4.7 と定めると (右辺は 2 次正方行列 A と 2 × 1 行列 x との積),これは上記の (L1), (L2) を満たす 線形写像 ので,今回定義した意味で R2 上の線形変換である. 後期これまでの講義では,和とスカラー倍という演算がうまく定義された集合として,線形空間 もっと一般に,V = K n , W = K m とし, A を K 係数の m × n 行列として を扱ってきた.線形空間 V の部分空間とは,V のベクトルの演算と相性のよい部分集合のことで TA : K n → K m , あった.同様に考え,線形空間 V から線形空間 W への写像で,ベクトルの演算と相性のよいも のを考えよう.なお,前回のプリントにも書いたが,写像の用語については,前期第 2 回のプリン 例 4.7.3 K = R または C として,K 係数 n 次以下の多項式からなる線形空間 V , W を K 上の線形空間とする.写像 T : V → W が x, y ∈ V ⇒ x∈V, k ∈K (x ∈ K n ) と定めると,これは V = K n から W = K m への線形写像である. トを参照すること. (L1) (L2) TA (x) = Ax Pn (K) = {a0 + a1 x + · · · + an xn | a0 , . . . , an ∈ K} T (x + y) = T (x) + T (y) ⇒ T (kx) = kT (x) を考える.ここで f ∈ Pn (K) に対し を満たすとき,T を線形写像 (linear map) あるいは一次写像という.特に V = W のとき,T を T (f ) = V 上の線形変換あるいは一次変換という.なお,スカラー K を明示したいときは,K-線形写像と いう. 線形写像について,次が成り立つことは容易に証明できる. df dx とすると,これは Pn (K) 上の線形変換である. 例 4.7.4 f : R → R, f (x) = x2 は線形写像でない. 命題 4.7.1 T : V → W , S : W → U を線形写像とする. 上の例 4.7.2 では,行列 A から線形写像 TA を構成した.実はある意味でこの逆が言える.即 ち,有限次元線形空間に対し,基底を用いて座標系を導入すれば,(L1), (L2) の性質を満たす (抽 (1) T (0) = 0 象的な) 線形写像を,行列で表すことができる.これについて説明しよう. n 次元線形空間 V の基底 v 1 , . . . , v n と m 次元線形空間 W の基底 w1 , . . . , wm をとる.こ (2) 合成写像 S ◦ T も線形写像である. こで V から W への線形写像 T があるとき,T (v j ) (j = 1, 2, . . . , n) はどれも W の元であり, (3) T が逆写像 T −1 を持つなら,T −1 も線形写像である. w1 , . . . , wm は W の基底であるから, 問 4.7.1 (1) 0 = 0 + 0 と (L1) を使うことにより,命題 4.7.1(1) を示せ. ( T (v j ) = w1 (2) 0 = 00 と (L2) を使うことにより,命題 4.7.1(1) を示せ. ... (3) 命題 4.7.1(2) を示せ.(ヒント:T , S が (L1), (L2) を満たすことから,(S ◦ T )(x) = S(T (x)) a ) 1j .. wm . amj (j = 1, 2, . . . , n) と一意に表される.これらを纏めて も (L1), (L2) を満たすことを導けばよい.) ( 問 4.7.2 次の手順に従い,命題 4.7.1(3) を示せ. T (v 1 ) (1) T −1 は (L1) を満たすことを示す.(ヒント:逆写像の定義 (v = T −1 (w) ⇔ w = T (v)) と T が (L1) を満たすことを使いながら T (T −1 (w1 ) + T −1 (w2 )) を計算することで,T −1 (w1 + w2 ) = T −1 (w1 ) + T −1 (w2 ) を導く.) ... ) ( T (v n ) = w1 ... ) wm A, a11 . . A= . am1 ... .. . ... a1n .. . amn (4.9) と書く.この行列 A を,基底 v 1 , . . . , v n と基底 w1 , . . . , wm に関して T を表す行列 (あるいはこ の基底に関する T の表現行列) と呼ぶ. (2) T −1 は (L2) を満たすことを示す.(ヒント:(1) と同様.与えられた条件を使って T (kT −1 (w)) を変形することで T −1 (kw) = kT −1 (w) を導く.) 例 4.7.5 V = K n , W = K m とし,A を m × n 行列とする.このとき,V , W の基底として共 に標準基底を取れば,V から W への線形写像 TA (x) = Ax (x ∈ K n ) を表す行列は A 自身に他 例 4.7.2 V = W = R2 とし,A を実係数 2 次正方行列とする.このとき TA (x) := Ax ならない. (x ∈ R2 ) 32 ※ 特に V = W のときには,T の定義域 V と値域 W = V の基底として,同じものを用いるこ 命題 4.7.8 線形写像と行列の対応で,線形写像の合成は行列の積に対応する.即ち,上記の設定 とが多い.このとき,基底 v 1 , . . . , v n に関して T を表す行列とは, a11 ( ) ( ) . . A= T (v 1 ) . . . T (v n ) = v 1 . . . v n A, . の下で ... .. . an1 ... a1n .. . ann S ◦ T (v 1 ) ... ) ( S ◦ T (v n ) = u1 ... ) ul BA が成り立つ. ※ 逆に言えば,こうなるように行列の積が定義されているのである. で定まる n 次正方行列のことである. 最後に,V と W の基底を取り替えたとき,線形写像 T を表す行列はどのように変わるかを見 ておく. さて,x ∈ V を ( x = x1 v 1 + x2 v 2 + · · · + xn v n = v 1 ... V の基底 v 1 , . . . , v n から基底 v ′1 , . . . , v ′n への基底変換行列を P とし,W の基底 w1 , . . . , wm から基底 w′1 , . . . , w′m への基底変換行列を Q とする: ( ) ( ) ( ) ( ) v ′1 . . . v ′n = v 1 . . . v n P, w′1 . . . w′m = w1 . . . wm Q. x ) 1 . v n .. xn また,線形写像 T : V → W について,基底 v 1 , . . . , v n と基底 w1 , . . . , wm に関して T を表す行 と表したとき,T が (4.9) のように表されているなら,T による x の像は ( ) T (x) = w1 ... wm 列を A, 基底 v ′1 , . . . , v ′n と基底 w′1 , . . . , w′m に関して T を表す行列を A′ とする: ( ) ( ) ( ) ( T (v 1 ) . . . T (v n ) = w1 . . . wm A, T (v ′1 ) . . . T (v ′n ) = w′1 . . . x1 . . A . xn これらを組み合わせると,A と A′ の間には次のような関係があることがわかる: と表される.これを纏めておく. 定理 4.7.9 以上の状況の下で, A′ = Q−1 AP 定理 4.7.6 以上の状況の下で,基底 v 1 , . . . , v nに関する座標が (x1 , . . . , xn ) であるような V の x1 . 元は,基底 w1 , . . . , wm に関する座標が A .. であるような W の元に写される. xn x1 ( ) ( .. 逆に m × n 行列 A があるとき, v 1 . . . v n . ∈ V に w1 . . . xn を対応させれば,これは V から W への線形写像である.これにより が成り立つ. 特に V = W で,wi = v i , w′i = v ′i (i = 1, . . . , n) としたとき, A′ = P −1 AP x1 ) .. wm A . ∈W xn が成り立つ. 命題 4.7.7 K 上の n 次元線形空間 V と m 次元線形空間 W の基底を一つずつ決めておけば,V から W への線形写像と K 係数 m × n 行列は一対一に対応する. V から W への線形写像 T が (4.9) のように表されているとする.更に W から線形空間 U へ の線形写像 S があり,W の基底 w1 , . . . , wm と U の基底 u1 , . . . , ul に関して S を表す行列が B であるとする: ( ( S(w1 ) ... ) ( S(wm ) = u1 ... ) ul B. (4.10) このとき (4.9) と (4.10) を合わせれば,次がわかる: 33 ) w′m A′ .
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