リサーチ TODAY 2016 年 8 月 31 日 日本の金利上昇は「コップの中の嵐?」、世界金利は安定 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 下記の図表は、日本の国債利回りの年限別の推移である。振り返れば、今年は大きな変動があった。年 初、日本の金利水準は、5年はほぼゼロ、10年は0.3%程度、20年は1%、40年は1.4%の水準だった。そ の後、1月末にマイナス金利導入が決まり、それに追加緩和観測も加わり、金利の大幅な低下トレンドが続 いた。年初から半年が経過した7月初のボトムの頃の金利水準は、5年は▲0.4%、10年は▲0.3%程度、 20年は0%、40年は0.1%の水準だった。半年間の低下幅は、5年は0.4%Pt、10年は0.6%Pt程度、20年は 1.0%Pt、40年は1.3%Ptと、長期になるほど大幅に低下するイールドカーブのフラット化が生じた。日銀の マイナス金利はあくまでも日銀の当座預金に預ける付利金利の一部を▲0.1%にしただけだったが、国債 市場では長期・超長期ゾーンまでもが大幅に低下した。こうした超長期ゾーンの金利低下は日銀にとっても 想定外だった。また、金融機関にも大きな影響を与えた。一般的に預金金融機関の収支の源泉である総 資金利鞘は長短金利差に依存するため、イールドカーブのフラット化は大幅な収支圧迫の要因になる。ま た、長期の負債をもつ年金の割引率は20年を中心とした超長期ゾーンの金利に連動するため、イールドカ ーブのフラット化は退職給付債務の大幅な拡大につながった。 ■図表:日本の年限別国債利回り推移 1.40 (%) 1.20 5年 1.00 10年 20年 40年 0.80 0.60 0.40 0.20 0.00 -0.20 -0.40 16/01 16/02 16/03 16/04 16/05 16/06 16/07 16/08 (年/月) (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 7月以降20年以上の超長期ゾーンの金利が上昇に転じたのは、50年債の発行観測やヘリコプターマネ ーへの思惑が生じ、超長期ゾーンの発行増に市場が反応したためと考えられる。また、7月の金融政策決 定会合以降に、10年以下の金利が上昇に転じた。これは、日銀が9月の「総括的な検証」に向けて、国債 1 リサーチTODAY 2016 年 8 月 31 日 購入額の減少も含めた見直し(日本版テイパリング)をするとの観測が生じたことによるものだ。 日本の金利の動きを振り返れば、日銀のマイナス金利と、その後の日銀の政策変更の観測や新たな国 債発行といった日本国内の政策・制度要因に大きく反応してきたように見える。一方、下記の図表は日米 独英の有力先進4カ国の10年国債金利の推移を示す。年初、米国は2.3%、英国は1.2%、ドイツは0.6% の水準であったが、その後今に至るまでの9カ月近くの間、いずれの国においても傾向的な金利低下が続 いた。足元、米国についてはジャクソンホールで利上げ観測が再燃したが依然1.6%程度と低水準、英国 は0.5%程度まで大幅に低下し、ドイツも▲0.1%にまで低下した。先に示したように、国内の市場参加者は 日本がマイナス金利によって極端な金利低下が生じたと認識しているように見えるが、海外と比べて日本 の金利低下だけが突出しているのではない。あくまでも海外金利の低下という大きな潮流のなかで日本の 低金利も生じている。 ■図表:日米独英の10年国債金利推移 2.4 (%) 日本 2.1 米国 ドイツ イギリス 1.8 1.5 1.2 0.9 0.6 0.3 0 -0.3 16/01 16/02 16/03 16/04 16/05 16/06 16/07 16/08 (年/月) (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 今後の日本の金利動向は、目先は9月の日銀の「総括的な検証」によって左右される。そこで国債購入 の縮小の観測が強まれば、金利上昇が加速する可能性はある。ただし、筆者は次の2点から金利上昇も自 ずと限られると展望する。第1に先の図表に示されるように、目先で米国の利上げ観測が浮上したものの、 基本的に海外金利が安定しているなか、日本の金利に上昇圧力はかかりにくいからだ。第2は、日銀の「総 括的な検証」で長期金利が上昇し、円高圧力が生じることは日銀として極力回避したいことだからだ。今後、 日銀は国債購入を長期間続けるために、国債購入ペースを縮小することはあっても、長期金利の上昇を抑 える新たな仕組みも考えることになるだろう。その場合、ターゲットが今日まで続けられている量から金利に シフトする可能性もある。 今日、日本のファンダメンタルズ上、長期金利が大きく上昇する力は加わりにくい。今日の長期金利の低 下は日銀による金利低下に支えられた面はあるが、その日銀はあえて金利を上昇させる意図もない。もとよ り、海外の金利環境は安定した状況で大きく変わらない。世界各地で金融政策の限界が議論されるように なり、過度な金利低下を抑制させたいとのバイアスは生じているが、実体経済を底上げさせる金融政策以 外の議論は不在なままだ。そうした中では、たとえFRBの利上げがあっても世界的に金利はなかなか上昇 しにくい。日本の金利の変動はグローバルな潮流のなかで「コップのなかの嵐」ともいえる。 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
© Copyright 2024 ExpyDoc