電力中央研究所報告 電 気 利 用 経 営 米国の業務・産業用電力小売市場における新規 参入の実態評価 キーワード:新規参入,既存電気事業者,合併買収, 業務・産業用需要家,米国小売電力市場 背 報告書番号:Y14001 景 米国では、15 州とワシントン DC(以下、自由化州と呼ぶ)において小売自由化が実 施されており、特に業務・産業用市場では、規制事業から競争的小売事業への移行が進 み、競争が活性化していると評価されている。しかし、需要家が選択した競争的小売事 業者が、新規参入者か、地域の既存事業者の子会社か、といった事業者の属性について は詳しく分析されていない。地域の既存事業者の子会社が市場において大きなシェアを 占め、市場集中度が高い状況にあると、競争が阻害されかねないため、競争を評価する 上では、競争的小売事業者の実態を把握することも重要である。 目 的 米国の自由化州における業務・産業用小売市場の競争状況を、市場に参加する事業者 の属性と、それぞれが獲得した市場シェアに基づいて明らかにする。その上で、新規参 入に影響を与える要因について検証する。 主な成果 米国エネルギー情報局の 2001~2012 年のデータを利用し、業務・産業用の民営の競争 的小売事業者について、表に示すように「地元電力」 「他州電力」 「国外電力」 「新興電力」 の 4 つの属性に分類し、販売電力量に基づいた市場シェアを州ごとに計算した。 さらに、 その特徴によって自由化州を①競争事業への移行が進んでいない州、競争事業への移行 は進んでいるが、②地元電力のシェアが大きい州、③地元電力のシェアが小さい州、④ 地元電力が供給していない州の 4 つのグループに分類した(図 1A)。検証の結果、米国 の業務・産業用市場の実態について、以下の点を明らかにした。 1. 既存事業者による競争事業の提供 グループ①以外の 14 州において、競争事業への移行が進展している。このうちグルー プ②の 3 州については、新規参入者のシェアが小さく、地元電力が 50%以上のシェアを 獲得している。しかし、同時に相当数の小規模事業者の参入も認められており、かつ、 地元電力によって競争力のある料金の提供も行われている。既存の地元電力がシェアを 獲得していることだけで、非競争的という評価がなされるべきではない。 2. 小売市場の集中化 複数の自由化州でシェアを獲得しているのは特定のプレーヤーであり、米国の競争的 小売市場全体で評価して 4%以上のシェアを持つ 6 社だけで、市場の 5 割を占めている (図 2)。同時に、小規模の新興電力は既存事業者等に買収される傾向がみられる。この ようなプレーヤー集約化の傾向は欧州でも観察されており、競争市場の一つの帰結とし て、わが国においても起こりうると考えられる。 3. 新規参入が活発な州の特徴 電源構成で石炭火力の比率が低く、天然ガスの比率が高く、かつ電気料金が高い州に おいて、新規参入が活発である傾向が見られる(図 1B,C)。一方、これらの州では、電 力多消費産業が少なく、電力需要全体の成長も滞っており、必ずしも良好な需要環境に よって、新規参入が誘発されているわけではないことが推察される。 その他 事業者, 22.6% 表 4 つの属性の整理 属 性 競 争 事 業 新 規 参 入 者 摘 要 「新興電力」 他業種からの参入者や新規起業者 「国外電力」 海外からの電気事業者の参入者 「他州電力」 他州からの電気事業者の参入者 近隣州のみに 進出している 電力7社, 10.4% 公営等, 6.8% 配電事業とそれに伴う規制下の小売 事業を提供する地元の既存事業者 規制事業 計12.1% Centrica, 7.6% HESS, 4.5% FirstEnergy, 9.4% 複数州に進 出している 電力8社, 10.4% 地元の既存事業者の小売子会社 「地元電力」 Exelon, 13.2% NRG, 4.7% Noble, 4.8% GDF‐suez, 5.6% 注:HESS は 2013 年に Centrica に買収されている 図 2 全米の競争的小売市場のシェア(2012 年) ア B 電 源 構 成 ② ③ ④ △ - 不活発 ○ ○ ? ○ △ 活発 ○ ○:5割以上 × △:3割未満 活発 ×:0(ゼロ) OR M I OH IL 公営等* 新興電力 国外電力 他州電力 PA NY NJ M D DC TX RI DE NH M A CT M E -:評価なし ?:別途評価 が必要 100% 新規参入者 ェ 市 場 シ ① 競争事業 A グループ分け 競争事業への移行 地元電力のシェア 競争状況 地元電力 規制事業 80% 60% 40% 20% 0% OR M I OH IL PA NY NJ M D DC TX RI DE NH M A CT M E OR M I OH IL PA NY NJ M D DC TX RI DE NH M A CT M E その他 100% 再エネ 80% 石油 60% 天然ガス 40% 水力 原子力 20% 石炭 0% C 各州料金 電 気 料 金 自由化州 加重平均 全米加重 平均 15 cent/kWh 13 11 9 7 図 1 各自由化州の市場シェアと電源構成(2012 年) * 公営事業者は分析の対象としていないが、シェアの大きい州についてはグラフ上に示している。 州の名称: OR:オレゴン、MI:ミシガン、OH:オハイオ、IL:イリノイ、PA:ペンシルバニア、 NY:ニューヨーク、NJ:ニュージャージー、MD:メリーランド、DC:ワシントン DC、 TX:テキサス、DE:デラウェア、NH:ニューハンプシャー、RI:ロードアイランド、 MA:マサチューセッツ、 CT:コネチカット、ME:メイン 研究担当者 筒井 美樹(社会経済研究所 電気事業経営領域) 問い合わせ先 電力中央研究所 社会経済研究所 研究管理担当スタッフ Tel. 03-3201-6601(代) E-mail : [email protected] 報告書の本冊(PDF 版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/ よりダウンロード可能です。 [非売品・無断転載を禁じる] © 2014 CRIEPI 平成26年7月発行 14-001
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