高温水中における弾塑性破壊靭性試験法の 検討

電力中央研究所報告
原子力発電
高温水中における弾塑性破壊靭性試験法の
検討
キーワード:破壊靭性,高温水,弾塑性破壊靭性試験,NDR 法,
低合金鋼
背
報告書番号:Q15015
景
破壊靭性は亀裂を有する物体の破壊に対する抵抗の指標の一つであり、軽水炉機器の
健全性評価にも用いられる重要な材料特性である。破壊靭性データ取得のために実施す
る破壊靭性試験は、軽水炉構造材料を対象とする場合も大気環境中で実施されることが
一般的であるが、一部の軽水炉構造材料において、水素を含む炉水模擬環境中で大気中
よりも破壊靭性が低下する研究例注 1)が報告されている。炉水環境が材料の破壊靭性に
及ぼす影響を評価するには、高温水中で動作可能な機器により破壊靱性試験を実施する
必要がある。
目
的
高温水中での荷重線変位実測に基づく弾塑性破壊靭性試験法確立のために、高温水中
で動作可能なクリップゲージを作製し、弾塑性破壊靭性試験への適用性を検討する。
主な成果
1. 高温水中用クリップゲージの作製と動作確認
炉水模擬環境における耐食性を持ち、高クリップ力と比較的大きな測定範囲(8 mm)
を実現する形状の高温水中で動作する C(T)試験片用のクリップゲージを作製した
(図 1)
。
作製したクリップゲージは、室温水中では値のばらつきが少なく、288℃、溶存酸素濃度
8 ppm の水中では不規則周期のばらつきがあるものの、試験規格で要求される精度注 2)
を概ね満足した(図 2)。
2. クリップゲージの高温水中破壊靭性試験への適用
クリップゲージにより取得した荷重線変位を用いた Normalization Data Reduction(NDR)
法注 3)および、直流電位差(DCPD)法により、高温水中においても低合金鋼の破壊靭性
特性(J 積分-Δa 関係)を把握できることを示した(図 3)。弾性除荷コンプライアンス
(UC)法注 4)の実施においては、十数秒程度の周期的な測定値の変動(図 2)の影響が
大きいため、この点を改善する必要があることが明らかとなった。
3. 高温大気中と高温水中の破壊靭性の比較
288℃、溶存酸素濃度 8 ppm の水中において低合金鋼の延性亀裂進展開始点における J
積分 JQ を求めた。水中と大気中の結果を比較したところ、高温水中データはばらつき
が大きい傾向があるものの、破壊靭性に明確な差異がないことが示唆された(図 4)。
今後の展開
試験条件の変更によって UC 法の適用性を再検討すると共に、試験データを拡充する。
図 1 作製した高温水中用クリップゲージの試験片
への装着状態。
クリップゲージは対流防止板に覆われている。
図 2 室温および 288℃水中の荷重線変位
の時間変化
延性亀裂進展開始点におけるJ積分 JQ (kJ/m2)
500
450
400
362
350
307
300
259
267
250
200
150
100
50
0
図 3 NDR 法と DCPD 法により取得した J 積分-Δa
関係の一例
図 4 288℃における水中および大気中の JQ の
比較
図中の値は平均値であり、エラーバーは標準
偏差を表している。
注 1) Program on Technology Innovation Scoping Study of Low Temperature Crack Propagation for 182 Weld
Metal in BWR Environments and for Cast Austenitic Stainless Steel in PWR Environments (Revision 1).
Final Report, EPRI, 2010.
注 2) ASTM E1820-15 Standard test method for measurement of fracture toughness を指す。測定機器の値のば
らつきについて、UC 法実施の場合は、測定値とその近似線との差が測定範囲の最大値の±0.2 %に収
まるよう要求されている。
注 3) ASTM E1820-15 の Annex 15 に記載されている手法。荷重-荷重線変位関係と、初期亀裂長さおよび
最終亀裂長さから試験中の亀裂進展量を推定する手法であり、試験中のリアルタイムの亀裂進展量
モニタリングを必要としない。
注 4) ASTM E1820-15 に記載されている標準的な手法。試験片に負荷と除荷を繰り返し、除荷過程の荷重荷重線変位関係から亀裂進展量を推定する手法。荷重線変位の測定には比較的高い精度が要求される。
研究担当者
三浦 靖史(材料科学研究所
構造材料領域)
問い合わせ先
電力中央研究所 材料科学研究所 研究管理担当スタッフ
Tel. 046-856-2121(代) E-mail : [email protected]
報告書の本冊(PDF 版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/ よりダウンロード可能です。
[非売品・無断転載を禁じる] © 2016 CRIEPI
平成28年6月発行