みらい北極航海ラジオゾンデ観測による客観解析データの再現

みらい北極航海ラジオゾンデ観測による客観解析データの再現性評価
○大島和裕(海洋研究開発機構)
,猪上淳(極地研,海洋研究開発機構)
,堀正岳(海洋研究開発機構),
Xiangdong Zhang(Univ. of Alaska Fairbanks),佐藤和敏・三井拓(総研大,海洋研究開発機構),
鳥羽瀬世宇(九大)
,竹田大樹・浅井博明(学芸大,海洋研究開発機構)
天気予報の精度向上には,数値モデルやデータ同化手法の改良に加え,精度の高い初期値が必要で
ある。初期値の改善と検証には,現地の気象観測データが必須である。また,現地観測データは広く
気象・気候解析に利用される大気再解析データの作成にも使用される。本研究では,観測が少ない北
極域を対象に 2013 年と 2014 年のみらい北極航海で得られたラジオゾンデ観測データを用いて大気客
観解析データの再現性を評価した。
2013 年と 2014 年のみらい北極航海 MR13-06,MR14-05 では,海氷面積が最少となる 9 月に 3 時間
ごとのラジオゾンデ集中観測を北極海太平洋側のチュクチ海で実施した。このうち 9 月半ばに 2013 年
は 2 週間,2014 年は 3 週間の定点観測を行った。この観測データは GTS
(Global telecommunication system)
へ配信し,天気予報の初期値などの大気客観解析データの作成に利用さているため,観測と客観解析
の鉛直プロファイルはほぼ同じになると期待されるが,客観解析データの作成に使用されるデータ同
化手法やモデルの解像度,境界条件などの扱いの違いによって,両者には差が生じ,各データセット
間でも再現性が異なる。ここでは TIGGE で配布されている 8 つの気象機関による予報初期値のデータ
を使用して再現性を評価した。TIGGE(THORPEX Interactive Grand Global Ensemble)には世界各国の
気象機関で行われている天気予報の初期値と予報値のデータがアーカイブされている。
MR13-06 と MR14-05 のラジオゾンデ観測では,ボーフォート高気圧の発達,ポーラーローや低気圧
に伴う前線の通過,また季節進行に伴う詳細な時空間変化が捉えられた。TIGGE データでは,それら
の特徴をおおよそ捉えられているが,幾つかの差異がみられた。気温は対流圏界面と境界層付近で,
風速は対流圏の全体で,水蒸気量は下層において,観測のずれとデータセット間のばらつきが大きく,
客観解析データの再現性は低い傾向にあった(図 1)
。地表付近の再現性のばらつきには,極域を特徴
づける雪氷プロセスの取り扱いのモデルごとの違いや,各モデルの鉛直解像度が影響していると考え
られる。これらの結果は予報初期値の不確実性を示し,予報の不確実性に関わっていると予想される。
この点は今後解析を進める。
図1
TIGGE データ間の気温のばらつき。陰影は 8 つのデータの標準偏差,等値線はラ
ジオゾンデ観測の値を示す。9 月 1 月から 9 月 30 日まで 1 日ごとの結果。