リサーチ TODAY 2016 年 1 月 19 日 原油価格下落はスーパーサイクル一巡、元に戻っただけ 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 原油相場の低迷が続いている。2005年以降、10年近く原油価格高騰を間近に見てきた者にとって、足 元の下落は下げ過ぎに映るのは当然だ。しかし、本論での問題意識はむしろこれまでの10年が異常であり、 今の相場は2005年までの20年以上続いてきたレンジに戻った「ニュー・ノーマル」という見方もできるのでは ないかというものだ。今回の状況について、筆者は今から30年前の1985~86年に起きた原油価格の急落と の類似性を強く意識してきた。当時の「逆オイルショック」は、1970年代の2回の石油危機で高騰した石油 価格が反動で低下した、スーパーサイクルが転換した局面であった。下記の図表は、1985年と今回の原油 価格の動向を振り返ったものである。1985~86年には60%以上の原油価格の低下が生じたが、今回はす でに「逆オイルショック」時を上回る70%以上の下落が生じており、2000年代以降のスーパーサイクルに転 換が生じた可能性がある。昨日のTODAY1では2000年代以降の世界的なバランスシート調整を「第3局面」 としたうえで、更に世界全体を巻き込んだ調整シナリオをリスクシナリオとして「第4局面」と名付け議論した。 そこでは、世界的バランスシート調整と資源価格安とは一体化するとした。 ■図表:最近の原油価格(WTI)推移 40 (ドル/バレル) 120 (ドル/バレル) 110 100 30 90 80 20 70 ▲66.5% 60 50 10 40 ▲72.6% 30 0 85 86 (年) 20 14 15 16 (年) (注)1985/11/20(終値)と 1986/3/31(最安値)との比較 。2014/6/20(終値)と 2016/1/15(最安値)との比較。 (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 今年1月7日、WTI原油は33ドル台になり、リーマンショック後の水準を下回り、2004年1月以来12年振り の低水準となった。次ページの図表は1990年以降WTIの長期推移を示す。2000年代半ばまでの30年近く 1 リサーチTODAY 2016 年 1 月 19 日 は、WTI原油が20ドル台、30ドル台の水準であった。そうした長期トレンドを破る高騰局面が2000年代半ば 以降生じた。欧米先進国のサブプライム景気や欧州統合景気に伴う世界的な需要拡大・信用拡張、更に、 中国を中心としたBRICS諸国の急拡大といった潮流から、WTIは急速に上昇し、2008年後半には147ドルと いう史上最高値を付けた。その後、リーマンショックの反動からWTIは一時的に急落したものの、2008年後 半以降、中国を中心とした新興国経済への期待からWTIは再び100ドル以上の状況を続けていた。これら の動きは、我々が2000年代以降の世界のバランスシート調整の第1局面、第2局面、第3局面と名付けた環 境変化とも整合的である。すなわち、第1局面では、先進国の信用拡張に加えその後の新興国の拡張(新 興国バブル)によって、スーパーサイクル内で10年程度の原油価格高局面が形成された。しかし、今日、第 3局面に入り新興国で調整が始まっているなか、過去10年の底上げ局面が終焉し、原油価格は振り出しで ある2000年代前半の水準まで戻ったとみることができる。供給面でも原油の超過供給を示す要因は多い。 米国とOPECの原油生産は依然、高水準である。経済制裁の解除によってイランの原油輸出が拡大すれ ば更なる原油価格の下落シナリオも生じうる。 ■図表:原油相場推移 (ドル/バレル) 140 130 120 110 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 90 ブレント 新興国バブル WTI (年) 95 00 05 10 15 (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 現在は、新興国市場の低迷を背景に原油価格の低迷が長期化する環境を覚悟すべき、新たなレジーム にあり、新興国経済のバランスシート調整(新興国バブル崩壊)と原油需要の低迷とはセットで捉える必要 がある。昨年5月、日本経済新聞出版社より『激震 原油安経済2』を当社は刊行している。原油価格暴落と 新興国経済減速は別個のものではなく、一体として世界経済がこれに対処しなくてはいけない新たな局面 が到来しているのだというのが、『激震 原油安経済』のメッセージだ。2014年半ばに原油価格下落が始ま って以来1年以上が経過した。原油安状況が続くことを前提とした場合、エネルギー関連の投資抑制等の 調整も起こりうると認識すべきだろう。1年以上の原油安が継続してきたことから、多くの企業や投資家はリ スク管理上、損切も含め新たな対応への決断が迫られる。北米を中心にエネルギー企業の破綻事例が生 じる可能性もあるだろう。 1 2 「世界バランスシート調整『第 4 局面』のリスクは世界連鎖不況」(みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2016 年 1 月 18 日) 『激震 原油安経済』(みずほ総合研究所編著 日本経済新聞出版社 2015 年 5 月) http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/book/150501.html 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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