僕の父親はラスボスです ID:73718

僕の父親はラスボスです
重さん
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︻あらすじ︼
ラスボスの父親を持った少年。
彼は果たしてどのようにかんがえ、どのような体勢をとるのか。
駄文、短い、そんな感じです。
目 次 僕の父親はラスボスです │││││││││││││││││
1
僕の父親はラスボスです
ラスボスとは何か。
それは一般的に言うならばラストボス。つまりは最後にして最強
の敵ということになる。
物語を進める中で特に珍しくもない雑魚、物語の中盤で試練として
立ちはだかる中ボス、そして最後の関門たるラスボスといった具合に
分類される。敵の中でも作品を通じて通例一体しか存在しない超レ
アキャラだ。
もちろんその戦闘能力、もしくは知力は折り紙付き。そんじょそこ
らの生物では太刀打ちできない。
そんな存在を人はラスボスと呼ぶ。
さて、では僕が何故いきなりこんな話をしたかというとだ。
僕の父親が他ならぬラスボスだからだ。
﹁父よ﹂
﹁息子よ﹂
﹁何故僕はマグマに浸かっているのか﹂
﹁息子よ﹂
﹁父よ、答えになっていない﹂
﹁お前は俺の子だ﹂
﹁それはつまり﹁お前は俺の子なのだからこれくらいは何も言わずに
耐えてみせろ﹂ということか﹂
﹁息子よ﹂
﹁強者は寡黙であるべし、ということか﹂
父親はこくんとうなづいた。
この通り、我が父はなかなかに強者である。
どんな時でも一単語、多くても三単語しか発さないその姿はラスボ
スとしての揺るぎない信念を感じさせる。
強者である。
父はネチョォ、という音をさせながらマグマ風呂から上がると、そ
1
の全てがタングステンで作られた肉体美を見せつけるようにして
ポージング。
美しい。
ポージングに意味を求めてはならない。ポージングとは何も共通
点がない全く違う人種にも美しいという感情を抱かせることができ
る人類の至宝である、とは父の言である。もちろんこの時の言葉は
﹁意味を求めるな﹂であった。さすがである。
父はしばらくポージングを決めたのち、僕を振り返った。
その目は煌々と赤く輝き、岩石のようにゴツゴツとした顔は見るも
のを否応なく威圧する。
そして、クイッと顎を前に少しだけ動かした。
﹁たちあがれ﹂というサインだ。生まれた時から一緒にいるだけあっ
てこういうサインを読み取るのはお手の物だ。
僕もまた、ネチョォ、という音を立てながらマグマ風呂から立ち上
がる。
しかし、ポージングはしない。
父は僕の体を頭からつま先までつぶさに観察すると、ゆったりとし
た動作で目を閉じた。
﹁精進せよ﹂
﹁御意﹂
何故ポージングをしないのかと言われれば、僕の体はまだ未熟だか
らだ。
父はラスボスである。
ラスボスにふさわしいポージングというものを熟知している。そ
して、体に見合わないポージングは身を滅ぼす。
もしも僕が父のポージング、ラスボスポージングをするにはその父
の肉体の域まで体を鍛え抜かなければ、僕はポージングをすることを
許されないのである。
ポージングは人の心を癒しもすれば、壊しもする。
そのことを忘れてはならない。僕は常にそうやって心を戒めてい
る。
2
父は僕の目を見て、僕の心の内を図っているようだった。
父はラスボスである。故に人の心を見透かすことなど容易い。僕
が本当の意味でポージングというものを理解しているのか判断して
いるのだろう。
そして、父は再び目を閉じた。
﹁合格﹂ということだ。
僕はどうやらポージングのなんたるかを間違えずに済んだらしい。
心の中で少しだけ安堵する。
しかし、同時に不安にもなる。
僕は果たして父に追いつける日が来るのだろうか。このラスボス
よりもラスボスらしいラスボスに果たしてなることができるのだろ
うか。
世の中には様々なラスボスがいる。人間が絶望を知りラスボスに
なろうとするもの、中ボスが野心を抱きラスボスに下克上するもの、
最後には世界を救うはずの勇者がラスボスになることもあるかもし
れない
ラスボスの息子ということしか取り柄のない僕は、果たしてこの険
しいラスボスへの道を踏破することができるのだろうか。
そんなことを考えた時、頭に何かがカツン、と触れた。
父のタングステン製の腕である。
父は何も言わずに、僕の頭に触れ続ける。
それで十分だと、父はそう思っているのだろう。
僕がそれ以上のことをしなくても立ち上がるということを信じて
いるのだ。
ならばその期待に応えないでなんとする。
﹁⋮精進します﹂
万感の想いを込めて放ったその言葉。
父は小さく頷いた。
3