内積の定義について

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線形代数学 B
内積の定義について
§16.1 ではベクトル空間の内積を 4 つの条件 (1)–(4) をみたすものとして定義したが, 文献によっては
(2) 任意の a ∈ K と x, y ∈ V に対し, (x, ay) = a(x, y)
の代わりに
(2)∗ 任意の a ∈ K と x, y ∈ V に対し, (ax, y) = a(x, y)
を採用していることもある. 後者の流儀で内積を定義しても, これまでに述べた定理等は同様に成り立つの
だが, 修正が必要なものも少なくない. 例えば, 例 16.3 で定義した Kn の標準的な内積
(x, y) = x∗ y =
n
∑
xi yi
i=1
は, 条件 (2)∗ をみたすように
(x, y) = t x y =
n
∑
xi yi
i=1
と修正しなければならない. 命題 16.14 の (2) にある
x=
r
∑
(xi , x)
i=1
についても,
x=
∥xi ∥2
r
∑
(x, xi )
i=1
∥xi ∥2
xi
xi
とする必要がある. これに続く直交射影や Schmidt の直交化についても同様である.
なお, R 上の計量ベクトル空間だけを考えるのであれば, 条件 (2), 条件 (2)∗ のどちらを採用しても定義
される概念は全く同じものであり, 従って定理等の修正は不要である.