リサーチ TODAY 2016 年 1 月 26 日 世界的期待インフレ低下、米国に必要な利上げ休止宣言 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 ECBは1月21日の政策理事会で政策の据え置きを決定したが、次回理事会で政策方針を評価・再検討す る必要性を指摘し、事実上、追加緩和の予告を行った1。ECBが追加緩和の可能性を示唆したのは、昨年10 月22日の理事会以来である。低インフレが続く中ECBが特に注視しているのは、原油価格の下落がコア・イ ンフレ率に及ぼす影響の大きさと、低インフレと期待インフレ率悪化の悪循環だ。米国FRBは昨年12月に利 上げに踏み切っている。本来、利上げを行う「大義」はインフレの抑制であるが、前回の利上げはインフレ懸 念なき利上げだった。今年1月6日に公表された昨年12月のFOMC議事録では、FOMC参加者が示したイン フレ見通しへの不安材料がいくつも示された。下記の図表に示されるように日米欧の期待インフレ率は低下 トレンドが続いている。この背景には原油を中心とした商品価格の低迷がある。同時に世界的バランスシート 調整に伴うディスインフレ不安、物価下落と成長率の低迷で、「日本化」議論が復活しやすい。先週、世界的 に株式市場が反発したのは、ECBの追加緩和に加え、日銀の追加緩和観測も浮上したことによる。世界的 な金融市場のさらなる安定には、FRBも一旦利上げ休止を示す必要があるのではないか。 ■図表:日米欧のインフレ期待推移 (%) 2.5 2 欧州 1.5 米国 1 日本 0.5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 (注)日本、米国:10 年 BEI 2 3 2015年 2014年 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 (月) 2016年 欧州:インフレスワップ 5 年先 5 年 (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 世界的にバランスシート調整に伴う需給ギャップが残存することで物価下落が生じ、下記の図表にあるよ うに長期金利のトレンドも低下を続けている。米国は12月に利上げを行ったが、その後も持続的な利上げ 1 リサーチTODAY 2016 年 1 月 26 日 を市場が織り込めば、長期金利が上昇するはずだ。しかし、現実には利上げで短期金利が上昇しても、先 週の10年長期金利は再び1%台にまで低下した。通常、利上げが続く中では次第に長期金利の上昇が抑 制され長短金利差が縮小し、利上げ最終局面では利上げがあっても長期金利が低下し、逆イールドが生 じるケースが多い。ただし、今回のように最初の利上げから長期金利の低下という反応が見られるのは、そ もそも利上げを行うべき環境ではなかったと市場が評価したことを意味する。 ■図表:日米独10年国債利回りの推移 (%) 3.0 日本 米国 ドイツ 2.0 1.0 0.0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2014年 2 3 2015年 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 (月) 2016年 (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 今般、世界的に金融市場を揺るがした要因は、中国を中心とした新興国の経済不安と原油価格の下落 であった。ただし、こうした状況は昨年来のものである。今年新たに加わったのは、唯一けん引役が期待さ れていた米国の失速不安だった。今週は、26~27日にFRBのFOMC、28~29日に日銀の決定会合が予定 されている、中銀ウィークだ。先週ECBの追加緩和予告があり、今週は日銀の追加緩和観測が高まってい る。本来であればFRBは早めに2回目の利上げを行いたいところだろう。しかし、米国が一旦利上げの休止 を示す方が金融市場は安定するのではないか。ここで、休止の姿勢を示すことは中央銀行にとっては、こ の上ないシェイムであるに違いない。ただし、休止姿勢は株式市場を改善させ、むしろ長期金利を上昇さ せる可能性がある。逆に、こうした環境でFRBが利上げを行えば、長期金利は一層低下し、株価下落のス パイラルが生じうる。FRBの休止宣言を市場が好感し、米国の実体経済の回復が確実なものになれば、 FRBは再び利上げの体制に入ればいい。FRBが年内に何回引き上げるかという思惑が市場の重石になる 状況では、市場の安定は実現しにくい。FRBにはここで戦線建て直しの姿勢も必要ではないか。今年は、 先進国、日米欧の協調姿勢が問われている。 1 松本 惇 「再び追加緩和を示唆する ECB」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 1 月 22 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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