リサーチ TODAY 2016 年 1 月 20 日 今年、世界が怯える人民元切り下げ余地、まだ序の口か? 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 昨年8月11日、中国人民銀行が人民元の実質的な切り下げを行ったことが世界の金融市場を揺るがし た。また、年初から世界中の株式市場を揺るがしたのも人民元の下落だった。これは昨年8月に次ぐ、「第2 次人民元ショック」とも言える。下記の図表は2015年以来の上海総合指数と人民元相場の推移である。両 者には強い連動があり、年初来の上海株式の下落も人民元下落に沿った動きだった。中国は2000年代半 ば以降、人民元水準を対ドルで切り上げる政策を続けてきた。この政策の転換は、それまで世界のけん引 役だった中国が近隣窮乏化策である為替切り下げに転じたことを意味する。 ■図表:上海総合指数と人民元相場推移 5,300 (1990年12月19日=100) 4,800 4,300 上海総合指数 3,800 3,300 2,800 (年/月) (元/ドル) 元高 6.15 6.20 6.25 6.30 6.35 6.40 6.45 6.50 元安 6.55 6.60 15/01 第1次人民元ショック CNY 第2次人民元ショック 15/02 15/03 15/04 15/05 15/06 15/07 15/08 15/09 15/10 15/11 15/12 16/01 (年/月) (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 昨日のTODAY1では、2000年代半ば以降の原油価格高騰のスーパーサイクルが振り出しに戻ったとした。 スーパーサイクルを主導した一つに中国の躍進であったとすれば、この躍進に呼応して上昇した人民元相 場と外貨準備のサイクルも振り出しに戻るリスクはないのか。また、人民元の下落はもう終了したのか、それ ともまだ序章に過ぎないのか。中国が深刻なバランスシート調整にあるとすれば、中国が本音では、外需に 依存すべく現在よりかなり低い人民元の水準を念頭に置いている可能性もある。今年、中国はG20議長国 1 リサーチTODAY 2016 年 1 月 20 日 の立場にあることから、近隣窮乏化策と見られかねない人民元の切り下げは極力回避したいだろう。一方 で輸出減少と外貨準備減少のなか、人民元切り下げへの誘因が強いため、世界が人民元切り下げの亡霊 に怯える状況が続きやすい。これは、金融市場において今年最大のリスクシナリオの一つだ。 2000年代半ば以降、中国主導の新興国ブームと原油価格上昇が生じ、下記の図表のように2005年以降、 人民元が切り上げられてきた。グローバルなバランスシート調整の「第3局面」がバランスシート調整の振り 出しである2000年代前半に戻ることを意味するのであれば、その時の為替水準は1ドル=8元台、現在より 30%近い下落になる。中国がG20議長国のメンツにかけて人民元切り下げ抑制のスタンスをとっても、市場 においては中国の本音がかなり低い人民元の水準にあるという思惑が、強まりやすい。 ■図表:中国人民元の推移 (元/ドル) 4.5 元高 5.0 CNY 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 元安 8.5 (年) 9.0 90 95 00 05 10 15 (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 中国の外貨準備のスーパーサイクルも大幅な積み上げから転換した可能性があり、中国政府は外貨準 備低下に強い警戒感を持っている。1994年末の大幅な人民元切り下げが1997年のアジア危機の原因の 一つともされる。今年は世界が中国の為替政策に怯える状況にある。 ■図表:中国の外貨準備推移 4.5 (兆ドル) 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 (年末) 0.0 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 2015 (注)2015 年は 11 月末 (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 1 「原油価格下落はスーパーサイクル一巡、元に戻っただけ」(みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2016 年 1 月 19 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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