GIRLS und PANZER 地獄ハ謳ウ ID:86433

GIRLS und PANZER 地獄ハ謳ウ
snake710
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︻あらすじ︼
﹂
﹂﹂
エルヴィン﹁ガルパンにHELLSING成分注入したら面白いん
じゃね
﹂
左衛門佐・おりょう﹁﹁それだぁー
カエサル﹁まじでやるの
?
カエサル﹁・・・・・大丈夫か、これ
﹂
左衛門佐﹁物語的に難しいからな・・・・・﹂
おりょう﹁物語形式じゃなくて、場面切り抜きぜよ﹂
形式じゃない﹂
エルヴィン﹁短編集でやるつもり、ちなみにあらすじのような台本
?
!!
?
最後の大隊 │││││││││││││││││││││││
1
目 次 主と下僕 ││││││││││││││││││││││││
7
最後の大隊
﹃戦車道﹄
それは古来から続く乙女の嗜みである。良妻賢母を育てるため世
界中で行われる。﹁戦争の技術﹂から﹁競技の技術﹂へと変化した。
嘗てのような戦争から隔絶され、確固たる安全性が確立された今日
において戦車による闘争は娯楽と成り果てた。
今日における戦争は高度化と安全性を考慮した無人兵器に転換さ
れ、人を乗せて運用する有人戦車はコストパフォーマンスが高く、人
件費や維持費の低い発展途上国のみ限定された。そして、戦争は低程
度紛争のみに限定され、先進国における軍は無人機を運用する人員の
みになり、無人兵器が戦場の主役と成り代わる。
この時代の変化は戦車道だけではなく﹁空戦道﹂や﹁戦艦道﹂、
﹁歩
兵道﹂を生み出すこととなった。
しかし、人はそれでもなお闘争を求める。
そこは薄暗い一室であった。行き届いた空調によって中は快適で
あったその部屋には1台の液晶テレビによって周囲を照らし続けて
いる。そのテレビの前には椅子に座る小太りの男と背の高い男が2
人そのテレビをじっと見据えていた。
1
それは第63回戦車道全国高校生大会1回戦の様子である。近年
戦車道を復活させた県立大洗学園と戦車道の強豪校、サンダース大学
付属高校との戦いであり、圧倒的な兵力差と武装の違いから当初の予
測では大洗学園の惨敗であると誰もが予想した。しかし、サンダース
高 の 一 両 が 撃 破 さ れ、予 想 は 覆 さ れ た。さ ら に、隠 さ れ て い た サ ン
ダースのフラッグ車が大洗の車両に発見され、大洗は総力を挙げてこ
れを撃破せんと大挙して押し寄せたのだ。類を見ないその鬼ごっこ
はサンダースの救援によってさらに混沌と化し、勝負の行方が分から
なくなってしまったのだ。
しかし、大洗の車両は次々と撃破されていき、起死回生とばかりに
隊長の乗るⅣ号戦車が射撃のしやすいエリアにそれ、それをサンダー
スのFirefly中戦車によって狙われた。追いかけるフラッグ
車がⅣ号戦車のキルゾーンに入った瞬間、そしてFireflyの射
2
程内に入ったその時。Ⅳ号戦車の砲撃が命中する。さらに砲撃直後
にFireflyの砲撃によりⅣ号戦車にも命中する。
試合会場は一瞬にして沈黙が支配し、戦っていた彼女らも動きが止
まる。
そしてM4A1シャーマン中戦車の砲塔の上に立った白旗を見た
︶
審判が判定を下した。
︵大洗学園の勝利
でもひしひしと伝わった。
は咽び泣く。歓喜と悲哀が入り混じった試合会場はテレビ画面から
包み込み、感情の爆発がその場を支配する。ある者は歓喜し、ある者
特設観客席の歓声と大破した大洗の学生の歓声がその大会会場を
!!!
﹁ははっはっははっはっは
みたいじゃないか﹂
強いな大洗。あのシャーマンがボロ雑巾
一撃でエンジンを仕留めた大洗のIV号戦車の砲手に対して小太
りの男は賞賛に値すると拍手を送る。それは偶然や奇跡といったも
のではなく、積み重ねられた経験、技術による成果である。戦場には
偶然や運と言ったものが存在しないわけではない。しかし、大半の結
果は経験や積み重ねられた事項が勝敗を左右する。
﹂
椅子に座りそれを見ていた男は見事な精密射撃に歓声を送った。
﹁やっぱり強いなあいつは。べらぼうに強いな、存外に強いな
﹁否
馬鹿を言うな。むしろ大成功に近い﹂
れを制す。
苦悶の表情を浮かべながら謝罪の言葉を口にするが、小太りの男はそ
横の白衣を着る奇妙なメガネを掛けた男は人差し指を噛みながら。
﹁も、も申し訳ありません。やはり・・・やはり私どもは・・・﹂
!
で足を組み、指を重ね合わせて笑みを浮かべた。
﹁あの西住に対してあのサンダースは一定の戦果を挙げたのだ。それ
は驚くべき英雄の抒情詩だ。・・・西住みほ、それはもはや西住流戦
車道ではない戦車道。すなわち彼女は短い間に西住流に対抗できる
本懐に指を掛けたのだ。
乙女を構築し
乙女を兵装し
3
!
テレビを消し、満足そうな笑みを浮かべた男はゆっくりとした動作
!
乙女を教導し
乙女を編成し
乙女を兵站し
乙女を運用し
﹂
返事をする。
﹁では諸君
﹂
その声とともに一室は揺れ動き、機械音が部屋を満たした。
船
﹁楽しい楽しいショーもひとまずお開きだ。そろそろ帰ろうじゃない
か。愛しきホームへ﹂
暗がりの一室は巨大な昇降機と化し、機械音を立てながら上がって
い く。上 が っ た 先 は 黒 森 峰 の 校 章 を 床 一 面 に 描 か せ た 巨 大 な 艦 橋
だった。艦橋の窓から見える大空と遥か下に見える情景は先ほどま
オペラハウス
で戦車道と歩兵道の合同大会があった大会会場である。
回 頭 の 用 意 だ。急 げ よ、理事会 の ご 老 人 達 が お 待 ち か ね だ。
からな﹂
黒森峰海戦道を履修者が着用する軍服を着、尉官の階級章を持つ艦
!!!
乙女を指揮する
﹂
科学部顧問
彼女らこそ大洗学園﹃Oarai Panzerkorps﹄
素晴らしい
﹁感謝の極み
!
小太りの男が言うと、白衣の男はその目に狂気を宿しながら歓喜の
!
!
長らしき男は苦笑する。周りには副艦長、航海長が控えており彼らも
4
!
くれぐれも急げよ。きっと怒り心頭で顔を真っ赤にしているだろう
﹁艦 長
!
同様に笑み
を浮かべた。
フラッペン起動
﹂
少
佐
殿
﹁成程、それはまさしく一大事ですな。急行いたします。学園長
﹁取舵用意
﹂
﹂
!
立ちはだかるものは皆殺しだ﹂
百 何 千 何 万 何 億 死 の う が 知 っ た こ と じ ゃ な い。否
私の前に
﹁目標、黒森峰女学院。・・・行くぞご老人方。私の邪魔をする奴が何
船ではなく、飛行巡洋艦という名前が相応しい。
の飛行船の大きさを遥かに超え、装甲が装備されたそれはただの飛行
を校章とする黒森峰学園艦のうちの一隻である。その大きさは従来
音のプロペラ音が響く。彼らが乗るのは巨大な飛行船。漆黒の十字
命令を遂行するべく、操舵手によって方位が定まり、艦橋内に重低
﹁全フラッペン起動確認。高度よし、取り舵20
﹁取り舵用意。フラッペン起動﹂
艦長が命令し、航海長や操舵手が動き始める。
!
示するため活動してきた彼ら。
全国高校歩兵道大会において常に優勝校として威厳と尊敬の念を誇
す る 彼 ら は 黒 森 峰 女 学 院 の 戦 車 道 を 応 援 す る サ ポ ー タ ー で あ っ た。
彼らは黒森峰女学院付属男子高等学校の生徒とその教員達。帰還
いことを口にする。それに誰も気を止めることなどしない。
小太りな男、学園長と呼ばれた男は笑みを浮かべながらとんでもな
!
5
!
!
ミ
レ
ニ
ア
ム
彼らを畏怖と嘲笑と尊敬を込め﹃親衛隊﹄と呼び、彼らは自身のこ
とを﹁最後の大隊﹂と呼んだ。
6
主と下僕
嘗て失われた多くの貴族階層の家々は常に内部崩壊の危機に晒
されていた。特に重要な役職を持つ貴族は家族の中で内紛の起こる
危険性を秘めている。それは古今東西の貴族社会においてみられる
ものであり、時には父と子。兄と弟、姉と妹が争うことがあった。そ
こには富と名誉。権力が存在し、外からの圧力などによって権力闘争
が多発する。フランス革命以降の近代において、貴族階級の激減と市
民階層の急激な発展によって家族間の内紛は徐々に無くなった。
しかし、生き残った名家や資本家などの上流階層などは時にして旧
時代の血みどろの肉親同氏の骨肉の争いが行われることもあった。
嬢
さ
ん
可 愛 い 可 愛 い 姪 っ 子。私 の 可 愛 い
薄暗く、蜘蛛や鼠が巣くうダクトを10代前半の少女が息を潜め、
お
どこにいるんだい
そこには中年のゲルマン系イギリス人の男が姪っ子を探している
ようであった。しかし、その手にはあってはならない名設計者ブロー
ニング氏が手掛けた9mmブローニング・ハイパワー拳銃が握られて
衛
ロ
リ
騎
アー
馬
ナ
隊
女
学
院
戦
車
道
おり、彼の周囲には黒いスーツにサングラス、そして銃火器で武装し
近
グ
た男たちが控えていた。
﹁聖
﹁Royals Horse Guard﹂と呼ばれるに相応しい部
隊の隊長を継し、うら若き乙女。ダージリン、君は何も分かっていな
い・・・﹂
愛称で呼ばれた少女、ダージリンは狂気と沙汰としか見えないその
叔父の背中を見、震えた体を押さえるようにその場にちじこまる。
﹁君 の 兄 上、い や 君 の 父 上 が 理 事 長 を 解 任 さ れ る ま で 私 が 二 十 年 も
待ったというのに。・・・なのに辞め際の兄上は君に戦車道の隊長を
やらせるという。容認しがたい決定を残していった。それはいけな
7
通風孔の隙間から外を覗き見る。
﹁ど こ だ い
?
姪っ子。可愛い可愛い私のフロイライン。﹂
?
い。﹂
叔父であるその男はスライドを引き、次弾を装填すると再び話し続
ける。
﹂
﹁それはいけない。・・・・・聖グロリアーナ女学院、そして戦車道は
私のものだ
彼らの足音が遠ざかっていったあと、ダージリンは息を潜め、音を
立てないようゆっくりとした足取りで目的地を目指す。彼らに見つ
かれば何をされるかわからない。震えるダージリンは心身衰弱した
父親の話を思い出す。
﹃ダージリン・・・・・もしもの時・・・お前に危機が迫ったとき・・・・
どうしようもない敵の勢力に追い詰められた時、地下の忘れ去られた
資料室に行け。そこには我々、聖グロリアーナ女学院の一つの成果が
ある。お前を守るすべがある。﹄
病院に入った父の言葉を思い出したダージリンは急いで地下に降
り立つと、一目散にその地下の忘れ去られた資料室へ走っていく。物
置として新旧の備品が混在する地下室を走り抜け、奥の古びた資料室
と書かれた部屋へとたどり着き、扉を開いた。
そこには、積み重ねられた長年の研究資料が残されていた。
古今東西の兵器の資料。技術強国であったドイツ国防軍の遺した
資料やかつてソヴィエトと呼ばれていた時代の軍事資料。果ては日
本の試作戦車の設計図。ありとあらゆる資料が納められていたそこ
は戦車道を履修する者、軍事知識を欲するものにしてみれば宝の山で
あった。当時の遺された書類もあり、史料的価値があるものも存在す
るであろう。それらはご丁寧に劣化しないようアルカリ性の大判の
封筒にて保管されており、膨大な資料は山積みとなっていた。
それらは戦車道の試合で必要になるだろう。だがそうではなかっ
た。
8
!
危機的状況は試合ではなく、貴方の叔父による敵勢力が迫っている
ことであった。そうなればこれらの資料は何の意味も持たなかった。
﹁これが・・・私を守る術・・・・﹂
本心を呟きたかったが、今この時でなければ喜んでいたであろう。
ダージリンは足元にある資料をその憤りに任せて蹴ることはせず、た
だ唖然とそれらを見る。
﹁見つけたよ、ダージリン・・・﹂
部屋に叔父の声が響き渡ると同時に撃鉄を下す独特の金属音が部
屋を再び響かせる。ダージリンが死を覚悟した瞬間、銃声が響き渡
り、その衝撃でダージリンは資料の山に叩き伏せられる。悲痛な叫び
声と共に彼女の血が資料のそこかしらに飛び散り、硝煙がその部屋に
染み込んでいく。不幸中の幸いか資料に埋もれた彼女の傷は肩を掠
るだけに過ぎず、飛んで行った弾は資料室の壁にめり込んだ。
お
嬢
さ
ん
9
とどめを刺そうと歩み出す叔父にダージリンは起き上がり睨みつ
けた。
﹁叔父上・・・﹂
﹁その通りだよ。フロイライン﹂
﹂
﹁・・っ ・・貴方はそこまでして・・・そんなにまで学院長の座が欲
しいんですか
して奇妙なまでに真っ赤な瞳。彼らは直感するその存在は人ではな
毛は重力に逆らい、異常なまでに白い肌は不気味さを演出させる。そ
まるで漆黒の拘束着のような服を身に着け、腰まで延ばされた髪の
叔父、彼の取り巻きは皆その光景に驚く。
何者かが奥の書類の山から這い出てきた。そこにいたダージリンや
引き金を引かれようとしたその時だった。書類の擦れる音と共に
ダージリンは目を食いしばる。
叔父は人の姿をした悪魔だった。再び撃鉄が下げられ、死を覚悟した
ハイパワー拳銃を彼女の眉間に狙いをつけ、邪悪な笑みを浮かべた
の娘を戦車道の隊長にするだけだ。﹂
﹁またまたその通りだよ。フロイライン・・・君を亡き者にすれば、私
!
!
い。化け物であると。
その男は醜悪に見つめるその瞳と殺そうとする殺気。手袋には魔
法陣のようなものが描かれ、彼の瞳と共に赤く発光する。その恐ろし
﹂
い姿を見た一同は恐怖のあまり叫びながら銃を乱射する。
﹁ば、化け物め
叔父、そして取り巻き達は銃を乱射。背後にある資料など考えもせ
ずに発射し、貴重な資料が穴だらけとなる。それに憤怒を掻き立てら
れたのか、人とは思えない雄たけびを上げると取り巻きの一人を投げ
飛ばした。取り巻きの男は壁にぶつかり腕と足をあらぬ方向へ向き、
痛みのあまり気絶する。銃弾はその暴れる彼に命中するかと思った
﹂
が、やはり当たらずに逸れて行ってしまった。
﹁なぜ当たらぬ
取り巻き一人一人を戦闘不能にさせ、取り巻きの持ち物であったハ
チェットを構えると目にもとまらぬ速さで叔父の手首に切りつける。
﹁遅すぎるぞ、人間・・・・。それでは当たらぬし、掠りもしない﹂
化け物と呼ばれた手には叔父の持っていた銃の弾倉と9mmの弾
丸が転がっていた。そして銃を構えた右手に切れ目が走り、血が噴き
出すと同時に叔父は痛みのあまり絶叫する。
﹁雑魚め﹂
その光景に罵倒すると、傷口を押さえて無双ぶりを見ていたダージ
リンに近づく男はまるで高貴な貴婦人に対するように腰をかがめ膝
を折った。
﹁お怪我は御座いませんか、お嬢様﹂
先ほどまでの殺気を放っていた男はどこへ行ったのか。まるで女
マ イ マ ス ター
王の謁見の様に慎み深く接する臣下のようでダージリンは戸惑いを
露わにする。
﹁ご命令を・・・・ご主人様﹂
この男はただの人ではない。ダージリンを主人と定め、類稀なる戦
闘能力を発揮する。それは中世の領主と臣下の関係。絶対的な忠誠
紳
士
を捧げ、彼の者のためなら命を捧げるという熱狂的な心酔。ダージリ
ンは直感した。彼はただの人ではない。﹃変態﹄であると・・・。
10
!
!
﹁名前は
﹂
至極単純な質問。だが、ダージリンのその決意のもとに言われたそ
お父上
の言葉何よりも重い。そして、漆黒の衣服に身を包んだその紳士は口
A R U C A R D
を開く。
﹁アーカード・・・・・・。先代はそう呼んでおられました﹂
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※
﹁それが出会いだったんですね﹂
刻は戻り、現代。大洗学園との親善試合が終わってから、ダージリ
ンにいつもついているオレンジペコはダージリンの話を聞き、紅茶を
飲む。
彼女たちの間柄は学院内の制度である上級生が下級生の面倒を見
る姉妹制度に由来する。ダージリンはオレンジペコを妹として、学院
の様々なことを教え、戦車道でもダージリンの乗る戦車の装填手とし
て選ばれる。そして、ソウルネームも紅茶から来ていることから二人
﹂
の結びつきは実の姉妹以上に深いものとなっていることが窺い知れ
よう。
﹁その後、ダージリン隊長の叔父様はどうなったのですか
?
11
?
ウォルター
﹁その後、執 事によって警察に引き渡されたわ。引き連れていた取り
巻きはとりあえず病院行きになったわね﹂
計画的殺人として主犯のダージリンの叔父上は無期懲役。その取
り巻きも懲役刑が言い渡された。政治的陰謀に関与したとして聖セ
ントグローリア女学院の理事と教員の何名かも依頼辞職によって学
園艦から追放され、心身を回復したダージリンの父は学院長から理事
長に昇格した。その後、内部改革とダージリンによる戦車道の育成に
よって強豪校として勢いを甦らせた。
その力の源は旧校舎内の地下室に隠された古い資料であり、それら
によって戦車道が強くなったといっても過言ではない。さらに、その
膨 大 な 資 料 は 学 園 艦 内 に 博 物 館 が 出 来 る ほ ど の 値 打 ち の 物 が あ り、
ダージリンの父は早速、文書の保管を名目に博物館を建設。戦車道関
係者を唸らせ、学園の収入として繁栄した。
﹂
﹁こんな言葉を知ってるかしら ﹃銃剣で王座を築くことはできるが、
﹂
片眼鏡をつけた古風なステレオタイプな老執事であるが、長身な体躯
12
長くは座ってられないだろう﹄﹂
﹁ん∼・・・ミハイル・ゴルバチョフ
﹁ウォルター、アーカードは
いダージリンは後ろに控えていた執事を呼んだ。
俯き、
﹁要勉強ね﹂とオレンジペコの苦手な分野が分かったのがうれし
ロシア方面のボキャブラリーが乏しいオレンジペコは悔しそうに
﹁意外です。ロシアの格言がでるとは・・・﹂
反発を招くわ。私たちはもっと優雅にことを運ぶべきね﹂
﹁ボリス・エリツィンよ。私や父が何かしなくても、横暴なやり方では
た。
い出すことができない。すると、ダージリンは微笑んで回答を言っ
オレンジペコはどっかで聞いたことがあるフレーズに考えるが、思
?
?
後ろに控えるのは初老のイギリス人であった。後ろ髪を紐で纏め、
?
とすらりとした姿勢。そして、異常なまでに鋭い眼光と物腰。それは
歴戦の兵士にも似た風格を併せ持っていた。彼は女学院内でも有名
であり、ダージリンの私生活をサポートする傍ら、闇家業に従事して
いるのではないかともっぱらの噂であった。
そんな老執事ウォルターであったが、オレンジペコ、ダージリンの
カップに追加の紅茶を注ぐと微笑みながら答えた。
﹁はい、アーカード様は現在、御当主様と共に博物館で文書整理を行っ
ております。何分、膨大な資料がありますので﹂
ダージリンの父、聖セントグローリア女学院の現理事長は昔から軍
事 文 書 や 秘 密 資 料 な ど 買 い あ さ る の が 好 き な イ ギ リ ス 人 で あ っ た。
古今東西の軍事資料を集め、学院内の学道に反映できればよいと考え
ていたが、やはり趣味と実益を兼ねたものであったのは娘の目からし
ても明らかであった。叔父に付け入る隙を与えたのは高額な軍事資
料を購入したことにダージリンの母であり、愛妻に愛想を付かされ出
13
て行ってしまったからで、心身衰弱してしまい、ダージリンが叔父に
殺されかけ、アーカードに救われてから、ダージリンの父は更生して
愛妻とも仲直りを果たした。ただ、仲直りの条件として出された、す
べての軍事資料の開示とそれを学院に売るという条件であり、ダージ
リンの父は涙ながら資料を女学院に半分を寄贈。半分を格安で売却
することになった、そしてアーカードは非常勤講師と学院に設置され
た軍事資料の図書室の専属司書として働くことになった。
現在では、軍事文書購入は諦め、膨大な量になったそれらの資料を
整理しており、何故か司書の免許を持つアーカードがそれを整理して
いる。オレンジペコはアーカードが何者なのか全くわからなかった。
﹂
何度か聞いてみても、ダージリンにははぐらかされてしまう。
﹁ウォルターさん、アーカードさんって一体何者なんですか
オレンジペコの問いかけにウォルターは苦笑を漏らす。
﹁何者と言われましても・・・そうですなぁ。さっきの話の通りでござ
?
います。異常な戦闘能力と御当主に任された資料整理。正直申し上
げますと、あの悪趣味な赤いコートとハットは普通の人間ならば着ま
せん。そして、資料の片隅に置いてある﹃魔法少女﹄を題材にした漫
ヘンタイ
画や怪しげなゲーム・・・・・・それらを統合して話しますに・・・
彼の者は紳士としか言えませんな﹂
﹁あ・・・はは・・・﹂
なんとも言えない表情のオレンジペコ。それはそうだろう。彼女
から見てアーカードはかなりの美形である。異常な程白い肌の色や
奇抜な真っ赤なコートやハットを除けば、女子は黄色い叫び声をあげ
ることであろう。加えて言うなら奇抜なファッションセンスは一部
の女子から好評らしく、アーカードファンクラブなるものを結成して
おり、崇め奉られている。そんな様子や彼の性格を知れば失望するこ
と請け合いだろう。
オレンジペコも知りたくなかったであろうアーカードの秘密。
実は黒森峰女学院の理事長とも隠れた趣味で交流があり、秋葉原に
繰り出すこともあったりするがまた別の話。
ヘンタイ
ダージリンはジョン・マクレーン並の大冒険の果てに助けてもらっ
たのが、紳士だとは知りたくなかったのだろう。存外、彼女の強かな
処は父やアーカード、そして何故かたまにやってくる黒森峰理事長と
も面識があるためかもしれない。
それらを忘れ去ろうとするようにオレンジペコは砂糖とミルクを
増し増しにして紅茶を飲む。想像や妄想は限りなく甘く、現実は生姜
紅茶のように辛かった
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