電力中央研究所報告 原子力発電 再処理工場で発生する不溶解残渣の高温反応 キーワード:不溶解残渣,揮発 背 報告書番号:L13002 景 使用済燃料に含まれるルテニウム(Ru)は再処理の溶解工程において、一部が硝酸に 溶解し、一部は不溶解残渣*1 と呼ばれる合金となる。不溶解残渣中で Ru は金属だが、 +8 価の酸化物 RuO4 は揮発性を有することが知られている。硝酸に溶解した Ru が濃縮 された際に特に RuO4 が生じやすいと言われているが、硝酸への溶解量は温度や濃度等 の条件で変動し得る。 仮に溶解槽や貯槽の冷却機能等が失われた場合、不溶解残渣は自身の構成元素と周辺 の放射性核種の崩壊熱により、通常よりも過熱される可能性がある。その際に周囲の硝 酸は濃縮されて、最大で濃度 16M の高濃度硝酸となる。従って、過熱された不溶解残渣 中の Ru 金属が高濃度の硝酸中に溶解し、或いは硝酸の蒸発後に空気中に露出した Ru が 酸化して、気相中へと移行しないことを確認する必要がある。 目 的 不溶解残渣が溶解槽や貯槽において過熱された場合に懸念される高濃度硝酸への溶解 と揮発、および空気中で過熱された場合に起こり得る酸化・揮発の挙動を解明する。 主な成果 1. 高濃度硝酸中における溶解・揮発 不溶解残渣を模擬した合金 Mo0.3Ru0.5Rh0.1Pd0.1 の粉末(15-20μm)を濃度 16M の沸騰 硝酸と反応させたところ、図 1 の溶解率が得られた。48 時間における不溶解残渣中の Ru の溶解率は約 8%で、通常の溶解工程で溶解する Ru を約 10%増加させるに過ぎない。 実験の中でも Ru の揮発は見られず、不溶解残渣が 48 時間にわたり 16M の沸騰硝酸と 接触しても、気相へは移行しないことが示された。 2. 大気中における酸化・揮発 不溶解残渣を模擬した合金 Mo0.3Ru0.5Rh0.1Pd0.1 の粉末(15-20μm)を空気雰囲気の熱分 析装置中で加熱したところ、400℃以下では酸化に伴う有意な重量増加も、反応に伴う有 意な熱収支も見られなかった(図 2)。そこで、不溶解残渣の主成分である Ru の酸化と 揮発が起こる条件を調べるために Ru 粉末を加熱し、図 3 に示す通り 550℃以上で酸化に 伴う重量増加が始まることを明らかにした。図 3 の範囲で Ru から RuO2 への酸化率は約 95%となった。酸化で生じた RuO2 を 1000℃に加熱して 2 時間保持したが、図 4 に示す 通り 1000℃では揮発に伴う重量減少は全く観察されなかった。 以上の試験成果より、不溶解残渣が溶解槽や貯槽において過熱された場合にも、気相 への有意な移行にはつながらないことが明らかとなった。 *1 不溶解残渣:核分裂で生成したルテニウム、ロジウム、パラジウム、モリブデンおよびテクネチウムが 燃料中で合金を形成し、再処理の溶解工程で溶け残るもの。 25 12 10 20 重量(mg) 重量(mg) 8 6 4 Mo Pd Rh Ru 2 00 10 20 30 時間(h) 5 15 0 10 DTA(μV) -5 5 40 0 50 -10 50 100 150 200 250 300 350 400 温度(℃) 図 2 4 元合金の重量と反応熱 (酸化による重量増加は無い) 0 図 1 溶解率の変化 (Ru の溶解は約 8%) 250 38 40 1000 重量変化速度(μg/min) 重量(mg) 150 34 100 32 50 30 0 重量(mg) 800 温度(℃) 36 35 重量変化速度(μg/min) 200 25 600 20 400 15 温度(℃) 10 200 5 重量(mg) 28 0 600 温度(℃) -50 1200 図 3 Ru の酸化に伴う重量増加と反応熱 (500℃以上で酸化) 30 重量(mg) 溶解率(%) 10 DTA(反応に伴う熱収支)(μV) 14 0 0 40 80 120 160 時間(分) 200 0 240 図 4 1000℃で RuO2 には揮発による 重量減少が見られず 研究担当者 宇佐見 剛(原子力技術研究所 燃料サイクル領域) 問い合わせ先 電力中央研究所 原子力技術研究所 研究管理担当スタッフ Tel. 03-3480-2111(代) E-mail : [email protected] 報告書の本冊(PDF 版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/ よりダウンロード可能です。 [非売品・無断転載を禁じる] © 2014 CRIEPI 平成26年2月発行 13-005
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