No.18

4.7
と定めると (右辺は 2 次正方行列 A と 2 × 1 行列 x との積),これは上記の (L1), (L2) を満たす
線形写像
ので,今回定義した意味で R2 上の線形変換である.
後期これまでの講義では,和とスカラー倍という演算がうまく定義された集合として,線形空間
もっと一般に,V = K n , W = K m とし, A を K 係数の m × n 行列として
を扱ってきた.線形空間 V の部分空間とは,V のベクトルの演算と相性のよい部分集合のことで
TA : K n → K m ,
あった.同様に考え,線形空間 V から線形空間 W への写像で,ベクトルの演算と相性のよいも
のを考えよう.なお,前回のプリントにも書いたが,写像の用語については,前期第 2 回のプリン
例 4.7.3 K = R または C として,K 係数 n 次以下の多項式からなる線形空間
V , W を K 上の線形空間とする.写像 T : V → W が
x, y ∈ V
⇒
x∈V, k ∈K
(x ∈ K n )
と定めると,これは V = K n から W = K m への線形写像である.
トを参照すること.
(L1)
(L2)
TA (x) = Ax
Pn (K) = {a0 + a1 x + · · · + an xn | a0 , . . . , an ∈ K}
T (x + y) = T (x) + T (y)
⇒ T (kx) = kT (x)
を考える.ここで f ∈ Pn (K) に対し
を満たすとき,T を線形写像 (linear map) あるいは一次写像という.特に V = W のとき,T を
T (f ) =
V 上の線形変換あるいは一次変換という.なお,スカラー K を明示したいときは,K-線形写像と
いう.
線形写像について,次が成り立つことは容易に証明できる.
df
dx
とすると,これは Pn (K) 上の線形変換である.
例 4.7.4 f : R → R, f (x) = x2 は線形写像でない.
命題 4.7.1 T : V → W , S : W → U を線形写像とする.
上の例 4.7.2 では,行列 A から線形写像 TA を構成した.実はある意味でこの逆が言える.即
ち,有限次元線形空間に対し,基底を用いて座標系を導入すれば,(L1), (L2) の性質を満たす (抽
(1) T (0) = 0
象的な) 線形写像を,行列で表すことができる.これについて説明しよう.
n 次元線形空間 V の基底 v 1 , . . . , v n と m 次元線形空間 W の基底 w1 , . . . , wm をとる.こ
(2) 合成写像 S ◦ T も線形写像である.
こで V から W への線形写像 T があるとき,T (v j ) (j = 1, 2, . . . , n) はどれも W の元であり,
(3) T が逆写像 T −1 を持つなら,T −1 も線形写像である.
w1 , . . . , wm は W の基底であるから,
問 4.7.1 (1) 0 = 0 + 0 と (L1) を使うことにより,命題 4.7.1(1) を示せ.
(
T (v j ) = w1
(2) 0 = 00 と (L2) を使うことにより,命題 4.7.1(1) を示せ.
...
(3) 命題 4.7.1(2) を示せ.(ヒント:T , S が (L1), (L2) を満たすことから,(S ◦ T )(x) = S(T (x))


a
)  1j 
.. 
wm 
 . 
amj
(j = 1, 2, . . . , n)
と一意に表される.これらを纏めて
も (L1), (L2) を満たすことを導けばよい.)

(
問 4.7.2 次の手順に従い,命題 4.7.1(3) を示せ.
T (v 1 )
(1) T −1 は (L1) を満たすことを示す.(ヒント:逆写像の定義 (v = T −1 (w) ⇔ w = T (v)) と T が
(L1) を満たすことを使いながら T (T −1 (w1 ) + T −1 (w2 )) を計算することで,T −1 (w1 + w2 ) =
T −1 (w1 ) + T −1 (w2 ) を導く.)
...
) (
T (v n ) = w1
...
)
wm A,
a11
 .
.
A=
 .
am1
...
..
.
...

a1n
.. 

. 
amn
(4.9)
と書く.この行列 A を,基底 v 1 , . . . , v n と基底 w1 , . . . , wm に関して T を表す行列 (あるいはこ
の基底に関する T の表現行列) と呼ぶ.
(2) T −1 は (L2) を満たすことを示す.(ヒント:(1) と同様.与えられた条件を使って T (kT −1 (w))
を変形することで T −1 (kw) = kT −1 (w) を導く.)
例 4.7.5 V = K n , W = K m とし,A を m × n 行列とする.このとき,V , W の基底として共
に標準基底を取れば,V から W への線形写像 TA (x) = Ax (x ∈ K n ) を表す行列は A 自身に他
例 4.7.2 V = W = R2 とし,A を実係数 2 次正方行列とする.このとき
TA (x) := Ax
ならない.
(x ∈ R2 )
32
※ 特に V = W のときには,T の定義域 V と値域 W = V の基底として,同じものを用いるこ
命題 4.7.8 線形写像と行列の対応で,線形写像の合成は行列の積に対応する.即ち,上記の設定
とが多い.このとき,基底 v 1 , . . . , v n に関して T を表す行列とは,

a11
(
) (
)
 .
.
A=
T (v 1 ) . . . T (v n ) = v 1 . . . v n A,
 .
の下で
...
..
.
an1
...

a1n
.. 

. 
ann
S ◦ T (v 1 )
...
) (
S ◦ T (v n ) = u1
...
)
ul BA
が成り立つ.
※ 逆に言えば,こうなるように行列の積が定義されているのである.
で定まる n 次正方行列のことである.
最後に,V と W の基底を取り替えたとき,線形写像 T を表す行列はどのように変わるかを見
ておく.
さて,x ∈ V を

(
x = x1 v 1 + x2 v 2 + · · · + xn v n = v 1
...
V の基底 v 1 , . . . , v n から基底 v ′1 , . . . , v ′n への基底変換行列を P とし,W の基底 w1 , . . . , wm
から基底 w′1 , . . . , w′m への基底変換行列を Q とする:
(
) (
)
(
) (
)
v ′1 . . . v ′n = v 1 . . . v n P,
w′1 . . . w′m = w1 . . . wm Q.

x
)  1
.

v n  .. 

xn
また,線形写像 T : V → W について,基底 v 1 , . . . , v n と基底 w1 , . . . , wm に関して T を表す行
と表したとき,T が (4.9) のように表されているなら,T による x の像は

(
)
T (x) = w1
...
wm
列を A, 基底 v ′1 , . . . , v ′n と基底 w′1 , . . . , w′m に関して T を表す行列を A′ とする:
(
) (
)
(
) (
T (v 1 ) . . . T (v n ) = w1 . . . wm A,
T (v ′1 ) . . . T (v ′n ) = w′1 . . .

x1
 . 
. 
A
 . 
xn
これらを組み合わせると,A と A′ の間には次のような関係があることがわかる:
と表される.これを纏めておく.
定理 4.7.9 以上の状況の下で,
A′ = Q−1 AP
定理 4.7.6 以上の状況の下で,基底 v 1 , . . 
. , v nに関する座標が (x1 , . . . , xn ) であるような V の
x1
 . 

元は,基底 w1 , . . . , wm に関する座標が A  .. 
 であるような W の元に写される.
xn


x1
(
) 
(
.. 
逆に m × n 行列 A があるとき, v 1 . . . v n 
 .  ∈ V に w1 . . .
xn
を対応させれば,これは V から W への線形写像である.これにより
が成り立つ.
特に V = W で,wi = v i , w′i = v ′i (i = 1, . . . , n) としたとき,
A′ = P −1 AP


x1
)  
.. 
wm A 
 . ∈W
xn
が成り立つ.
命題 4.7.7 K 上の n 次元線形空間 V と m 次元線形空間 W の基底を一つずつ決めておけば,V
から W への線形写像と K 係数 m × n 行列は一対一に対応する.
V から W への線形写像 T が (4.9) のように表されているとする.更に W から線形空間 U へ
の線形写像 S があり,W の基底 w1 , . . . , wm と U の基底 u1 , . . . , ul に関して S を表す行列が B
であるとする:
(
(
S(w1 )
...
) (
S(wm ) = u1
...
)
ul B.
(4.10)
このとき (4.9) と (4.10) を合わせれば,次がわかる:
33
)
w′m A′ .