(2016/1/28)韓国で証券型クラウドファンディングがスタート

新生ストラテジーノート 第 213 号
2016 年 1 月 28 日
調査部長 江川 由紀雄
[email protected]
(03) 6880-6035
韓国で証券型クラウドファンディングがスタート
施行日初日からプラットフォーム業者が営業開始、既に実績が
韓国の金融員会発表資料によると、2015 年 7 月の資本市場法改正によって導入された証券
型クラウドファンディング制度が 2016 年 1 月 25 日に施行 1された。複数の報道 2によると、施行
日となった 1 月 25 日の初日から 5 社のクラウドファンディング業者が登録を受け、業務を開始し
たようである。最初の実績となる案件についての報道も見られる。韓国では既に証券型クラウドフ
ァンディングが現実のものになっている。
クラウドファンディング(crowdfunding)は、ネットを通じて、多数の投資者から小口の資金を
募る資金調達手法のことである。クラウド(crowd)は群衆を意味する。韓国のクラウドファンディ
ング制度では、企業がこの手法を用いて調達できる金額は年間 7 億ウォン、ひとりの投資者が出
資できる金額は同一企業に対して年間 200 万ウォン、総額年間 500 万ウォンの上限が設けられ
ている。出資可能額は、一定の所得要件を満たす者については、同一企業に対して年間 1000
万ウォン、総額年間 2000 万ウォンとなる。
日本は 2014 年に金商法を改正して株式型クラウドファンディング制度を導入した
日本では、既に株式型クラウドファンディング制度は既に施行されているものの、実績としての
実例が存在しない。一昨年の金融商品取引法改正(2014 年 5 月 23 日国会通過・成立、同 30
金融委員会 2016 年 1 月 19 日 크라우드펀딩 활성화 방안 (クラウドファンディング活性化
方案)
1
http://www.fsc.go.kr/info/ntc_bref_view.jsp?menu=7210200&bbsid=BBS0029&no
=31891
金融監督院 2016 年 1 月 20 日 (同上)
http://www.fss.or.kr/fss/kr/promo/bodobbs_view.jsp?seqno=19162
2
例 と し て Money Today 크라우드펀딩 시행 둘째날…3 개 업체 펀딩 성공 '순항'
2016.1.26 http://news.mt.co.kr/mtview.php?no=2016012617282397822
News Is 25 일 크라우드펀딩제도 시행…5 개사 청약 개시 2016.1.24
http://news.inews24.com/php/news_view.php?g_serial=939688&g_menu=02240
0&n_favtab=2
1
1
新生ストラテジーノート
新生証券株式会社 調査部
日公布、2015 年 5 月 27 日施行)により、少額電子募集取扱(インターネットを利用する方法によ
るもので、募集又は売出の総額 1 億円未満、ひとりあたり 50 万円以下)に限り、第一種金融商品
取引業者による未公開株式等の勧誘等を可能にするもの 3である。第一種金融商品取引業者は、
主に証券会社として知られる事業者である。また、いわゆる証券会社(既に第一種金融商品取引
業者として登録を受けている業者)以外の事業者による勧誘等も想定されている。少額電子募集
取扱等のみを扱う第一種少額電子募集取扱業者については、兼業規制が大幅に緩和されている
ため、たとえば、ゲームソフトの開発会社などが登録を受けて営むことも想定される。もっとも、筆
者の知り得る限り、本稿執筆時点では、第一種少額電子募集取扱業者として登録を受けた業者
の事例はない。第一種金融商品取引業者の自主規制機関である日本証券業協会は、株式投資
型クラウドファンディングの事例について、協会員による取扱状況を調査し、月次で公表している 4
が、取扱実績が本稿執筆時現在では 1 件もないようである。
もっとも、日本で実現していないのは、株式型のクラウドファンディングである。クラウドファンデ
ィングとは、インターネットを用いて、小口の資金を募ることであるが、資金を募る事業者は株式会
社に限定されず、資金の性質は株式の払い込み代金に限られるものではない。既に 2008 年頃
から「マイクロ投資」や「クラウドファンディング」のプラットフォームを提供する複数の事業者が活
動しており、最近では新規参入事例も見られる。こうした日本に数年前から存在するクラウドファ
ンディングは、「寄付型」、「売買・役務提供型(購入型)」(資金の拠出者が、事業者から割引券や
商品などを受領する)、「出資型(投資型)」(事業者を営業者とする匿名組合契約を締結させる)、
「貸付型」(投資家から調達した資金を事業者に貸し付ける)の 4 類型に分類される 5とされる。
日本における金商法改正による株式型クラウドファンディング制度導入を振り返る
日本における株式型クラウドファンディング制度の法制化の過程を簡単に振り返っておく。麻生
太郎副総理兼財務大臣兼金融担当大臣が、2013 年 3 月に産業競争力会議で「規制改革会議と
も連携しながら、クラウドファンディングや地域における資本調達等を促す仕組み」を導入すると
の発言を行った 6。その翌月、2013 年 4 月には、日本証券業協会に「新規・成長企業へのリスク
3
金融庁のウェブサイトに改正の概要、新旧対照表等が掲載されている。 金融庁 金融商品取
引法等の一部を改正する法律
4
http://www.fsa.go.jp/common/diet/
日本証券業協会 「株式投資型クラウドファンディング」
http://market.jsda.or.jp/shiraberu/kabucrowdfunding/toriatsukai/
5 有吉尚哉 「クラウドファンディングの類型と規制の適用関係」 『NBL』 No. 1009 (2013 年 9
月 15 日号) 商事法務
6
2014 年 3 月 15 日に開催された産業競争力会議第 4 回会合。議事要旨、配布資料等は、首
2
2
新生ストラテジーノート
新生証券株式会社 調査部
マネー供給に関する検討懇談会」 7が設置され、続けて、2013 年 6 月に金融審議会に「新規・成
長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」 8が設置された。
日証協の「新規・成長企業へのリスクマネー供給に関する検討懇談会」は 2013 年 6 月に報告
書をとりまとめた。金融審議会の「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワ
ーキング・グループ」は、2013 年 12 月に報告書をとりまとめた。これは 2014 年 2 月の金融審
議会総会で採択され、金融担当大臣に対する答申となった。これを受けて、2014 年 3 月には、
金融商品取引法の改正法案が閣議決定された。
当該法案は、国会提出、2014 年 5 月 23 日に国会を通過して成立、5 月 30 日に公布された。
クラウドファンディング関連の条文は 2015 年 5 月 27 日に施行された。日本証券業協会は協会
員によるこうした業務に対応するために、クラウドファンディングに関する新たな自主規制規則を
制定し、未公開株の取り扱い等に関するいくつかの自主規制規則を改正 9した。日本証券協協会
は、ホームページ上に株式型クラウドファンディングに関する情報の掲載を行っている 10。
韓国の資本市場法が改正(2015 年 7 月)される前から日本には株式型クラウドファンディング
制度が既に施行済みの法令に基づく制度の形で存在していたのである。しかし、実績面では韓国
が先行することになった。
(調査部長 江川 由紀雄)
相官邸のウェブサイトに掲載されている。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/kaisai.html
日本証券業協会 「新規・成長企業へのリスクマネー供給に関する検討懇談会」
7
http://www.jsda.or.jp/katsudou/kaigi/chousa/risk_money/index.html
金融庁 金融審議会 「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキン
グ・グループ」
8
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/base_gijiroku.html#risk_money
9 日本証券業協会 「金融商品取引業の拡大等に伴う自主規制規則の一部改正等について」
平成 27 年 5 月 19 日
http://www.jsda.or.jp/shiraberu/greensheet/files/equity_20150519.pdf
10 日本証券業協会 「株式投資型クラウドファンディングとは」
http://market.jsda.or.jp/shiraberu/kabucrowdfunding/
3
3
新生ストラテジーノート
新生証券株式会社 調査部
4
名称
:新生証券株式会社(Shinsei Securities Co., Ltd.)
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第95号
所在地
:〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号
日本橋室町野村ビル
Tel : 03-6880-6000(代表)
加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会
資本金
:87.5 億円
主な事業 :金融商品取引業
本書に含まれる情報は、新生証券株式会社(以下、弊社)が信頼できると考える情報源より取得されたものですが、弊社
はその正確さについて意見を表明し、または保証するものではありません。情報は不完全または省略されたものである
ことがあります。本書は、有価証券の購入、売却その他の取引を推奨し、または勧誘するものではありません。本書は、
特定の商品やサービスの勧誘・提供を行う目的で作成されたものではありません。本書で言及されている投資手法や取
引については、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。また、これらの投資手法や取引について
は、金融市場や経済環境の変化もしくは価格の変動等により、損失が生じるおそれがあります。本書に含まれる予想及
び意見は、本書作成時における弊社の判断に基づくものであり、予告なしに変更されることがあります。弊社またはその
関連会社は、本書で取り扱われている有価証券またはその派生証券を自己勘定で保有し、または自己勘定で取引する
ことがあります。弊社は、法律で許容される範囲において、本書の発表前に、そこに含まれる情報に基づいて取引を行う
ことがあります。弊社は本書の内容に依拠して読者が取った行動の結果に対し責任を負うものではありません。本書は
限られた読者のために提供されたものであり、弊社の書面による了解なしに複製することはできません。
信用格付に関連する注意 本書は、金融商品取引契約の締結の勧誘を目的としたものではありません。本書で言及ま
たは参照する信用格付には、金融商品取引法第 66 条の 27 の登録を受けていない者による無登録格付が含まれる場
合があります。
4
著作権表示 © 2016 Shinsei Securities Co., Ltd. All rights reserved.