日米株価バリュエーション、日本割安、明暗を分けた

リサーチ TODAY
2016 年 7 月 27 日
日米株価バリュエーション、日本割安、明暗を分けた為替戦争
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
米国の株式市場が史上最高値を更新する堅調な状況だ。ダウ平均は史上最高値を続け、米国株式市
場への安心感が高まっている。この背景には、7月初に発表された6月の雇用統計の結果が改善し、米国
経済への楽観的意識が再び生じたことがある。一方で、英国のEU離脱等も含めた国際的な金融市場の不
安からFRBの緩和的スタンスが続いているので、米国は経済の回復と金融緩和の「良いとこどり」状況にあ
る。すなわち、米国を含め世界的に金利低下が続くなか、下記の図表に示されるように、債券の利回りから
株式の配当利回りを引いたイールドスプレッドは低下基調にあり、債券対比で株式の割高感が台頭してい
ないことも株価の高値を支えているようだ。一方、予想PERは18倍を超えて割高感を示しており、7月末に
かけて本格化する企業決算の状況によっては株価の調整も生じうる。なお、以上のPERとイールドスプレッ
ドでのバリュエーションからみると日本の株式市場は米国と比べかなり割安であるが、日米で大きく明暗が
分かれるのは、為替戦争において日本が敗者になっている面が大きいだろう。
■図表 米国の株式市場の予想PERとイールドスプレッド推移
(倍)
予想PER
19
(%)Pt
イールドスプレッド(右目盛)
4
18
3
17
16
2
15
14
1
13
0
12
11
-1
10
9
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
-2
16 (年)
(注)イールドスプレッドは米 10 年国債利回りから S&P500 指数の配当利回りを引いたもの。
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
次ページの図表は、日本の株式市場のバリュエーションを確認するために、上記の図表の米国と同じ、
PERとイールドスプレッドを示したものだ。現在、日本のPERはBrexitを受けて12倍程度にまで落ち込んだ
後、足元では13倍台に戻しており、歴史的にも割安、かつ先述の米国と比べても大幅に割安である。一方、
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2016 年 7 月 27 日
イールドスプレッドはマイナス2%を大きく超える水準にあり、歴史的に見て債券に比べて株式が極端に割
安な状況にある。また、米国と比べても日本のイールドスプレッドは大幅な割安である。
■図表:日本の株式市場の予想PERとイールドスプレッド
(倍)
(%)Pt
2
予想PER
25
イールドスプレッド(右目盛)
1
20
0
15
-1
10
-2
5
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
-3
(年)
(注)イールドスプレッドは日本の 10 年国債利回りから TOPIX の配当利回りを引いたもの。
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
このように、株価について日本は米国に対して割安であるにも関わらず、米国では史上最高値更新、日
本では年初来の停滞が生じた明暗があるのはなぜだろうか。このカギを握るのは年初来の為替戦争にある
のではないか。すなわち、米国の為替政策が年初来ドル安誘導に転じ、為替による底上げ、「米国第一主
義」になった。その反面、日本はこれまでの円安・株高のアベノミクス・トレードが逆流する状況にある。その
結果、海外投資家主導のシナリオ上、日本には目が向かず、米国の拡大に期待が向かい、日米で明暗が
生じている。
今後を展望すると、足元では日本のヘリコプターマネーへの期待や「ポケモンGo」関連で日本株は戻っ
ても、年後半を展望すれば再び円高不安が生じやすい。従って、日本株が日米のなかで「敗者」として下
押し圧力を受ける不安が続くと展望され、アベノミクスが終わったとの見方も生じやすい。一方、先に示した
日本株のバリュエーションは明らかに割安である。しかも、日本の政治はG7のなかでは最も安定した状況
にあり、世界の政治が混乱するなか、日本社会のボラティリティは低く安全である。また、円高を活かした
M&Aや海外投資等の着実な変化によって日本企業の在り方も進化している。まだ、日本の株式市場の冬
の時期が続くが、来年にかけて為替戦争が一巡すれば、再び日本株が見直される時もある。今日の状況
はそれまでの間の我慢の局面ではないか。
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