(2016/5/31)住宅金融支援機構の【フラット35(保証型)】

新生ストラテジーノート 第 228 号
2016 年 5 月 31 日
調査部長 江川 由紀雄
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(03) 6880-6035
住宅金融支援機構の【フラット 35(保証型)】の復活に思う
全期間固定金利型住宅ローンの市場に新たな展開か
住宅金融支援機構は、5 月 12 日、「【フラット 35(保証型)】の事業再開について」と題する告知
文を公表 1した。いまのところ、取扱機関は日本住宅ローンのみとなっている。日本住宅ローンは
これを「MCJ フラットプレミアム」と命名し、取り扱いを開始した模様 2である。
住宅金融支援機構による証券化支援事業は、現状、【フラット 35(買取型)】が主力となってい
る。これは、取扱機関が貸し出す住宅ローンを機構が買い取り、それを毎月1回、信託設定し、そ
れを裏付けとする債券として機構 MBS を発行するものである。いっぽうで、【フラット 35(保証型)】
は、取扱機関が貸し出す住宅ローンにつき、機構が融資保険を提供し、これらの住宅ローン債権
が証券化される際には、機構が当該証券化商品の元利払いの保証を行うものである。「買取型」
は機構自らが MBS を発行する形態であるのに対し、「保証型」は、住宅ローンの貸し出しも証券化
も民間主体が行うところ、機構が融資保険等の形で信用補完を行うことで支援する形態である。
全期間固定金利型住宅ローンの多様化と競争力回復の可能性
住宅金融支援機構が証券化支援事業の一環で取扱機関から買い取る「買取型」の住宅ローン
は全期間固定金利型に限られる。同様に、「保証型」もまた、対象となるローンは全期間固定金利
型に限られる。住宅ローンの貸出市場において、全期間固定金利型は必ずしも主流ではない 3。
全期間固定金利型住宅ローンの貸出金利は、変動金利型よりも大幅に高く、10 年固定型に比べ
てもやや高い傾向があるから 4だ。貸出金利が相対的に高いことを承知で、将来の金利上昇に伴
う支払い負担の増加を回避したいという動機が全期間固定金利型を選択する主な理由ということ
になる。
「買取型」の住宅ローン債権を裏付けとし、毎月新発債の発行条件を決定する機構 MBS は、国
債流通利回りが長期ゾーンまでマイナス圏に沈む中、投資家がプラスの利回りを享受できる債券
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住宅金融支援機構 http://www.flat35.com/topics/topics_20160511.html
日本住宅ローンのホームページ https://www.mc-j.co.jp/select/premium.html
たとえば、2015 年9月または 10 月に住宅ローンの借入れを行った人を対象とする調査で、
51.2%が変動金利型を、20.7%が固定金利選択型を、28.1%が全期間固定金利型を利用した
という結果がある。住宅金融支援機構による「民間住宅ローン利用者の実態調査」
http://www.jhf.go.jp/about/research/loan_user.html
異なるタイプの住宅ローンを貸出金利のみで比較することは適切ではない。保証料支払の要否、
団信保険の内容及びその保険料の水準なども考慮するべきである。本稿では深入りしない。
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として人気を博している。今年度に入ってからは毎月2千億円を上回る大型起債を行ってきている
が、市場で難なく消化されてきている。ここ数か月の発行利回りの低下は顕著であり、1月に発行
条件が決定された機構 MBS 第 106 回債の発行利回りが 0.79%であったのに対し、5月に条件
決定および発行された第 109 回債は同 0.36%の水準になった。
機構 MBS の発行利回り―そして、それは、新発 10 年国債の流通利回りと「名目スプレッド」へ
分解できる―は、【フラット 35】(買取型)の貸出金利に反映されることになる。住宅金融支援機構
が取扱機関から、貸出の都度、住宅ローンを買い取る際の「買取基準金利」(非公表)については、
前月の機構 MBS 発行条件決定時における名目スプレッドと国債流通利回りを参考に決定してい
るからだ。取扱機関は、その「買取基準金利」を基に、自らの利益および事務コストを考慮して、自
ら貸出金利を設定する。貸出金利を「基準金利」に極めて近い水準に設定しておき、顧客から別
途徴収する事務取扱手数料を主な収益源としている取扱機関もある。
図表1 【フラット 35】の最低貸出金利と機構 MBS の利率の関係
2.00%
MBS利率
1.80%
フラット35貸出金利
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1.60%
1.40%
1.20%
1.00%
0.80%
0.60%
0.40%
0.20%
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年9月
2015年10月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年9月
2014年10月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
0.00%
注: 横軸は、MBS 利率については条件決定月を表す
出所: 住宅金融支援機構公表情報をもとにとりまとめ
貸出金利については http://www.flat35.com/kinri/index.php/rates/top
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機構 MBS の発行条件に左右される「買取型」の貸出金利
こうしたことから、業界最低の貸出金利が機構が提示する「買取基準金利」に極めて近い水準
になっていることが推定できる。新発機構 MBS の発行条件決定時の利率と同月における「買取型」
(期間 21 年以上 35 年以内かつ融資比率 90%以下の区分)貸出金利の最低値を比較してみる
と、1 か月のラグを伴い、ほぼ連動していることが読み取れる。つまり、ある月における機構 MBS
の発行条件は、翌月の【フラット 35】の貸出金利に反映されているということが確認できる。
なお、「買取型」の貸出金利は、省エネ性能や耐震性に優れた住宅などを対象とする場合に、
当初5年間(長期優良住宅、認定低炭素住宅等の特に性能が優れた住宅については当初 10 年
間)、0.3%の金利引き下げの対象になる。金利引き下げの対象になるものを【フラット 35】S と呼
ぶ。
【フラット 35】S の金利引き下げ幅は、2015 年 2 月以降 0.6%へと拡大されていたところ、
2016 年1月 29 日の申込をもって引き下げ幅拡大は打ち切られた。それ以降の申込分について
は、引き下げ幅は 0.3%に戻っている。このため、当初 5 年間または 10 年間につき、前掲グラフ
に示した貸出金利よりも 0.3%ないし 0.6%低い金利が実際の「最低金利」ということになる。引き
下げ考慮前でも既に 1%程度の水準となっており、当初の金利引き下げを考慮すれば、1%を切
る水準が現実のものとなっている。
「保証型」も同様に、投資家がどういう利回りで購入するかで決まる
「保証型」については、市場の創出と育成はこれからの課題ではあろうが、やはり、住宅ローン
を裏付けとする証券化商品にどのような利回りで投資家が資金を投じるか次第で、結局のところ、
どのような貸出金利が設定できるかが決まってくる。こうした「保証型」債権を裏付けとする証券化
商品の利回りについては、一概に国債流通利回りにどの程度上乗せすれば投資家の需要を集め
られるかを論じられる段階ではない。(もっとも、既にローンの取扱を始めた日本住宅ローンは、特
定の投資家またはアレンジャーと「利回り」についての合意を行っていると推定される。)
現状、ある程度プラスの利回りを得られる資金運用対象として、証券化商品に対する需要も集
まりやすい。こうした市場環境もあり、「保証型」についても、競争力のある金利を住宅ローンの利
用者に対して提供できる可能性が高まってきている。
(調査部長 江川 由紀雄)
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所在地
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一般社団法人日本投資顧問業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会
資本金
:87.5 億円
主な事業 :金融商品取引業
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