新興国の二極化、アジアと比べラ米は利上げの悪循環

リサーチ TODAY
2016 年 2 月 3 日
新興国の二極化、アジアと比べラ米は利上げの悪循環
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
みずほ総合研究所は、先月来の世界的同時株安に関する緊急リポート『金融市場に激震』を発表した1。
今回、我々が緊急リポートを作成した背景には、新興国を中心に市場参加者の漠然とした不安が大きくな
っていることがある。下記の図表のように、新興国では資金の流出不安を背景に通貨が大きく下落している。
なかでも、ロシア、南アフリカといった懸念の強い新興国・資源国を中心に通貨の下落が目立つ。南アフリ
カランドが10%以上下落したほか、先進国通貨でも豪ドル、カナダドルといった資源国の通貨が下落して
いる。一方、日米の先進国の通貨には上昇圧力が加わっている。中でも最も上昇が大きかったのは日本で
あり、先週29日に日銀がマイナス金利を決定したのは、急な円高を回避する目的だった。
■図表:世界の為替相場(対ドルレート)
(変化率、%)
2015年夏(8/11→26)
2016年初(12/30→1/26)
10
通貨高
↑
5
0
↓
通貨安
▲5
▲10
▲15
▲20
ー
ー
ー
ー
コ 豪 ポ カ ブ 英 ト 韓 マ チ ス イ 台 ハ ノ ブ シ ユ チ ル ペ 中 イ 香 タ サ 米 日
ル 国 ン 港 イ ウ 国 本
ェ
ナ ラ 国 ル 国 レ リ イ ン 湾 ン ル ル ン
ロ 州
ラ ダ ジ
ガ ウ ガ ガ ロ コ マ
ス ド
コ
ン
ジ
ド
ニ
シ
ン
リ ェ リ ポ 圏
ビ
ア
ル
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ア
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ア
ー
ー
ー
ー
ロ 南 メ ア
シ ア キ ル
ア フ シ ゼ
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カ
チ
ン
(注)米国は名目実行ドルレート
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
みずほ総合研究所は、今日の新興国問題を世界のバランスシート調整における第3局面とし、新興国に
おいても経常収支が赤字国では問題が顕現化しやすいとしている。なかでもリスク度が高く懸念すべき4か
国(Fragile4)として、ブラジル、アルゼンチン、ベネズエラ、トルコを挙げ、次いでリスク管理上懸念がある5
か国(Next5)として、インドネシア、ロシア、南アフリカ、マレーシア、ベトナムをあげた2。これらの国々は、数
年前まではどれも信用拡張が続いた結果、大きなビジネス機会があったが、2016年を展望するとリスク管理
の観点からモニタリングの必要性が高い。こうしたなか、新興国の金融政策対応はアジアとそれ以外で二
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2016 年 2 月 3 日
極化している。下記の図表に示されるように、アジアでは原油安でインフレ圧力が和らいでいることから景
気に配慮した利下げが目立つ。マレーシアは金利が上がる状況にあるが、すでに預金準備率の引き下げ
を決めており、今後利下げに動く可能性がある。
■図表:新興国の政策金利(アジア)
8
(%)
インドネシア
7
6
インド
5
中国
フィリピン
4
マレーシア
3
韓国
2
台湾
1
タイ
0
10
11
12
13
14
15
16 (年)
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
一方、中南米では資金流出やインフレを抑えるため、メキシコ、チリ、コロンビア、ペルーが相次いで利上
げを行い、景気不安下での利上げという悪循環にある。通貨安対応の利上げには景気減速を助長する副
作用が懸念される。今年は新興国のモニタリングが重要となるが、これらの金融政策の観点から景気回復
の効果が生じやすいアジアと中南米・アフリカとは大きなかい離がある。今後を展望すれば、深刻度合いは
中南米・アフリカにあり、当該地域への与信の大きい欧州地域に連鎖的に影響が及ぶリスクもあるだろう。
■図表:新興国の政策金利推移(中南米・アフリカ)
15
14
13
12
11
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
(%)
ブラジル
南アフリカ
コロンビア
ペルー
チリ
メキシコ
10
11
12
13
14
15
16
(年)
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
1
2
「金融市場に激震:中国懸念と原油安から再び世界同時株安に」(みずほ総合研究所 『緊急リポート』 2016 年 1 月 27 日)
「新興国不安の現実化リスク」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2015 年 12 月 2 日)
筆者の都合により、2 月 4 日(木)から 2 月 15 日(月)は休刊とさせていただきます。
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