MR14-05 で観測された北極低気圧の構造解析

MR14-05 で観測された北極低気圧の構造解析
○浅井博明・佐藤尚毅(東京学芸大学/海洋研究開発機構)
,
猪上淳(国立極地研究所/海洋研究開発機構)
近年の極温暖化に伴い、1990 年代頃から低気圧の出現頻度が増加していると言われており、これら
の中には中緯度で発生する温帯低気圧に匹敵する勢力を持つものも確認されている 北極低気圧は非
常に水平規模が大きく持続時間が長いため、高緯度の天候や気候に大きな影響を与えると考えられて
おり、極域での熱・水蒸気輸送においても重要な役割を果たす。また、近年の海氷減少に伴う冬の低
気圧経路の変化が冬季の東アジア域の低温偏差をもたらしており、日本を含む中緯度への影響も少な
くない。しかし、北極低気圧は中緯度の温帯低気圧、熱帯低気圧とは構造・継続時間が大きくことな
ることから、現在のところ明確な定義が示されていない。そこで、北極低気圧の発達・発生メカニズ
ムに着目した定義付けを行うことにより、それぞれの低気圧間で相互比較を行うことが可能になる。
本研究では、MR14-05 で観測された低気圧に着目し、低気圧強化の過程を渦位などの大気力学の視
点から解析した。大気の鉛直構造を詳細に把握するため、MR14-05 みらい北極航海ではチュクチ海に
定点(74.75°N,162.00°W)を設け、1 日 8 回のラジオゾンデ集中観測を行った(9 月 6 日〜25 日)。図
1 は定点期間中に得られたラジオゾンデ観測の時間高度断面図である。9 月 7 日〜9 日にかけて「みら
い」上空を前線が通 過 し た 。 低気圧はシベリア大陸上で発生し、北極海上を通過する際に一旦勢力
を弱めたが、海氷縁付近で再び勢力を増し、9 月 7 日,12UTC から 9 月 8 日,6UTC にかけて中心気圧が
約 14hPa 減少した。このとき、南から高温湿潤の空気塊が 700hPa 付近まで移流していることがラジ
オゾンデ観測により明らかになった。(図省略)また、総観規模での大気場を得るため、大気再解析デ
ータ(CFSv2)を用いたストームトラックを行った。(図 2) 低気圧発達過程における準地衡渦位を計算
すると、上層に高渦位を伴った空気塊が発達期を通して張り付いている。最盛期においては、ベーリ
ング海付近から高渦位空気塊が大気中層と下層に移流していた。その結果、上層と下層の渦強化によ
り低気圧の発達につながったと考えられる。発表では、観測値、再解析データ、領域モデル(WRF)を
用いて低気圧の発達のメカニズムを解析した結果について報告する。
図 1: 定点期間中の時間高度断面図 (a)ラジオゾンデ観
測による温度(色),風(ベクトル) (b)船上観測データ
図 2:2014 年 9 月 1~9 日におけるストームトラック。