電中研報告 原子力発電 低レベル放射性雑固体廃棄物のプラズマ 溶融時のセシウム蒸発挙動(その2) −セシウムを捕捉するための溶融条件− 背 景 低レベル放射性雑固体廃棄物の処理にプラズマ溶融法を適用するためには、廃棄体の 放射能測定において重要な核種であるセシウム(Cs)をスラグ層中に一定割合以上捕捉 する必要がある。これまでに、全量溶融に至るまでの過渡的な状態での Cs 捕捉挙動を明 らかにし、Cs 捕捉率は、溶融スラグからの Cs の蒸発速度が求められれば、それと廃棄 物の溶融速度およびるつぼ断面積から推定できることを明らかにした1)。この内、廃棄物 の溶融速度については、プラズマ出力、電力原単位などから推定可能である1)。一方、溶 融スラグからの Cs の蒸発速度は溶融スラグ表面積やスラグの組成の影響を受けるため、 これらの影響を含めて、廃棄体評価に必要とされる Cs 捕捉率2)を得る溶融条件を明らか にする必要がある。 目 的 プラズマ溶融処理時において、溶融スラグからの Cs 蒸発速度に対する溶融スラグ表面 積、スラグ組成3)の影響を明らかにし、Cs を 50 %以上捕捉できる溶融条件を明らかにす る。 主な成果 炭素鋼と酸化物試料4)に非放射性の Cs を添加した試料を、断面積の異なる(254,314, 415 cm2)アルミナ製のるつぼ内で、50 kWの出力により窒素雰囲気で溶融処理した。試 料が全量溶融した後もプラズマ加熱を継続し、溶融スラグ中の Cs 濃度の経時変化から Cs 蒸発速度を調べ、以下の成果を得た。 1. 溶融スラグ表面積の影響 溶融スラグからの Cs の蒸発速度は、プラズマ電極点近傍における高温領域の影響を受 けた。しかし、その影響度は溶融スラグ表面積を大きくすると急激に小さくなり、Cs 蒸 発速度定数も小さくなった(図1) 。実機では、るつぼ断面積がさらに大きいので、電極 点近傍の高温領域の影響度がさらに小さくなり、Cs 蒸発速度定数はより小さい値になる と考えられる。 2. 溶融スラグ組成の影響 (1)実機を想定し、Cs の蒸発速度に対する電極点近傍の高温領域の影響が小さくなっ た溶融スラグ表面積が 415 cm2の条件で、Cs 蒸発速度定数をスラグの塩基度に対し て調べ、雑固体廃棄物の塩基度3)Ki=0.4∼1.2の範囲に対して3.5 ∼ 20×10-6(m/s) の値を得た(図2) 。 (2)塩基度Kiに対する Cs 蒸発速度定数の値を図2の実線で示すように高めに評価し、 これまでに提案した Cs 捕捉率の推定式1)により、Cs 捕捉率を50 %以上確保する ために必要な廃棄物の溶融速度の領域を算定した(図3) 。廃棄物の溶融速度と Cs 捕捉率の実測値から本評価手法の妥当性を確認した。 開発した Cs 捕捉率評価手法は、廃棄体評価に必要とされる Cs 捕捉率を達成するため のプラズマ炉の設計、プラズマ加熱条件の設定等に活用できる。 00─017 注 1)安井他:電中研研究報告 W96015(1997) 、電中研研究報告 W98016(1999) . 2)低レベル放射性雑固体廃棄物の溶融処理では、Cs 捕捉率を 40∼50 %と設定している。 3)Cs 捕捉率に対するスラグ各成分の影響度を調べた結果、Cs 捕捉率は以下の塩基度 Ki の値と最も良い相関が得 られた。したがって、Cs 蒸発速度をスラグの塩基度 Ki に対して評価した。 4)粒状の酸化物(Fe2O3, Ar2O3, SiO2, CaO, MgO)を混合して用いた。各酸化物の混合割合を変えて塩基度を設定し た。また、溶融試料重量は、塩基度をパラメーターとした試験では、炭素鋼10 kg、酸化物試料の混合体 3 kgと し、るつぼ断面積を変えた試験では、スラグ層と金属層の体積比、各層の厚みが一定となるように調整した。 図1 溶融スラグ表面積とCs蒸発速度定数の関係 図3 図2 スラグの塩基度KiとCs蒸発速度定数の関係 Cs捕捉率を50 %以上達成するための塩基度Kiに対する廃棄物の溶融速度の領域 研究報告:W00009 キーワード:プラズマ溶融、蒸発挙動、セシウム、低レベル、放射性廃棄物 関連研究報告書 「低レベル放射性雑固体廃棄物のプラズマ溶融時のセシウム蒸発 挙動」W98016(1999.4) 主担当者 連 絡 先 安井 晋示(電力部) (財)電力中央研究所 横須賀研究所 事務部 研究管理担当 Tel 0468−56−2121(代) e-mail yo-rr-ml @ criepi.denken.or.jp
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