第 章 ソボレフ空間

第 章 ソボレフ空間
本章においては,第 章と第 章において考察した
収束と
収束の意味における導関数と偏導関数の基本性質によってソボレフ
空間の新しい特徴付けを与えることについて考察する これによっ
て ストーンの定理の新しい意味付けができる
このとき 導関数と偏導関数の計算においてはシュワルツの超関
数の理論を必要としない
特に
関数と
関数の場合には これらの結果はシュレー
ディンガー方程式の解の研究において基本的な役割を果たす
本章においては 考える関数は複素数値可測関数あるいは実数値
可測関数であるとする
ソボレフ空間の定義とその基本性質
本節においては ソボレフ空間についてこれまでに知られている
結果をまとめておく これについての詳細に関しては 著書 黒田
を参照してもらいたい
ソボレフ空間
いま
とし
は 次元空
間
の開集合とする さらに
は実数とし
は
自然数とする
このとき
は従来の意味において定義された 上のソボ
レフ空間であるとする
すなわち 従来の意味におけるソボレフ空間の定義は次のように
与えられる
が
に属するための条件は
なるすべ
ての多重指数
に対し の弱 微分
が存在
して
となることである
ここで 「弱微分」という概念は偏微分方程式論における「弱解」
の概念と同様の概念である
すなわち 弱微分の概念は次のように定義される
と多重指数 が与えられたとき
が
の弱 微分であるとは 条件
が満たされることであると定義する
このとき 弱 微分が存在すれば これは一意に定まる
これに関しては 著書 黒田
を参照してもらいたい
この定義における弱 微分
は
の元にはなっているが
弱微分として計算されたものである 実際には この弱 微分
が
の元であるという条件は自明なことではない 具体的に与え
られた関数に対してこの条件が成り立つかどうかを判別するのはそ
れ程容易ではない
ここで
の部分空間
を 関係式
によって定義する
このとき 次の定理が成り立つ
定理
ある
は
のノルムに関して
の部分空間である さらに
は
において稠密で
さらに 次の系が成り立つ
系
して
ならば
の関数列
となる任意の に対し 極限移行
が存在
が成り立つ
における
の閉包
ると定義する
このとき 次の系が成り立つ
系
を
であ
上の記号を用いるとき 等式
が成り立つ ここで
表す
は
における
一般には
である
の稠密な部分空間である
したがって
のとき 等式
特に
の閉包を
は
が成り立つ
ソボレフ空間
を用いて特徴付けする
の性質をフーリエ変換
のフーリエ変換とフーリエ逆変換は 次の関
係式
によって定義する
は自然数であるとき ソボレフ空間
によって定義する
のノルム
と内積
を 関係式
は 関係式
によって定義する
はこのノルムと内積に関してヒルベルト空簡になる
であるとき
を 関係式
によって定義すると
偏導関数の意味で 等式
が成り立つ
このとき 次の定理が成り立つ
定理
等式
が成り立つ 二つの空間の内積は等しく 二つの空間はヒルベルト
空間として一致する
の
偏導関数が存在すれば これは一意に定まる
に対し
の一般化として ソボレフ空
を定義する
次に
間
定義
実数
は 関係式
は
によって定義する
であるとする
このとき
のノルムと内積は次の関係式
によって定義する
上に定義したノルムと内積に関して
になる
特に 等式
が成り立つ
また 次命題が成り立つ
命題
はヒルベルト空間
に対し 包含関係
が成り立つ また
に対し 不等式
が成り立つ
命題
は
において稠密な部分空間である
定理
の
して 不等式
ソボレフの埋蔵定理 は
であるならば 任意
上一様連続であって ある定数
が存在
が成り立つ
定理
において
が
上一様連続であるという
ことの意味は
上で一様連続なある一つの関数 が存在して こ
の関数 がほとんどいたるところ に等しいことを意味する
定理
であるとし
は
を超えない
最大の整数であるとすると 包含関係
が成り立つ さらに
に対し 不等式
が成り立つ
定理
において が
に属するという条件は の「滑
らかさ」を表す一つの基準である これは 古典的な意味の微分可
能性という「滑らかさ」の基準の一般化であると考えられる 一般
化された偏導関数のノルム評価がこのような「滑らかさ」の基準の
一般化された条件を表している
定理
ある定数
であるならば
が存在して 不等式
に対し
が成り立つ
関数
が定理
の不等式を満たすとき
は
上
次ヘルダー連続であるという
特に
であるならば
は
次ヘルダー連続である
局所ソボレフ空間
ここで
は自然数であ
るとし
は実数であるとする
は
の開集合であるとする ただし
は自然数であると
上の実数値可測関数
が
に属する
する このとき
ということは
の任意のコンパクト部分集合 に対し
が
に属することであると定義する ここで
は集合 の特性関数を表す
特別な場合として
のとき
を考える
局所ソボレフ空間
ただし
は自然数であ
るとし
は実数であるとする
このとき
上の実数値可測関数
が
に属すると
いうことは
の任意のコンパクト部分集合
に対し
が
に属することであると定義する ここで
は集合 の特性関数を表す
ソボレフ空間の新しい特徴付け
本節においては ソボレフ空間の新しい特徴付けについて考察す
る いま
とし
は 次元空間
の開集合とする さらに
は実数とし
は自然数とする
このとき
は従来の意味において定義された 上のソボ
レフ空間であるとする
のとき
は
可能であるから 次の定理が得られる
収束の意味で
回偏微分
定理
は
収束の意味で 回偏微分可能な関
数
の全体からなるベクトル空間であるとする このとき
に対し
とすると の
収束の意味での
偏導関数
に対して 等式
が成り立つ ここで
は多重指数
を表す
特に
のときは 偏導関数の代りに導関数を考える
定理
等式
定理
の記号を用いるとき
に対し
が成り立つ また 包含関係
が成り立つ
これが
収束の意味での導関数あるいは偏導関数の概念を用い
たソボレフ空間の新しい特徴付けである ここで 空間
は
新しい空間である
これによって ソボレフ空間の定義のためには弱微分の概念ある
いは超函数の意味における偏導関数の概念を必要としなくなった
著書 黒田
頁においても「 導関数」の定義が与えられ
ているが これは本書 第 章において定義した
導関数あるは
偏導関数とは異なるものである 著書 黒田
においては 「 導
関数であることを意味する
関数」というのは弱 微分が
定理
に対し
いま
偏導関数
とする このとき
を関係式
によって表すと
はノルム
に関してバナッハ空間になる ここで
は
のノルムを
表す
特に
のとき
に対しては
は
偏導関数で
あるとし
に対しては
であるとして ノルム
は同様に定義される
特に
のとき
はこのノルムに関して
は
ヒルベルト空間になる その内積
によって与えられる ここで
は
の内積を表す
は従来の意味における局所ソボレフ空間であるとする
定理
数
特に
このとき
は
収束の意味で 回偏微分可能な関
の全体からなるベクトル空間であるとする
のときは 偏導関数の代りに導関数を考える
に対し 等式
が成り立つ また 包含関係
が成り立つ
これが
収束の意味での導関数あるいは偏導関数の概念を用い
た局所ソボレフ空間の新しい特徴付けである ここで 空間
は新しい空間である
ストーンの定理の新しい意味付け
収束の意味における導関数の概念を用いて ストーンの定理の
新しい意味付けが与えられる このように パラメーター半群ある
導
いは パラメーター群の生成作用素の計算においてはすでに
関数 特に
導関数の計算は実際に用いられていたことが分かる
第 章における
導関数の概念はこれらの実例の結果を一般化し
たものになっている
定理
パラメーター群 に対し 関係式
によって
のユニタリー作用素
このとき ユニタリー作用素の系
ター群になる すなわち これは次の条件
とする
を定義する
は パラメー
を満たす:
ここで
は
の恒等作用素を表す
定理
強
ストーンの定理 定理
に対し
の
パラメーター群
強
が存在して 次の
が成り立つ:
定理
に対し
定理
の記号を用いるとき
収束の意味で
が成り立つ
定理
の結果は
い理解である
微分の概念を用いたストーンの定理の新し
一般的注意
一般に 自然統計物理学の基礎方程式であるシュレーディンガー
方程式の解は
密度でなければならない.また,シュレーディン
ガー作用素に対する固有値問題の解は
密度あるいは
密度と
して求められる.これらの関数に対して超関数の意味での微分法と
いうのが現在知られている最も一般な微分法の概念である.
しかし, 関数や
関数などの古典的な関数の微分法を考え
るのに超関数まで持ち出すのでは行き過ぎであると考えられるとこ
関数の超函数の意味における導関数ある
ろもある. 関数や
いは偏導関数の存在の条件は関数空間 の元の数だけの無数に多
くの等式によって規定されている
さらに
関数や
関数の超関数の意味における導関数や偏導
関数が
関数や
関数であるという条件を判別する方法が具体
的に見えてこない それゆえに 超関数の意味の微分法の概念の定
義はできてもその具体的な意味が見えにくい
このような数学概念の定義の条件は一種の仮定であるから 実際
にこのような数学概念を有用なものとするためには これらの仮定
に代わってよりわかり易い条件による特徴付けを工夫する必要があ
る
微分の概念はそのような工夫の一つである
したがって
関数の導関数や偏導関数を
収束の意味で計算
すれば その結果はただちに
関数であることが分かる 同様に
関数の導関数や偏導関数を
収束の意味で計算すれば その
結果はただちに
関数であることが分かる それゆえ ここで考
える微分法は大変具体的で有用であると考えられる
したがって シュレーディンガー方程式のような微分方程式に対
して 第 章と第 章において考察した微分法の概念が有効である.
シュレーディンガー方程式を解くためには超関数の意味での微分
法まで持ち出す必要はないことが分かる.すなわち,ここでは,
収束や
収束の意味における微分法の概念を用いるだけで十分で
ある.
本書において,もっと一般に
関数に対しては
収束の意味で
考え
関数に対しては
収束の意味で考えて計算される導関
と
数と偏導関数の基本性質について考察した.ここで
している その特別の場合として
の場合を考えている
さらに これによって ソボレフ空間の新しい特徴付けが得られ
ストーンの定理の新しい意味付けが得られることが示された