沖縄トラフ熱水噴出域に分布する生物群集の多様性 - jamstec

沖縄トラフ熱水噴出域に分布する生物群集の多様性 ○渡部裕美・小倉知美・高橋幸愛(海洋研究開発機構),矢萩拓也・徐美恵・小島茂明(東京大学大気
海洋研究所),中村雅子(沖縄科学技術大学院大学),山本正浩・和辻智郎・高井研(海洋研究開発機
構),鈴木庸平(東京大学),石橋純一郎(九州大学),藤倉克則(海洋研究開発機構), NT11-20 航海乗船者一同, 深海熱水噴出域の周辺には高いバイオマスを有する生物群集が分布している.この生物群集は,海
底下から熱水噴出域を通じて海洋中に放出される化学物質を利用した化学合成一次生産に依存してい
るため,熱水噴出活動と密接に関わっており,噴出する熱水成分を含む熱水噴出活動の変化に応じて
生物群集が変動すると考えられる.沖縄トラフは約 200 万年前から活動を開始したリフティング期に
ある背弧海盆であり,多数の熱水噴出域が分布している.これまでに熱水噴出域の調査は多数実施さ
れており,単一の熱水噴出域として記載されている場所の中に生物相が異なる複数の熱水噴出域が分
布している場合が報告されているにも関わらず,これらは区別して記載されていなかった.本研究で
は,生物群集の記載と,その分布環境の測定から,熱水活動と生物群集組成の関連性を明らかにし,
沖縄トラフの熱水噴出活動の変遷と生物群集の分散の歴史を推測することを目的とした. 本研究では,2011 年度に実施された NT11-20 航海をはじめとする沖縄トラフ熱水噴出域調査航海で
採集された標本を用い,南奄西海丘,伊是名海穴,伊平屋海嶺北部,伊平屋凹地,与論海丘(北東伊
是名),伊良部海丘(八重山東部),鳩間海丘,第四与那国海丘に分布する生物群集の群集組成の調査
を行った.特に NT11-20 航海では,定量枠を用いた定量採集とセンサーおよび採水に基づく環境の測
定を同時に実施し,熱水噴出環境と生物群集組成の関わりを検討した.また,ヘイトウシンカイヒバ
リガイ,ゴエモンコシオリエビ,オハラエビ類,ハイカブリニナ類,キノミフネカサガイ類といった
優占種を対象とし,海域集団ごとのサイズ分布,ミトコンドリア DNA の COI 遺伝子領域の部分塩基配
列を用いた遺伝的多様性を把握し,沖縄トラフの熱水噴出域における生物群集の変遷について検討し
た. 生物群集組成の調査では,これまで沖縄トラフの熱水噴出域の限られた場所のみに生息していると
考えられていたシンカイフネアマガイ類やエンセイオハラエビが,沖縄トラフの熱水噴出域に広く分
布していることが明らかになった.これらの種は特定の環境のみで観察されており,類縁種と棲み分
けを行っているため,これまで観察できなかったものと推測される.この他,同所的に生息するハイ
カブリニナ類において詳細な形態観察と DNA 塩基配列情報から沖縄トラフに複数種が分布している可
能性も示され,沖縄トラフの熱水噴出域の生物群集の種多様性が過小評価されていたことが明らかに
なった.また,遺伝的多様性は,種によって大きく異なっており,これらの差には生息環境や系統が
影響している可能性が考えられる.講演では,これらの生物多様性に関する情報と環境情報を併せた
解析結果を示す予定である.