第 6 章 位相と収束

第 6 章 位相と収束
第一可算公理を満たすハウスドルフ位相空間において, 可算点列
の収束を定義することによっても位相を定義できる. 第一可算公理
を満たさない一般の位相空間においては, 上のような可算点列を用
いて位相を定義できない. この点を改良するために, ムーア・スミ
ス [1] は可算点列とは限らない有向点列の収束の概念を導入した.
他方, カルタン [1], [2] とブルバキ [1] はフィルターの収束の概念
を導入した. 有向点列の収束とフィルターの収束は同値な位相を定
義する.
しかしながら, 分離公理を何も仮定しない位相空間においては,
ムーア・スミスの意味の収束の概念と, カルタン・ブルバキの意味
のフィルターの収束の概念の意味はどちらもあいまいである. ある
1 点に収束するということをはっきりと定義できない. 1 個より多
くの点に同時に収束することがある.
一般の位相空間においては, 一般に a ̸= {a} である. それ故に, 1
点 a に収束するということをきちんと定義できないのである
したがって, 本章においては, 有向点列の収束の概念とフィルター
の収束の概念を改良して, これらの収束の概念が, 必ずしも分離公理
を仮定しない位相空間においても合理的な意味をもつようにした.
ハウスドルフ位相空間においてさえ, これによって収束に関する
新しい結果をいくつか得ている.
本章の内容に関しては, 伊東 [9], [10] を参照してもらいたい.
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6.1 点列の収束
本節においては位相空間 X における点列の収束について考察する.
X は位相空間であるとする. X の集合 A に対し, A の閉包を A と
表す.
ここで, 点列の収束の新しい概念の定義を与える.
定義 6.1.1 X は位相空間であるとする. X の点列を {an } と表
し, {an } の集積点の集合を A と表し, A は空集合ではないとする.
このとき, 点列 {an } が A に収束するということは, A が次の条件
(i), (ii) を満たすことであると定義する:
(i) A の任意の近傍 U に対し, ある自然数 n0 が存在して, n ≥ n0
なる各 n に対し, an ∈ U が成り立つ.
(ii) A は条件 (i) を満たす最大の集合である.
このとき, A は {an } の極限集合であるという. これを
lim an = A, あるいは, an → A, (n → ∞)
n→∞
と表す.
A が {an } の極限集合であることを, 単に, A は {an } の極限であ
るということがある. さらに, A の各点は {an } の極限点であると
いう.
ハウスドルフ空間においては分離の公理によって, 点列 {an } の極
限が存在すれば極限集合はただ 1 点のみからなるということは意味
をもつ. しかし, ハウスドルフ空間においてさえ, 点列 {an } の極限
集合 A がただ 1 点のみからなる場合に限る必要はない.
さらに, ハウスドルフ空間ではない一般の位相空間においては点
列 {an } の極限集合 A はただ 1 点からなる集合になるという条件を
表す方法がない. これは分離の公理に依存する性質である.
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この意味で, 定義 6.1.1 は点列の収束の新しい定義になっている.
系 6.1.1 定義 6.1.1 の記号を用いる. このとき, 極限
lim an = A
n→∞
に対し, 関係式
∞
∩
∪
{am } = A
n=1 m≥n
が成り立つ.
したがって, 極限集合が存在するとき, 極限集合は集合算を用いて
計算できる. もし, A = {a} ならば, {an } の極限点 a はこれまでに
考えられていた極限と同じである. この場合には, {an } は狭義にお
いて a に収束するという. あるいは単純に {an } は a に収束すると
いう. しかし, もし A が 2 個以上の点からなる集合であれば, {an }
の極限の概念は新しいものである. この場合には, {an } は広義にお
いて A に収束するという. いずれにしても, 極限集合 A が 1 個の点
あるいは 2 個以上の点からなるとき, {an } は A に収束するという.
結局, 極限集合 A は, {an } の集積点全体の集合である. しかし, 逆
に {an } の集積点全体の集合が必ずしも {an } の極限集合であるとは
限らない.
例えば, 次のような例がある.
例 6.1.1(浅岡) n が奇数のとき, an = 0 であるとし, n が偶数
のとき, an = n であるとすると, {an } の集積点全体の集合は {0} で
ある. このとき, {an } は {0} に収束しない.
ここで, もう一つの例を与える.
例 6.1.2(伊東) {an } はすべての有理数を直線的に並べて得ら
れる数列であるとする. このとき, an → R, (n → ∞) が成り立つ.
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例 6.1.2 の場合に, 極限集合は有界閉集合ではない.
実数列の狭義の収束に対して, 次の定理を得る.
定理 6.1.1(コーシーの収束判定条件) 実数列 {an } がある実数
に狭義収束するための必要十分条件は, 任意の正の数 ε > 0 に対し,
ある自然数 N が存在して, 任意の m, n > N に対して, 不等式
|am − am | < ε
が成り立つことである.
命題 6.1.1 X はハウスドルフ位相空間であるとする. X の点
列 {an } が 1 点 a に収束するための必要十分条件は, a の任意の近傍
U に対し, ある自然数 n0 が存在して, n ≥ n0 となるすべての n に
対し, an ∈ U が成り立つことである.
定理 6.1.2 位相空間 X の点列の収束に対して, 次の性質 (S1 )∼(S3 )
が成り立つ:
(S1 ) すべての n に対して an = a ならば, an → {a}.
(S2 ) {an } の集積点全体の集合 A に対し, an → A ならば, {an }
の任意の収束部分列を {akm } とするとき,
∪
∞
∩
∪
{akm } = A
{km } n=1 m≥n
∪
が成り立つ. ここで, {km } は {akm } が収束するような任意の
自然数列 {km } の全体にわたって定義された合併集合を表す.
(S3 ) {an } は X の点列であるとし, A は {an } の集積点全体の集
合であるとする. このとき, {an } の任意の部分列 {akm } に対
して akm → A ならば, an → A が成り立つ.
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ハウスドルフではない位相空間 X に対して, 次の例が成り立つ.
例 6.1.3(浅岡) X は 0 と 1 の集合 {0, 1} であるとする. X の
すべての開集合は ∅, {1} と X = {0, 1} であると仮定する. このと
き, X はハウスドルフではない位相空間である. X において, すべ
ての閉集合は ∅, {0}, X である. このとき, すべての n に対し an = 1
となるような点列 {an } を考えるならば, {an } の集積点全体の集合
は X であって, {an } は X に収束する. この場合に,
∞
∩
∪
{am } = {0, 1} = X
n=1 m≥n
が成り立つ.
一方, すべての n ≥ 1 に対し, an = 0 であるような点列 {an } を考
えるならば, {an } の集積点全体の集合は {0} であって, {an } は {0}
に収束する. この場合には,
∞
∩
∪
{am } = {0} = {0}
n=1 m≥n
が成り立つ.
しかし, 極限集合は極限集合の近傍全体の共通部分ではない.
6.2 有向点列の収束
本節においては, 有向点列の収束の新しい概念について考察する.
集合 A が有向集合であるということは, A において半順序 ≤ が
定義されていて, A の任意の元 α, β, γ に対し, 次の条件 (i)∼(iv) が
成り立つことであると定義する:
(i) α ≤ α が成り立つ.
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(ii) α ≤ β, β ≤ α ならば, α = β が成り立つ.
(iii) α ≤ β, β ≤ γ ならば, α ≤ γ が成り立つ.
(iv) A の任意の二つの元 α, β に対して, ある A の元 γ が存在し
て, α ≤ γ, β ≤ γ が成り立つ.
X の点の集合 {xα }α∈A が有向点列であるとは, 添字集合 A が有
向集合であることと定義する.
集合 X の有向点列を考えるとき, 集合 X の点列 {xn } の部分列に
対応する概念を考えるためには, 有向集合 A の部分集合 B が A と
共終であるということを定義する必要がある.
有向集合 A の部分集合 B が A において共終であるということは,
任意の α ∈ A に対し, ある β ∈ B が存在して β ≥ α が成り立つこ
とと定義する.
定理 6.2.1 有向集合 A の部分集合 B が A において共終である
ならば, B も有向集合である.
定理 6.2.2 有向集合 A の二つの部分集合 B1 , B2 に対し, B1 は
A において共終であり, B2 が B1 において共終であるならば, B2 は
A において共終である.
定理 6.2.3 有向集合 A の任意の部分集合 B に対し, B あるいは
は A において共終である.
Bc
定義 6.2.1 X は位相空間であるとし, {xα }α∈A は X の有向点
列であるとし, A は {xα }α∈A の集積点の集合で, A は空集合ではな
いとする. このとき, {xα }α∈A が A に収束するということは, 次の
条件 (i), (ii) が成り立つことであると定義する:
(i) A の任意の近傍 U に対し, ある α0 ∈ A が存在して, α ≥ α0
となる各 α に対して xα ∈ U が成り立つ.
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(ii) A は条件 (i) を満たす最大の集合である.
ここで, これを
xα → A, (α ∈ A)
と表す. あるいは略式に, これを
xα → A, あるいは lim xα = A
α
などと表す.
このとき, 次の系が成り立つ.
系 6.2.1 定義 6.2.1 の記号を用いる. このとき, 関係式
∩
∪
{xα } = A
α0 ∈A α≥α0
が成り立つ.
A = N のとき, これは X の点列 {xn } の収束に他ならない.
極限集合 A は {xα }α∈A の集積点のある一つの集合である. しか
し, 逆に {xα }α∈A の集積点の集合がどれも {xα }α∈A の極限集合で
あるとは限らない.
命題 6.2.1 X はハウスドルフ位相空間であるとする. このと
き, X の有向点列 {xα }α∈A とある x ∈ X に対し, x の任意の近傍 U
に対して, ある α0 ∈ A が存在して, α ≥ α0 なるすべての α に対し
xα ∈ U が成り立つならば, {xα }α∈A は x に収束する.
定理 6.2.4 X は位相空間であるとし, {xα }α∈A は X の有向
点列であるとする. さらに, 上の記号を用いる. このとき, 次の
(D1 )∼(D4 ) が成り立つ.
(D1 ) 任意の α に対し xα = x ならば, xα → {x} が成り立つ.
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(D2 ) {xα }α∈A の集積点の集合を A であるとし, A が空でないと
するとき, xα → A であるとする. このとき, {yβ } は {xα } の
共終な部分有向点列であるならば, yβ → A が成り立つ.
(D3 ) {xα }α∈A の集積点の集合を A であるとし, A は空でないと
する. {xα } の有向部分点列 {yβ } がいつも収束する部分有向
点列 {zγ } を含んでいて, zγ → A が成り立つと仮定する. さ
らに, A は {yβ } の選び方に依存せずに定められるとするなら
ば, xα → A が成り立つ.
(D4 ) {xα }α∈A の集積点の集合を A であるとし, A は空集合で
ないとし, xα → A, (α ∈ A) であるとする. さらに, 任意の
α ∈ A に対し, yαβ → xα , (β ∈ Bα ) が成り立つと仮定する.
このとき, 直積集合
∏
C =A×
Bα
α
は有向集合であるとし, 射影 p : C → A と pα : C → Bα を定
義する.
このとき, γ ∈ C, α = p(γ), β = pα (γ) が成り立つとき, zγ = yαβ
と定義するならば, zγ → A が成り立つ.
{xα } の極限集合を
lim xα , あるいは lim xα
α∈A
などと表す. lim xα の点は xα の極限点であるという. xα → A であ
ることと, A が {xα } の共終部分有向点列からなる集合の閉包の共
通部分であるということは同値である.
{xα } の部分有向点列 {yβ } が {xα } と共終でないならば, {yβ } の
いくつかの集積点は {xα }α∈A の極限集合に属さない.
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6.3 フィルターの収束
本節においては, フィルターの収束の概念の定義とその基本性質
について考察する.
ここで, フィルターの定義を与える.
定義 6.3.1 位相空間 X の部分集合の族 Φ が X 上のフィルター
であるということは, 次の条件 (i) ∼(iii) が成り立つことであると定
義する:
(i) U ∈ Φ, U ⊂ V ならば, V ∈ Φ が成り立つ.
(ii) U, V ∈ Φ ならば, U ∩ V ∈ Φ が成り立つ.
(iii) ∅ ̸∈ Φ が成り立つ. 例 6.3.1 位相空間 X の部分集合のつくる次の集合族 (1)∼(3)
は X 上のフィルターである:
(1) ある空でない集合の基本近傍系.
(2) ある 1 点の基本近傍系.
(3) ある 1 点を含む集合全体のつくる族.
例 6.3.2 X = N = {0, 1, 2, · · · } であるとするとき, a ∈ N に
対し, 部分集合 Ua は
Ua = {n ∈ N ; n > a}
であると定義する. このとき, 集合族 {Ua ; a ∈ N } は N 上のフィ
ルターである. これをフレッシェのフィルターという.
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位相空間 X 上の二つのフィルター Φ と Φ′ が与えられたとき, Φ′
が Φ より細かいフィルターであるということは, 集合族として, 条
件 Φ ⊂ Φ′ が成り立つことであると定義する.
命題 6.3.1 Λ は空でない添数集合であるとする. ∩
X 上の空で
Φλ も X
ないフィルターの族 Φλ , (λ ∈ Λ) に対し, 集合族 Φ =
λ∈Λ
上のフィルターになる. これを Φλ , (λ ∈ Λ) の交わりのフィルター
という.
定義 6.3.2 X は位相空間であるとし, Φ は X 上のフィルター
であるとし, A は各 F ∈ Φ の集積点の集合であって, 空集合ではな
いとする.
このとき, A の近傍全体のつくる系を U(A) と表す. フィルター Φ
が集合 A に収束するということは, 次の条件 (i), (ii) が成り立つこ
とであると定義する:
(i) Φ ⊂ U(A) が成り立つ.
(ii) A は条件 (i) を満たす最大の集合である.
このとき, Φ → A と表し, 集合 A は Φ の極限集合であるという.
あるいは, 略式に表現して, A は Φ の極限であるという.
このとき, 次の系が成り立つ.
系 6.3.1 定義 6.3.2 の記号を用いる. このとき, 関係式
∩
F =A
F ∈Φ
が成り立つ.
系 6.3.1 によって, フィルターの極限あるいはフィルターの極限
集合が集合算を用いて計算されるということがわかる.
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次に, フィルターの基の定義を与える.
定義 6.3.3 X 上のフィルター Φ に対し, X の部分集合の族 Ψ
がフィルターの基であるということは, Ψ に属する集合を含む集合
全体のつくる集合族が Φ と一致することと定義する.
このとき, フィルター Φ は Ψ によって生成されたフィルターであ
るといい, Ψ はフィルター Φ の基であるという.
定理 6.3.1 集合 X の空でない部分集合のつくる集合族 Ψ がフィ
ルターの基であるための必要十分条件は, 次の (1), (2) が成り立つ
ことである:
(1) Ψ の任意の元 M, N に対し, ある Ψ の元 W が存在して, W ⊂
M ∩ N が成り立つ.
(2) ∅ ̸∈ Ψ が成り立つ.
フィルターの基 B によって生成されるフィルターが A に収束す
るならば, フィルターの基 B が A に収束するという.
定理 6.3.2 X は位相空間であるとする. 上の記号を用いる. こ
のとき, 次の (L1 )∼(L4 ) が成り立つ:
(L1 ) X の点 a に対し, フィルター Φa = {B; a ∈ B ⊂ X} は {a}
に収束する.
(L2 ) 二つのフィルター Φ と Ψ が条件 Φ → A と Φ ⊂ Ψ を満た
すならば, Ψ → A が成り立つ.
(L3 ) フィルターの族 {Φλ } に対し, 各 Φλ が Φλ → A を満たすな
らば,
∩
Φλ = Φ → A
λ
が成り立つ.
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(L4 ) 次の条件 (i)∼(iii) を仮定する:
(i) Y ⊂ X であるとする.
(ii) Y の任意の空でない閉集合 B に対し, X のフィルター
ΦB が存在して ΦB → B が成り立つ.
(iii) Y のフィルターの基 B によって生成される X のフィ
ルター Ψ が A に収束する.
このとき,
∪
B∈B
∩
(
ΦC )
∅̸=C=C⊂B
もまた A に収束する.
6.4 様々な収束の間の関係
本節においては, 様々な収束の関係について考察する.
このとき, 次の定理が成り立つ.
定理 6.4.1 X は位相空間であるとする. このとき, 次の (1), (2)
が成り立つ:
(1) X の有向点列 {xα }α∈A に対し, X の部分集合の族 {{xα ; α ∈
A, α ≥ α0 }; α0 ∈ A} は X のフィルターの基である.
(2) (1) において定義されたフィルターの基によって生成された
フィルター Φ に対し, xα → A と Φ → A は同値である.
このとき, 定理 6.3.2 より定理 6.2.2 が成り立つことが従い, 命題
6.3.1 より命題 6.2.1 が成り立つことが従う.
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6.5 収束の概念と位相の定義
本節においては有向点列の収束の概念あるいはフィルターの収束
の概念を用いて位相を定義できることを示す.
位相空間において, 有向点列の収束の概念とフィルターの収束の
概念を定義できた. 逆に, 集合 X において有向点列の収束の概念
あるいはフィルターの収束の概念を用いて位相を定義できることを
示す.
まず, 位相空間においてフィルターの収束の概念から有向点列の
収束の概念が導かれることを示す. すなわち, 次の定理が成り立つ.
定理 6.5.1 位相空間 X において, すべてのフィルターは収束す
るか, 収束しないかが決定されていて, X において, 条件 (L1 )∼(L4 )
が満たされていると仮定する.このとき, X において有向点列の収
束を定理 6.4.1 のように定義するならば, 条件 (D1 )∼(D4 ) が満たさ
れる.
次に, 集合 X の有向点列の収束の概念が定義されているとき, こ
の有向点列の収束の概念を用いて集合 X に位相を定義できること
を示す.
ここでは, 閉包の公理系 (III) を用いて X に位相を定義する.
そのために, X の集合 A の閉包 A を次のように定義する. すなわ
ち, xα ∈ A となるような有向点列 {xα } の極限集合の全体の合併集
合を A であると定義する. このようにして, X の集合 A にその閉
包 A を対応させると, これは, 閉包の公理系 (III) を満たす. これに
よって X の位相を定義できる.
この位相に関して, 次の性質 (1), (2) が成り立つ:
(1) B = B ⊂ A であることと, 有向点列 {xα }, (xα ∈ A) が存在
して, xα → B が成り立つことは同値である.
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(2) U が A = A の近傍であることと, xα → A となる任意の有
向点列 xα に対し, ある α0 が存在して, {xα : α ≥ α0 } ⊂ U が
成り立つことは同値である.
いま, 位相空間において有向点列の収束の概念を定義するとき, 上
の性質 (1), (2) もまた成り立っている. このとき, 次のような矢印の
順に次のプロセスを用いて新しい位相を定義する:
位相→有向点列の収束→新しい位相.
すなわち, 与えられた位相空間 X において有向点列の収束の概念を
定義するとき, このようにして定義された有向点列の収束の概念を
用いて, 集合 X に新しい位相を定義する. このとき, 集合 X におい
て新しい位相は最初に与えられた位相と一致する.
同様に, 与えられた位相空間 X においてフィルターの収束の概念
が定義されるとき, このフィルターの収束の概念を用いて集合 X に
新しい位相を定義することができる. このとき, 集合 X において新
しい位相と最初に与えられた位相は一致する.
さらに, 集合 X においてフィルターの収束の概念を用いて定義さ
れた位相を用いてフィルターの新しい収束の概念を定義するならば,
集合 X において, この新しいフィルターの収束の概念は最初に与え
られたフィルターの収束の概念と一致する. 同様に, 与えられた有
向点列の収束の概念を用いて定義された位相を用いて有向点列の新
しい収束の概念を定義するならば, 集合 X において, この新しい有
向点列の収束の概念は最初に与えられた有向点列の収束の概念と一
致する.
以上によって, 位相の概念を定義すること, フィルターの収束の概
念を定義することと有向点列の収束の概念を定義することとは同値
であることがわかる.
収束の概念を基礎においた位相の定義はM. フレッシェ[1] によっ
て最初に与えられた. フィルターの収束の概念あるいは有向点列の
収束の概念を用いることによって, 位相空間において収束と位相の
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対応関係は完全になる. この目的のために, ムーア・スミス [1] は
有向点列の収束の概念を導入した. これに対し, 可算点列の収束の
概念を用いたときには, 一般には収束と位相の対応関係は完全では
ない.
しかしながら,ムーア・スミスの定義はハウスドルフ位相空間以
外の場合にはあいまいなところがあった. それ故に, 本章において
これらの収束の概念の改良を行った. これは伊東 [9] の論文におい
て最初に与えられた. なお, 岩波数学辞典, 第 4 版, 収束の項も参照
してもらいたい.
6.6 収束と分離公理
本節においては, 有向点列の収束とフィルターの収束の概念を用
いて分離公理を特徴付けることについて考察する. すなわち, 次の
三つの定理が成り立つ.
定理 6.6.1 X は T 空間であるとし, X の 2 点 a, b に対し, a ̸= b
であるとする. このとき, 次の (1)∼(3) は同値である:
(1) X は T0 空間である.
(2) 少なくとも一つの有向点列 {xα } が存在して, xα が a に収束
して b に収束しないか, xα が b に収束して a に収束しないか,
いずれか一方が成り立つ. (3) 少なくとも一つのフィルター Φ が存在して, Φ → a, Φ ̸→ b
であるか, Φ → b, Φ ̸→ a であるか, いずれか一方が成り立つ.
定理 6.6.2 X は T 空間であるとし, X の 2 点 a, b に対し, a ̸= b
であるとする. このとき, 次の (1)∼(3) は同値である:
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(1) X は T1 空間である.
(2) 二つの有向点列 {xα } と {yβ } が存在して, xα → a, xα ̸→ b
と yβ → b, yβ ̸→ a が成り立つ. (3) 二つのフィルター Φ1 と Φ2 が存在して, Φ1 → a, Φ1 ̸→ b と
Φ2 → b, Φ2 ̸→ a が成り立つ.
定理 6.6.3 X は T 空間であるとする. このとき, 次の (1)∼(3)
は同値である:
(1) X は T2 空間である.
(2) X の任意の点 a に対し, ある有向点列 {xα } が存在して, xα →
a が成り立つ. (3) X の任意の点 a に対し, あるフィルター Φ が存在して, Φ → a
が成り立つ.
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