リーフレット [Leaflet] - 電力中央研究所

電力中央研究所報告
先 端 技 術
ナノ・マイクロテクノロジーを利用した生物計
測技術の開発(その3)
−水銀分析のための固相抽出法とマイクロイムノアッセイ−
キーワード:水銀,固相抽出,イムノアッセイ,抗体,
マイクロ流体デバイス
背
報告書番号:V11045
景
近年、国際的な枠組みによる水銀の排出と輸出入の管理が議論されており、将来的な
規制対象の拡大に伴い水銀測定のニーズの増加が予想されることから、今後は簡易で高
感度な水銀分析法が望まれる。これまで当所では重金属と反応する抗体を用いた、簡便
で高感度なイムノアッセイを開発、実用化している。また、水銀に反応する抗体を見出
しているが(1)、水銀を含む試料に適した前処理法が開発されていないため、イムノアッ
セイの構築には至っていない。
目
的
水銀(Hg2+)を含む試料の簡易な前処理法を構築し、イムノアッセイと組み合わせて
簡便かつ迅速な測定の原理を立証する。
主な成果
1. イオン交換樹脂を用いた水銀イオンの吸着および溶出
イオン交換樹脂を利用した前処理カラムを作製し、試料中の 2 価水銀(100μg/L)を
全量吸着しうる樹脂の粒子径や粒子量の条件を見出した。また、吸着した水銀のほぼ全
量(97.5%)を溶出可能で、後段のイムノアッセイに有益な組成の溶出液を見出した(図 1)
。
2. 共存金属類の排除
環境試料において共存が想定しうる金属類(カドミウム等、全 10 種類, 各 100μg/L)
を添加した試料を前処理カラムに通液し、
吸着と洗浄による除去を検討した。
その結果、
前処理カラムに対するカドミウム以外のイオンの吸着を抑制し、続く純水洗浄により吸
着したカドミウムの全量を除去できた。これにより、溶出液への水銀以外の抗体と反応
しうる金属類の影響を排除できた(図 1, 2)
。
3. マイクロイムノアッセイによる水銀の測定
開発した前処理法を、当所が保有する抗体と既報(2)のマイクロ流体デバイスを用いた
マイクロイムノアッセイ(図 3)と組み合わせ、水銀の測定を行った結果、測定範囲は
1.1 – 5.1μg/L、検出下限値は 0.6μg/L であり、廃棄物処理法が定める埋立処分に係る溶
出量基準(5μg/L 以下)を満足することが示された(図 4)。
本報で構築した水銀を含む試料の前処理法と、それに続く水銀測定により、国内にお
いて初めてのイムノアッセイを利用した実用的な水銀分析法を提案した。
今後の展開
電気事業における環境管理への活用のため、環境試料で想定される妨害物質の測定へ
の影響を検討するとともに、定量範囲の拡大も図る。
試料 (前処理前)
前処理カラム作製
濃度 [μg/L]
塩酸濃度: 0.1M HCl, 5ml
全量水銀を吸着.
カドミウムを除く共存金属
類の吸着抑制(<1.5%).
コンディショニング
100
80
60
40
20
0
Mn
試料溶液送液
Mg
Fe
Zn
Cd
Cu
Hg
Cu
Hg
洗浄 (純水, 15mL)
カドミウムの完全な除去.
溶出液 (前処理後)
溶出率 [%]
洗浄
溶出液:10uM EDTA-4Na
50mM Tris(pH7.5), 10ml
溶出
水銀の全量(97.5%)を回収
100
80
60
40
20
0
Mn
Mg
Fe
Zn
Cd
イムノアッセイによる測定
図 1 前処理・測定の流れと各操作
側鎖に三級アミンを有し、金属類を吸着しうるイオン
交換樹脂を用いて作製した前処理カラムと、最適化し
た前処理により、水銀イムノアッセイにおいて競合と
なるカドミウム等の共存金属類の影響を完全に排除
し、試料溶液中のほぼ全量の水銀の溶出できた。
図 2 水銀抽出と共存金属の排除
試料中の水銀を除く金属類
(各 100μg/L)
は、前処理により、除去された。
抗原抗体反応
水銀‐EDTA
Y
+
Hg
測定範囲: 1.1-5.1 μg/L
検出下限: 0.6 μg/L
定量下限: 3.2 μg/L
100
Hg
Y
マイクロ流体デバイス
相対信号値 [%]
抗体
80
60
40
20
9.0ppb
0
0.1
1
10
100
1000
制御用PC + 吸光度測定装置
試料溶液中の水銀濃度 [μg/L]
図 3 マイクロイムノアッセイの概要
水銀-EDTA 錯体と抗体を混合し、マイクロ流
体デバイスを利用したフロー式イムノアッ
セイに供した。
図 4 マイクロイムノアッセイによる標準曲線
水銀および 10 種の金属類(100μg/L)を含む試
料について前処理に供し、続いてイムノアッセ
イにより測定した。
関連研究報告書
(1)V980501「環境モニタリングを目的としたモノクローナル抗体の開発(4)
」
(2006.4)
(2)V10031「ナノ・マイクロテクノロジーを利用した生物計測技術の開発(その 2)
」
(2011.5)
研究担当者
伊達 安基(環境科学研究所
バイオテクノロジー領域)
問い合わせ先
電力中央研究所 環境科学研究所 研究管理担当スタッフ
Tel. 04-7182-1181(代) E-mail : [email protected]
報告書の本冊(PDF 版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/よりダウンロード可能です。
[非売品・無断転載を禁じる] © 2012 CRIEPI
平成24年6月発行
11−007