6.3 6.3.1 線形写像 6.3.2 線形写像の行列表示 前期に学んだことを少し復習する.V , W が数ベクトル空間であるとき,つまり V = Rn , 線形写像の定義 W = Rm としたとき,T : Rn → Rm が線形写像であることと,適当な m × n 行列 A を用いて T (x) = Ax (x ∈ Rn ) と表されることは同値である.このとき A を T を表す行列といい,逆に 集合 A から B への写像 f : A → B とは,A の元 a に B の元 f (a) を対応させる規則のことで あり,関数概念の一般化であった(前期第 5 回).特に定義域と値域が等しい写像,つまり A か T を A より定まる線形写像といった. このように数ベクトル空間の場合,Rn の座標を使えば,線形写像は行列で表された.一般の線 形空間の場合でも,基底を用いて座標を導入すれば,同じように線形写像が行列で表されることを ら A への写像を A 上の変換といった. 線形空間とは要するにベクトルの演算がうまくできる集合のことなので,線形空間から線形空間 への写像を考えるとき,ベクトル演算と相性のよいものを考えると都合がよい.それをまず定義 これから説明する. する. 簡単のため,ここでは T が有限次元線形空間 V 上の線形変換,即ち V から V への線形写像の V , W を線形空間とする.写像 T : V → W が次の二つの条件を満たすとき,T は線形写像 (あ るいは一次写像) であるという: 場合を考える.一般の場合はプリントの最後に書いておく. v 1 , . . . , v n を n 次元線形空間 V の基底とし,以下簡単のため,これを {v i } と略記することに する.線形変換 T : V → V があるとする.このとき T (v j ) は V の元であり,{v i } は V の基底 (L1) 任意の u, v ∈ V に対し T (u + v) = T (u) + T (v) が成り立つ. であるから,{v i } より定まる V の座標系を考えることにより,T (v j ) を (L2) 任意の v ∈ V と任意のスカラー k ∈ R に対し T (kv) = kT (v) が成り立つ. ( T (v j ) = v 1 これは前期 6 回目に定義したことを,一般の線形空間に拡張したものである. ( ) ( x cos θ T( )= y sin θ 例 6.3.1 (1) 原点を中心とする θ 回転 )( ) − sin θ x cos θ y a1j ) .. vn . anj ... は R2 上の線形変 (j = 1, 2, . . . , n) と表すことができる.これをまとめて書くと 換である. (2) a2 , . . . , an ∈ R を定ベクトルとする.このとき x 7→ det(x, a2 , . . . , an ) n ( n は R から R T (v 1 ) . . . への線形写像である.これは行列式の性質 (D1), (D2) を言い換えただけである. (3) 微分可能な関数にその導関数を対応させる写像 f (x) 7→ f ′ (x) 集合 Pn 上の線形変換である. ) ( T (v n ) = v 1 ... ) v n A, は n 次以下の多項式全体の (4) 閉区間 [0, 1] 上の実数値連続関数全体の集合を C[0, 1] とすると C[0, 1] から R への線形写像である. a11 . A = .. an1 ... .. . ... a1n .. . ann となる.このとき,右辺に出てきた n 次正方行列 A を基底 {v i } に関して T を表す行列あるいは f (x) 7→ ∫1 0 f (x)dx 基底 {v i } に関する T の表現行列という.以上の状況設定の下で,基底 {v i } に関する座標とこの は 行列を使えば,線形変換 T を次のように行列の積で表すことができる. ( 命題 6.3.3 線形変換 T によって v 1 線形写像の基本的な性質を述べておこう. 命題 6.3.2 T : V → W , S : W → U を線形写像とする. ... x1 ) ( .. ∈ V は vn v1 . xn ... x1 ) .. vn A . ∈V に xn 写される. (1) T (0) = 0 (2) 合成写像 S ◦ T も線形写像である. (3) T が逆写像 T −1 を持つなら,T −1 6.3.3 も線形写像である. 基底変換との関係 今説明したように,ある基底から定まる座標を用いれば,線形写像を行列で表すことができる. では基底を取り替えたとき (つまり座標系を取り替えたとき) に,線形写像の表現行列はどう変化 するであろうか. 先ほどと同様に,V を n 次元線形空間とし,T : V → V を線形変換とする.V に二つの基底 {v i }, {v ′i } があるとき,これにより V に二つの座標系が導入されたことになるが,その座標変換 41 を与えるのが前回学んだ基底変換行列である.{v i } から {v ′i } への基底変換行列を P とすれば, 定義により ( ) v ′1 ( v ′n = v 1 ... 証明方法は線形変換の場合 (つまり W = V の場合) とほぼ同じである.逆に定理 6.3.6 におい て,W = V , {wi } = {v i }, {w′i } = {v ′i } とすれば先ほどの W = V の場合の結果が得られる. ) vn P ... が成り立つ.一方,基底 {v i } に関する T の表現行列を A とし,基底 {v ′i } に関する T の表現行 列を A′ とすると,定義により ( T (v 1 ) ( T (v ′1 ) ) ( T (v n ) = v 1 ) ( T (v ′n ) = v ′1 ... ... ... ... 練習問題 22 ) vn A ) v ′n A′ 22-1. R2 上の線形変換 T : R2 → R2 を ( ) ( )( ) x 2 −5 x T( )= y −1 3 y が成り立つ.これらの等式から,次の結果が得られる. 定理 6.3.4 以上の状況の下で 6.3.4 ′ A =P −1 AP で定める. ( ) 2 (1) T による点 の像を求めよ. 1 が成り立つ. 一般の線形写像の場合 (2) T による直線 2x + y = 0 の像を求めよ. (ここまでは線形変換を思い出すための復習) ( ) ( ) 3 −2 , v2 = とする.R2 の標準基底 e1 , e2 から基底 v 1 , v 2 への基底変換 (3) v 1 = −1 1 行列を求めよ. 今まで V 上の線形変換 T : V → V の場合のみ考えてきたが,定義域と値域が異なる一般の線 形写像 T : V → W の場合には,今日述べた定理は以下のようになる. v 1 , . . . , v n と w1 , . . . , wm をそれぞれ有限次元線形空間 V , W の基底とする. T : V → W が線形写像であるとき, ( ) ( T (v 1 ) . . . T (v n ) = w1 ... ) wm A (4) 基底 v 1 , v 2 に関して T を表す行列を求めよ. ( ) ( ) −1 (5) 点 v 1 v 2 の T による像を,基底 v 1 , v 2 に関する座標で表せ. 1 となる m × n-行列 A がただ一つ存在する.これを基底 {v i }, {wi } に関して T を表す行列あるい は基底 {v i }, {wi } に関する T の表現行列という. ( 命題 6.3.5 このとき, v 1 ... x ) 1 ( .. vn . ∈ V は T によって w1 xn ) ... wm 22-2. x に関する2次以下の多項式全体の集合を P2 と表す.f (x) ∈ P2 にその導関数 f ′ (x) を対応 させる写像 x1 . . A . ∈W xn T : P2 → P2 , は P2 上の線形変換である.基底 1, x, x2 に関して T を表す行列を求めよ. に写される. 定理 6.3.6 V , W を有限次元線形空間とする.V の基底 {v i } から {v ′i } への基底変換行列を P とし,W の基底 {wi } から {w′i } への基底変換行列を Q とする: ( ) ( ) v ′1 . . . v ′n = v 1 . . . v n P, ) ( ) ( w′1 . . . w′m = w1 . . . wm Q. 線形写像 T : V → W を,基底 {v i }, {wi } に関して表す行列を A, 基底 {v ′i }, {w′i } に関して表す 行列を A′ とする: ( ( T (v 1 ) ... T (v ′1 ) ... このとき二つの行列 A, A′ の間には ) ( T (v n ) = w1 ) ( T (v ′n ) = w′1 A′ = Q−1 AP ... ... T (f ) = f ′ (x) ) wm A, ) w′m A′ . という関係がある. 42
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