深海堆積物から単離した Brevundimonas 属微生物のゲノム

深海堆積物から単離した Brevundimonas 属微生物のゲノム解析
○徳田真紀・坪内泰志・西 真郎・小山純弘(海洋研究開発機構),
多米晃裕・植松勝之(マリンワークジャパン),秦田勇二(海洋研究開発機構)
【緒言】Caulobacteriaceae 科 Brevundimonas 属は歴史的に複雑な変遷を経て分類体系を確立した微生物
群である。これまでに単離された同属基準株は主として湖沼や飲料水などの淡水系環境に由来するも
のであるが、本研究で得られた 2 株は海水環境、すなわち深海堆積物や同硫酸-メタン遷移域から初め
て単離されたものである。同属微生物は二形性(遊走細胞、有柄細胞)に分化する株が存在すること
から、微生物レベルでの細胞分化メカニズムを解析する学術的な研究対象であるのと同時に、応用研
究として、有柄細胞末端器官である holdfast から分泌する接着性物質に焦点が当てられている。工業・
臨床分野での応用展開が期待されていることもあり、同接着性物質の同定および接着メカニズムに関
する研究を精力的に進めている。
【材料・方法】2006 年 8 月〜10 月、下北半島東方沖合 80km 地点(41.1771N – 142 .2016E,水深 1,180m)
で行われた地球深部調査掘削船ちきゅうの慣熟航海(航海番号 CK-06-06)において HPCS により全長
365m のコア堆積物を得た。我々は、解析対象とした層序堆積物の菌叢解析を行い、同データを利用し
た多変量解析、および電気的回収法(小山氏演題参照)により、2種の新奇 Brevundimonas 属細菌を単
離することに成功した。基準株を参照とし、16S rRNA 遺伝子を指標とする系統解析、糖資化性や生育
適正条件などの生理学的解析、極性脂質や脂肪酸、イソプレノイドキノン分析を主とした化学分類試
験を行った結果、2株ともに新種であることを明らかとし、B. abyssalis TAR-001T および B. denitrificans
TAR-002T と命名した。両株は既知基準株と比較して生息環境や形態学的、生理学的性質に相違が見出
されることから、諸性質を反映する遺伝学的な知見を得るために、次世代シーケンサーである Ion
Torrent PGM を用いてドラフトゲノム解析を行った。
【結果】両株ともに Brevundimonas 属特有の極性糖脂質である MGDOx や MGD、DGL、PGL を有する
ことを明らかとした。電子顕微鏡観察から B. abyssalis TAR-001T は生理学的、生化学的性質は
Brevundimonas 属に類するが、形態学的には holdfast 様構造体を有する二形複合体を呈しており、
Caulobacter 属に類似性を見出せることが示された。一方で B. denitrificans TAR-002T は二形性を示すも
のの、二形複合体を形成しておらず、典型的な Brevundimonas 属の形態を示すものであった。また急速
凍結置換法を用いることで、両株ともに莢膜構造を有することが確認された。ドラフトゲノム解析で
は、TAR-001T ゲノムは 128 contigs, 2.98 Mb で構成され、GeneMarkS, RAST を用い、2,946 CDS, 3 rRNAs,
41 tRNAs の注釈付けを行ったが、接着性因子の重合化酵素および細胞外排出タンパクをコードする遺
伝子は見出されなかった。これは当該既知タンパクとは相同性の低いタンパクで排出メカニズムを担
っている、もしくは接着性因子そのものが異なる可能性を示唆している。本シンポジウムでは、進行
中である TAR-002T のドラフトゲノム解析の詳細、そして比較ゲノム解析結果も併せて報告する。