通貨と株式市場-「通貨安=株高」は本当か?(その 3)

2016 年 6 月 8 日
第 68 号
通貨と株式市場-「通貨安=株高」は本当か?(その 3)
大和住銀投信投資顧問
部長
経済調査部
門司 総一郎
「『通貨安=株高』は本当か?」の第 3 回です。前回「主要国の中で、通貨安=株高の関係になっ
ているのは日本、スイス、米国のみ」と述べました。今回はなぜこの 3 ヵ国はそうなのかについて検
討します。
この 3 ヵ国に共通することは金利水準が低い(低かった)ことで、これが通貨と株式が逆相関の関係
になっている理由です。更に日本とスイスについては恒常的な経常黒字国であることも影響していま
す。以下その仕組みを説明しますが、ここからは便宜上日本・スイス・米国を「低金利国」、その他
の国を「高金利国」と呼ばせていただきます。
下図のように世界景気が好調なときは投資家のリスク許容度が高まり、世界的に株式が上昇します。
ここまでは高金利国でも低金利国でも同じです
景気・リスク許容度と株式・通貨の関係
経済
世界的に好調
世界的に不調
リスク許容
度
世界的に高い
世界的に低い
株式
世界的に上昇
世界的に下落
通貨
高金利通貨上昇/
低金利通貨下落
低金利通貨上昇/
高低金利通貨下落
出所:大和住銀投信投資顧問
一方、為替市場ではリスク許容度が高まると、高い利回りを求めて低金利国から高金利国に資金が
移動します。その結果、低金利国では通貨安、高金利国では通貨高となります。
本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したもので
す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成
者の判断に基づくもので、今後予告なしに変更されることがあり、また当社の他の従業員の見解と異なることがあります。投資に関す
る最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。
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市場のここに注目!
2016 年 6 月 8 日
逆に世界経済が弱いときは世界的に株式は下落しますが、為替市場では低金利国から高金利国に移
動していた資金が自国に回帰するため、低金利国では通貨高、高金利国では通貨安となります。これ
が日本など低金利国では通貨安のときに株高、高金利国では通貨高のときに株高になる仕組みです。
特に日本やスイスは恒常的に経常収支が黒字のため、国内では常に貯蓄過多となっており、そのた
め投資先を求めて資金が海外に出ようとする圧力が存在します。これも両国の通貨と株式が逆相関の
関係にある理由です。
ところで前回少し触れましたが、米国では 2014 年以降ドル高と株高が同時に進行、通貨と株式が逆
相関から順相関に転じつつあるように見えます。一方ユーロ圏では、ユーロ安の中で株式は上昇。こ
ちらは逆に、順相関から逆相関に移行しつつあるようです。この変化は米国およびユーロ圏の金融政
策の変化を反映したものです。
ドル指数とS&P500( 月次、2005-15年)
ユ ー ロの対ドルレー ト とユ ー ロSTOXX( 月次、2005-15年)
2500
120
↑株高
↑ドル高
S&P500(左)
ドル指数(右)
2000
110
500
450
1.8
↑株高
ユーロ(右)
400
1500
100
1000
90
500
80
↑ユーロ高
ユーロSTOXX(左)
1.6
350
300
↓株安
0
2005年
2007年
200
150
↓ドル安
2011年
2013年
1.2
↓株安
100
2005年
70
2009年
1.4
250
2015年
↓ユーロ安
1.0
2007年
2009年
2011年
2013年
2015年
出所:Bloomberg、2005-15年、ドル指数は主要6通貨に対するドルの価値を指数化出所:Bloomberg、2005-15年、ユーロの対ドルレートは1ユーロあたりのドル
米国では 2013 年に当時のベン・バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が金融緩和からの出口
戦略を開始する意向を表明しました。その後バーナンキ議長と後任のジャネット・イエレン議長の下
で量的緩和の終了、更にゼロ金利政策の解除と、着実に出口戦略を進めてきました。
日米独スイスの2年債利回り( 月次)
5.0%
4.0%
米
独
3.0%
日
スイス
2012年
2013年
2.0%
1.0%
0.0%
-1.0%
-2.0%
2008年
2009年
2010年
2011年
2014年
2015年
2016年
出所:Bloomberg、2008-16年
本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したもので
す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成
者の判断に基づくもので、今後予告なしに変更されることがあり、また当社の他の従業員の見解と異なることがあります。投資に関す
る最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。
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市場のここに注目!
2016 年 6 月 8 日
一方、ユーロ圏では 2014 年 6 月には一部の政策金利をマイナスに引下げ、更に 15 年 1 月には大規
模な量的緩和策を開始するなど米国とは逆に金融緩和を強化しています。その結果、以前は米国の方
が低かった 2 年債利回りは逆転、現在は米国の 2 年債利回りが 1%前後で推移する一方、ユーロ圏のそ
れはマイナスです。これが米国、ユーロ圏それぞれにおいて通貨と株式の関係が変化しつつある背景
と考えています。
米国では今後も段階的に政策金利が引き上げられると見ていますが、その場合は通貨と株式の関係
も、引き続き逆相関から順相関に変化していくと思われます。逆にユーロ圏では追加緩和があるかど
うかはともかく、少なくとも出口戦略はまだ先と思われるので、更に逆相関の関係にシフトすること
が考えられます。
日本も出口戦略の開始にはまだ時間がかかると見られるため、しばらくは現在の強い逆相関のまま
でしょう。ただ以上の分析に基づけば、日本の円安=株高、円高=株安の関係は永遠に続くものでな
く、現在の金融緩和からの出口戦略が開始されれば、徐々に修正されていくものと考えられます。
以上のように、日本で円安=株高、円高=株安の関係が見られるのは、どちらが原因で、どちらが
結果というのでなく、世界経済の動向などによる投資家のリスク許容度の変化が原因で、その結果円
安=株高または円高=株安のどちらかが生じるためです。
しかし、それでもまだまだ「円高で業績が悪くなるから株安になるんだ」とお考えの方もいらっし
ゃると思います。そこで次回は通貨、株式と企業業績の関係について考えてみます。
以上
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