駿河湾の深海サメは何を食べている? 〜深海トッププレデターの食性に関する研究〜 ○河戸勝・土田真二・笠井彩香・高橋幸愛・藤原義弘(海洋研究開発機構) 食物連鎖において頂点に位置する動物;トッププレデターは生態系の構造や機能の維持に重要な役 割を担っていることが示されている.実際,生態系におけるトッププレデターの絶滅や導入が生物多 様性に多大な影響を与えたことが知られている.北米イエローストーン国立公園におけるトッププレ デター,ハイイロオオカミの再導入はその顕著な例である.一度絶滅したハイイロオオカミを再導入 したことにより草食動物や中型捕食動物の個体数が制限され,それら動物の摂食によって減少してい た生物多様性が回復した.また海洋生態系においても上位捕食者による生態系の制御(トップダウン 制御)が見られ,例えば沿岸域において海藻の増殖がより高次の捕食動物によって間接的に制御され ている例が知られている.しかしながら深海生態系においてはトッププレデターの多様性や生態に関 する知見は少なく,陸域や沿岸域のように下位栄養段階生物との相互作用を明確に示した報告例は無 い.一方で深海域におけるトッププレデターである可能性の高いサメについては,世界中で個体数の 減少が報告され,存続が危惧されている種も多い.またその他の種も多くは現存数に関する情報が不 足している(IUCN レッドリストより).さらにサメ類は一般的に成熟が遅く仔の数も少ないため,急激 な個体数減少に脆弱である.以上よりサメを中心とした深海域のトッププレデターについて多様性や 生態について詳細に解析し,生態系における機能や役割を正しく理解することは重要且つ急務と考え る. 近年,我々は駿河湾における深海延縄漁に同行し,水深 200〜600m の海底付近から多種類の深海棲 のサメを採集した.本研究ではこれら深海サメの生態,特に食性や栄養段階についての基礎的知見を 得ることを目的とし,先ず胃内容物から餌生物の特定を試みた.解剖後,摘出した胃を切開し内容物 の重量を計測した.その後目視あるいは顕微鏡観察により各内容物の生物種の同定を行った.形態判 別が困難あるいは不可能な組織断片については DNA を抽出し,特定の遺伝子配列を用いた分子系統学 的手法により種判別を実施した. 本シンポジウムでは上記手法を用いて深海サメの胃内より検出した餌生物の種組成を示すとともに, a)個体間あるいは種間で違いがあるか否か,b)生息場所の違いで餌の組成が変わるか,c)顎形態など 体の特徴と餌の種類に関連性があるか,などといった点に着目し考察して議論したい.
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