引業
本書に含まれる情報は、新生証券株式会社(以下、弊社)が信頼できると考える情報源より取得されたものですが、弊社
はその正確さについて意見を表明し、または保証するものではありません。情報は不完全または省略されたものである
ことがあります。本書は、有価証券の購入、売却その他の取引を推奨し、または勧誘するものではありません。本書は、
特定の商品やサービスの勧誘・提供を行う目的で作成されたものではありません。本書で言及されている投資手法や取
引については、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。また、これらの投資手法や取引について
は、金融市場や経済環境の変化もしくは価格の変動等により、損失が生じるおそれがあります。本書に含まれる予想及
び意見は、本書作成時における弊社の判断に基づくものであり、予告なしに変更されることがあります。弊社またはその
関連会社は、本書で取り扱われている有価証券またはその派生証券を自己勘定で保有し、または自己勘定で取引する
ことがあります。弊社は、法律で許容される範囲において、本書の発表前に、そこに含まれる情報に基づいて取引を行う
ことがあります。弊社は本書の内容に依拠して読者が取った行動の結果に対し責任を負うものではありません。本書は
限られた読者のために提供されたものであり、弊社の書面による了解なしに複製することはできません。
信用格付に関連する注意 本書は、金融商品取引契約の締結の勧誘を目的としたものではありません。本書で言及ま
たは参照する信用格付には、金融商品取引法第 66 条の 27 の登録を受けていない者による無登録格付が含まれる場
合があります。
4
著作権表示 © 2016 Shinsei Securities Co., Ltd. All rights reserved.