福島原子力事故後の原子力安全規制が内包す る規制

電力中央研究所報告
経
営
原子力発電
福島原子力事故後の原子力安全規制が内包す
る規制リスク
ー原子炉等規制法の規制構造に着目してー
キーワード:原子炉等規制法,原子力安全規制,規制リスク,
バックフィット,安全目標
背
報告書番号:Y15020
景
新規制基準への適合性審査や電力システム改革の進展等、原子力の主たる担い手であ
る電力会社を取り巻く経営環境は、不確実性を増しつつあり、これに対応するための
「原子力事業環境整備」注 1)が進められつつある。一方、原子力安全及び事業体制を規定
する原子炉等規制法及び同関係法令についても、経営環境変化への対応が困難な場面が
想定され、制度改善が必要である。
目
的
原子炉等規制法及び同関係法令の下で規定される、原子力安全及び事業に関する規制
の特色を明らかにし、それらの規制が、事業形態や経営の変化・変革等に対応できる仕
組みになっているかどうかについて分析する。分析結果を踏まえ、課題点の抽出と課題
克服のための制度改善の方向性を示す。
主な成果
1. 制度的課題の抽出
原子炉等規制法を中心とした、原子力安全及び事業に関する規制は、以下の制度的課
題を抱えており、原子力事業経営にとって潜在的なリスクを内包する(図参照)
。

事業者等が存続・承継することを前提とした規制であり、事業者等の市場退出等を
想定した規制が不備である。

原子燃料サイクルを構成する主要事業において「経理的基礎」が事業の許可要件と
されており、その審査を通じ、原子力規制委員会が、同委員会設置法の任務の範囲
を超えた、サイクル政策への関与を行う潜在的可能性がある。

バックフィット規制の運用手続において、施設変更であるにもかかわらず設置許可
の実質的なやり直しが行われたり、40 年運転期間延長認可においてバックフィット
が要求されたりする等の不明瞭な運用がなされている。
2. 課題の要因分析
制度的課題の要因を分析した結果、以下の点が指摘できる。

原子炉等規制法は、事業規制と安全規制が同じ規制枠組みの中で行われるため、廃
業等によって事業者が存在しなくなった場合には、規制が及ばなくなる。また、安
全規制の責任を担う原子力規制委員会が、当該事業の事業許可要件の審査を行うた
め、事業許可に際して安全確保以外の要素を考慮に入れてしまう等の、規制委員会
設置法の定める任務に違背する規制運用を招く潜在的危険性がある。

原子炉等規制法は、施設変更許可と施設設置許可の審査対象範囲をほぼ同一に設定
し、変更許可の基準も設置許可のそれを準用している。これは、我が国で採用され
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ている原子力利用技術は、海外で安全性が確認された輸入技術であり、それが頻繁
に変更されることはない、ということを前提としている規制構造である。

原子力規制委員会には、行政裁量により規制の未整備に対応しようとする、あるい
は、被規制者に対する規制への適合の徹底追求を通じて現行規制の妥当性を社会に
対して訴求しようとする規制運用姿勢が観察される。そして、原子炉等規制法の規
制運用手続の未整備がこれを許容している。
3. 課題克服のための制度改善の方向性
上述の課題を克服するための制度改善の方向性として、以下を示した。

2012 年の原子炉等規制法改正によって不明瞭な形となった、原子力規制における産
業政策的規定を、同法の再度の改正あるいは新規立法により明確化し、これらにつ
いては、産業政策を担う行政庁(経済産業大臣)による制度運用を確保する。

安全目標の活用注 2)等、規制の妥当性を評価し、その継続的改善を促す仕組みを整備
し、規制の継続的改善を前提とする規制への転換を求めることや、行政立法や規制
運用の妥当性についてチェック可能な規制体制とする。
図 原子力安全規制の制度的課題の要因分析と課題克服の方向性
注 1) 電力会社が原子力発電所の想定運転年数の経過前に廃炉を決定した場合、設備等の資産の残存簿価を 10 年間で均等
償却することを認める制度改正が 2015 年 3 月に実施された。また、2016 年 1 月には核燃料サイクル事業を将来にわたり
完遂するための持続主体として、認可法人(使用済燃料再処理機構)を創設する方針が示された。
注 2) 何を目指して安全性の向上を図るか、また、どのような方策がリスク低減上効果的であるか、等について目標を設
定し、その達成度を評価するための手法を確立し、規制改善のメルクマールとして活用すること。
研究担当者
田邉 朋行(社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 兼 原子力リスク研究セン
ター リスク評価研究チーム
リスク解析ユニット)
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問い合わせ先
電力中央研究所 社会経済研究所 研究管理担当スタッフ
Tel. 03-3201-6601(代) E-mail:[email protected]
報告書の本冊(PDF 版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/ よりダウンロード可能です。
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