第 6 章 関数の凹凸. 極値と増減 本章においては, 関数の凹凸, 極値と増減について考察する. それ によって, 関数のグラフの凹凸, 極値と増減についての幾何学的特 徴について考察する. 6.1 関数の凹凸 本節においては関数の凹凸の概念について考察する. 一般に, 平面 R2 の集合 D が凸集合であるということは, D の中 の任意の 2 点 x, y を結ぶ線分が D に含まれることであると定義 する. いま, r 1 = t (x1 , y1 ), r 2 = t (x2 , y2 ) と表すとき, 2 点 r 1 と r 3 を 結ぶ線分 r 1 r 2 上の点 r = t (x, y) は, 条件式 x = (1 − λ)x1 + λx2 , y = (1 − λ)y1 + λy2 , (0 ≤ λ ≤ 1) (6.1.1) によって表される. このとき, 集合 D が凸集合であるための必要十分条件は, 任意の 2 点 r 1 = t (x1 , y1 ), r = t (x2 , y2 ) ∈ D に対し, 条件 0 ≤ λ ≤ 1 を満 たすすべての λ に対し, 式 (6.1.1) によって定められる点 r = t (x, y) が D に属することである. 閉区間 [a, b] において定義された関数 y = f (x) が凸関数である とは, 集合 D = {(x, y); f (x) ≤ y, a ≤ x ≤ b} (6.1.2) 1 が凸集合であることと定義する. このとき, 閉区間 [a, b] において定義された関数 y = f (x) が凸 関数であるための必要十分条件は, 曲線 y = f (x) 上の任意の 2 点 (x1 , f (x1 )) と (x2 , f (x2 )) を結ぶ線分が集合 D に属することである. したがって, 関数 y = f (x), (x ∈ [a, b]) が凸関数であるための 必要十分条件は, [a, b] の任意の 2 点 x1 , x2 , (x1 < x2 ) に対し, 不 等式 f (ξ) ≤ f (x1 ) + f (x2 ) − f (x1 ) (ξ − x1 ), (ξ ∈ [x1 , x2 ]) x2 − x1 (6.1.3) が成り立つことである. いま, ξ ∈ [x1 , x2 ] を, パラメーター λ, (0 ≤ λ ≤ 1) を用いて, ξ = (1 − λ)x1 + λx2 (6.1.4) と表すとき, 式 (6.1.3) は, 不等式 f ((1 − λ)x1 + λx2 ) ≤ (1 − λ)f (x1 ) + λf (x2 ), (0 ≤ λ ≤ 1) (6.1.5) と同値である. 関数 y = f (x) が凸関数であることを, 関数 y = f (x) は下に凸で あるということがある. このことを, 関数 y = f (x) は上に凹である ことがある. このとき, 曲線 y = f (x) は下に凸であるという. ある いは, 曲線 y = f (x) は上に凹であるという. また, 関数 y = f (x) が凹関数であるということは, 集合 D = {(x, y); y ≤ f (x), a ≤ x ≤ b} が凸集合であることと定義する. 関数 y = f (x) が凹関数であるこ とを, y = f (x) は上に凸であるということがある. これは, また, 関数 y = f (x) が下に凹であるということもある. このとき, 曲線 y = f (x) は上に凸であるという. あるいは, 曲線 y = f (x) は下に凹 であるという. 2 定理 6.1.1 閉区間 [a, b] において定義された関数 y = f (x) が 凸関数であるとすると, 開区間 (a, b) において, 次の (1)∼(4) が成 り立つ: (1) y = f (x) は連続である. (2) 右微分係数 f+′ (x) と左微分係数 f−′ (x) が存在する. (3) 不等式 f−′ (x) ≤ f+′ (x) が成り立つ. (4) f+′ (x) と f−′ (x) は非減少である. 系 6.1.1 関数 y = f (x) は, 閉区間 [a, b] において連続で, 開区 間 (a, b) において微分可能であるとする. このとき, 次の (1) と (2) は同値である: (1) 関数 y = f (x) が閉区間 [a, b] において凸関数である. (2) 導関数 f ′ (x) は開区間 (a, b) において非減少である. すなわち, x1 , x2 ∈ (a, b) に対し, x1 < x2 であるならば, f ′ (x1 ) ≤ f ′ (x2 ) が成り立つ. 定理 6.1.2 関数 y = f (x) は, 閉区間 [a, b] において連続で, 開 区間 (a, b) において微分可能であるとする. このとき, 次の (1) と (2) は同値である: (1) y = f (x) は凸関数である. (2) y = f (x) のグラフが, 各点 x ∈ [a, b] における y = f (x) の 接線の上側にある. すなわち, 任意点 c ∈ (a, b) に対して, 不 等式 f (x) ≥ f (c) + f ′ (c)(x − c), (a ≤ x ≤ b) が成り立つ. 3 注意 6.1.1 定理 6.1.2 において, 関数 y = f (x) のグラフと各 点 c ∈ (a, b) における y = f (x) の接線との交わりが接点のみであ るならば, 関数 y = f (x) は狭義の凸関数であるという. すなわち, y = f (x) が狭義の凸関数であるための条件は, 任意の c ∈ (a, b) に 対し, 不等式 f (x) > f (c) + f ′ (c)(x − c), (a ≤ x ≤ b, x ̸= c) が成り立つことである. 注意 6.1.2 系 6.1.1 においては, (a, b) における f ′ (x) の存在を 仮定しただけで, f ′ (x) の連続性は仮定されていない. しかし, f ′ (x) が非減少であるから, x ∈ (a, b) において, f±′ (c) = lim f ′ (x), (複号同順) x→c± 0 が成り立つ. ゆえに, x ∈ (a, b) において, f ′ (x) が連続であること がわかる. 定理 6.1.3 関数 f (x) は閉区間 [a, b] において連続で, 開区間 (a, b) において 2 回微分可能であるとする. このとき, 関数 f (x) が 凸関数であるための必要十分条件は, x ∈ (a, b) において, f ′′ (x) ≥ 0 が成り立つことである. 特に, x ∈ (a, b) において, f ′′ (x) > 0 が成 り立つならば, 関数 f (x) は狭義の凸関数である. 点 c において微分可能な関数 f (x) が点 c において下に凸である ということは, 点 c の十分小さな近傍において, 不等式 f (x) > f (c) + f ′ (c)(x − c), (x ̸= c) が成り立つことであると定義する. また, 上と同様に, 関数 f (x) が点 c において上に凸であるという ことは, 点 c の十分小さな近傍において, 不等式 f (x) < f (c) + f ′ (c)(x − c), (x ̸= c) 4 が成り立つことであると定義する. 点 c において微分可能な関数 f (x) に対し, 点 (c, f (c)) が変曲点で あるということは, 十分小さな正の数 δ > 0 に対し, (c − δ, c) にお いて下に凸で, (c, c + δ) において上に凸であるか, または (c − δ, c) において上に凸で, (c, c + δ) において下に凸であるかいずれかが成 り立つことであると定義する. 関数 f (x) が点 c の近傍において 2 回微分可能であるとき, 点 (c, f (c)) が変曲点であるならば, f ′′ (c) = 0 が成り立つ. しかし, この逆は一般には成り立たない. すなわち, f ′′ (c) = 0 であったとし ても, 点 (c, f (c)) が変曲点であるとは限らない. 一般に, 高次導関数を用いて曲線の凹凸を判定できる. これに関 して次の定理が成り立つ. 定理 6.1.4 n ≥ 2 であるとし, 関数 f (x) が x = c のある近傍 において n 回微分可能であって, f (n) (x) は点 c において連続である とする. さらに, 条件 f ′′ (c) = f ′′′ (c) = · · · = f (n−1) (c) = 0, f (n) (c) ̸= 0 が成り立っているとする. このとき, 次の (1), (2) が成り立つ: (1) n が偶数である場合には, 次の (i), (ii) が成り立つ: (i) f (n) (c) > 0 であるならば, f (x) は点 c において下に凸 である. (ii) f (n) (c) < 0 であるならば, f (x) は点 c において上に凸 である. (2) n が奇数である場合には, 点 (c, f (c)) は変曲点である. 5 6.2 極値と増減 本節においては, 関数の極値と増減について考察する. 関数 f (x) が点 x0 において極小であるということは, 十分小さな 正の数 δ > 0 に対し, 0 < |x − x0 | < δ ならば, f (x) − f (x0 ) > 0 が成り立つことであると定義する. このとき, f (x0 ) は極小値である という. 同様に, 関数 f (x) が点 x0 において極大であるということは, 十 分小さな正の数 δ > 0 に対し, 0 < |x − x0 | < δ ならば, f (x) − f (x0 ) < 0 が成り立つことであると定義する. このとき, f (x0 ) は極大値である という. f (x0 ) が極値であるということは, f (x0 ) が極小値であるか極大値 であることと定義する. f (x0 ) が弱い意味の極小値であるということは, x0 の十分小さな 近傍において, 不等式 f (x) ≥ f (x0 ) が成り立つことと定義する. 同様に, f (x0 ) が弱い意味の極大値であるということは, x0 の十 分小さな近傍において, 不等式 f (x) ≤ f (x0 ) が成り立つことと定義する. 定理 6.2.1 関数 f (x) は点 x0 のある近傍において定義されてい るとする. このとき, 次の (1)∼(3) が成り立つ: 6 (1) f (x) が点 x0 において微分可能で, f (x0 ) が極値であるなら ば, f ′ (x0 ) = 0 が成り立つ. (2) f (x) は点 x0 において連続で, x0 を除く x0 の近傍において 微分可能であって, f ′ (x) が点 x0 において符号が変わるなら ば, f (x0 ) は極値である. (3) f (x) は点 x0 のある近傍において微分可能で, f ′ (x0 ) = 0 で あるとする. さらに, f ′′ (x0 ) が存在するとき, 次の (i), (ii) が 成り立つ: (i) f ′′ (x0 ) > 0 ならば, f (x0 ) は極小値である. (ii) f ′′ (x0 ) < 0 ならば, f (x0 ) は極大値である. f (x) が点 x0 において微分可能であるとき, f (x0 ) が停留値で, 点 x0 が停留点であるということは, f ′ (x0 ) = 0 が成り立つことである と定義する. f ′ (x0 ) = 0 であるという条件は f (x0 ) が極値であるこ との必要条件であるが, 逆は必ずしも成り立たない. f ′ (c) = 0 の場合も含めて, 一般に高次導関数を用いて f (c) が極値 であるかどうかの判定ができる. これに関して次の定理が成り立つ. 定理 6.2.2 n ≥ 2 であるとし, 関数 f (x) が点 c のある近傍にお いて n 回微分可能で f (n) (x) は点 c において連続であるとする. さ らに, 条件 f ′ (c) = f ′′ (c) = · · · = f (n−1) (c) = 0, f (n) (c) ̸= 0 が成り立つとする. このとき, 次の (1), (2) が成り立つ: (1) n が奇数である場合には, 次の (i), (ii) が成り立つ: (i) f (n) (c) > 0 ならば, f (x) は点 c において増加の状態に ある. 7 (ii) f (n) (c) < 0 ならば, f (x) は点 c において減少の状態に ある. (2) n が偶数である場合には, 次の (i), (ii) が成り立つ: (i) f (n) (c) > 0 ならば, f (c) は極小値である. (ii) f (n) (c) < 0 ならば, f (c) は極大値である. 8
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