共生メタン酸化細菌を維持させてゴエモンコシオリエビを飼う ○元木 香織・山本 麻未(海洋研究開発機構、日本大学 生命科学センター), 長井 裕季子・羽田 枝美(海洋研究開発機構), 上田 賢志(日本大学 生命科学センター), 豊福 高志・高井 研・和辻 智郎(海洋研究開発機構) 光の届かない暗黒の深海は微生物と動物の世界であり、深海性無脊椎動物の中には体にバクテリア (外部共生菌)を付着させて共生するも1のが存在する。沖縄の深海熱水噴出域に生息するゴエモン コシオリエビは、外部共生菌を宿す深海動物の中で最も研究が進んでおり、腹側に生える毛に付着す る外部共生菌を食べて栄養源としている。また、ゴエモンコシオリエビの外部共生菌相には、深海熱 水環境に適応した独立栄養性の硫黄酸化細菌とメタン酸化細菌が含まれる。ここで興味深いのは、メ タン酸化細菌と外部共生することが証明された動物は、ゴエモンコシオリエビが地球上で唯一である 点である。本研究では、メタンを添加した水槽でゴエモンコシオリエビを飼育することで、共生メタ ン酸化細菌を維持しながらゴエモンコシオリエビを長期間飼育できることを報告する。 メタン添加水槽で飼育を開始してから 4 ケ月後のゴエモンコシオリエビを用いて、共生メタン酸化 細菌が維持されていることの検証実験を行った。まず、熱水域に生息する現場のゴエモンコシオリエ ビと共生するメタン酸化細菌と極めて相同性の高い細菌がメタン飼育後の個体の外部共生菌相に存在 することが、菌相解析や FISH 解析によって確かめられた。次に、共生するメタン酸化細菌の存在量を 調べるため、メタン酸化細菌に特有のメタンモノオキシゲナーゼ遺伝子(pmoA)を利用した定量 PCR を 行った。その結果、メタン飼育後のゴエモンコシオリエビ1個体当たりのメタン酸化細菌の存在量は、 現場のものとほぼ同等であることが明らかとなった。また、メタン飼育後の個体のメタン酸化活性も、 現場の個体と同等であることが示された。一方で、メタン飼育後の個体は硫黄酸化活性をほとんど示 さず、菌相解析や FISH 解析でもほとんど硫黄酸化細菌を検出できなくなった。つまり、メタンで飼育 したゴエモンコシオリエビは、現場のゴエモンコシオリエビとほぼ同等量の共生メタン酸化細菌を毛 に維持し、その一方で共生する硫黄酸化細菌の大部分を失うことが示された。これにより、外部共生 菌相のメタン酸化細菌は大気圧下でも生育できることや共生する硫黄酸化細菌は環境によって影響を 強く受けることが分かった。 現在、メタンを添加した水槽でゴエモンコシオリエビを一年間飼育することに成功している。外部 共生菌を宿す深海動物をこれほど長期間飼育できた例はないことから、現場環境を模した本飼育シス テムが優れていることやゴエモンコシオリエビが外部共生研究のモデル生物として適していることが 明瞭となった。
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