潜頭性熱水鉱床成因論にむけた海底下熱水系の「ちきゅう

潜頭性熱水鉱床成因論にむけた海底下熱水系の「ちきゅう」掘削の試み
~CK14-04 SIP HOT I “Pathfinder”の概要~
○高井研・熊谷英憲・久保雄介・斎藤実篤・野崎達生・山本啓之(海洋研究開発機構),山崎徹(産業
技術総合研究所)
,鈴木勝彦(海洋研究開発機構)
,CK14-04 乗船者一同
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2014 年から開始された戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代海洋資源調査技術(「海
のジパング」計画、プログラムディレクター:浦辺徹郎東京大学名誉教授)」では、有望な海洋資源の
賦存域絞り込みにも資する成因論確立を実施項目の一つとしている。この対象には、コバルトリッチ
クラスト・レアアース泥とともに海底熱水鉱床が含まれており、とくに、海底熱水鉱床については、
現在活動的な海底熱水によるものばかりでなく、非活動的なものやすでに活動を休止したために堆積
物等により埋積された(潜頭性)ものの調査を具体化するという高いハードルが課せられている。この
目的には、未だ実態が明らかでない非活動性・潜頭性の海底熱水鉱床を系統的に調査し、実態を明ら
かにしていくことがまず必要とされている。
中部沖縄トラフの伊平屋北海丘(図)は、2010 年の統合国際深海掘削計画 331 次航海(IODP Exp.331)
によって、活動的な海底熱水噴出口の近傍数百メートルの範囲に海底下の熱水溜まりが広がっている
可能性が指摘され、陸上の黒鉱鉱床で産するものと同様の鉱物が採取されていたことから、海底面上
で認識できる熱水活動と海底下の鉱体形成過程の関連を検討するに最適のフィールドと考えられる。
そこで、2014 年 7 月に CK14-04 沖縄トラフ熱水性堆積物掘削「SIP HOT I“Pathfinder”」として地球
深部探査船「ちきゅう」による調査航海を実施し、掘削同時検層(Logging While Drilling)で海底下
の熱水溜まりの広がりを調べるとともに、コア採取を通じた熱水溜まりと鉱化帯との関係の検証を試
みた(本シンポジウム、斎藤ら、および、野崎ら)。
掘削は、伊平屋北海丘の北側に 90 年代より知られてきた熱水活動域(伊平屋北オリジナルサイト)の
周辺を取り囲むような5サイトと 2014 年はじめに新たに発見された南側の熱水活動域(伊平屋北アキ
サイト)の中央部で1サイト、計6サイトでノンライザー掘削として実施した。これは、伊平屋北オリ
ジナルサイトで見いだされた熱水溜まりの広がりの確認と3つの熱水活動域相互の関連を検証するた
めであったが、当初計画よりも大きな深度までの掘進を要したため、新発見の2熱水域間・周辺の掘
削はかなわなかった。熱水活動域ごく近傍での掘削となるため、検層ツールは 175℃まで使用可能な高
温対応の機材のみを用い、加えて、ドリルパイプの接続・取り外しの間も掘削泥水を間断なく注入す
るためのオプション(Non-stop Driller: NSD)を装備しての掘削となった。予想された熱水噴出量から
設定した泥水注入量はおおよそ 500GPM(gallon per minute, 毎分 1.9kL)であった。検層は6孔井で全
長 1,351 m でおこなった(斎藤ら、本シンポジウム)。コア採取は3孔井、全長 221 m で実施した(野崎
ら、本シンポジウム)。
実際には、泥水注入がやや過剰で、海底面での噴出熱水の最高温度は 300℃を超えているにもかかわ
らず(Kawagucci et al., 2010)、記録された最高温度は 84℃であった。また、ドリルパイプ引き抜き
時点で何孔井かは目視による流体湧出の確認を行ったものの、顕著な湧出は確認できなかった。とは
いえ、温度異常記録、および、採取コアで確認できる熱水性鉱物や変質帯を事前調査の反射法地震探
査断面とつきあわせることでおおよその熱水溜まりの広がりを推定することができ、IODP331 次航海で
の推定より格段に広域の、東西 2.5km 程度、南北に最大で 3km 程度の分布が推定される(図)。
今後は SIP の一環として、検層データと対比しうる系統的なコア試料の採取、掘削孔を利用した熱
水活動の長期モニタリング等を通じて、海底熱水鉱床の科学的研究を進めていく。
図:伊平屋北海丘における掘削点および掘削等により推定される海底下熱水溜まりの広がり。黒丸は IODP Exp.331 によるもの、
星印は、今回の CK14-04 航海によるもので、白抜き星印サイトでは掘削同時検層(LWD)のみ実施し、塗りつぶした星のサイト
では加えてコア採取を行っている。太い黒点線で囲んだ範囲が海底面で確認できる熱水活動域の広がり、太い破線で囲んだ範
囲が熱水溜まりの存在がほぼ確実な範囲、細い破線は熱水溜まりが広がっている可能性のある範囲。
[引用文献]
Kawagucci S. et al. (2011) Geochemical J., 45, 109-124.
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高井研・熊谷英憲・久保雄介・斎藤実篤・野崎達生・山本啓之(海洋研究開発機構)
,山崎徹(産業技術総合研究所)
,河地正
伸(国立環境研究所)、Moe Kyaw Thu・福島朋彦・髙見英人・荒井渉・Frederic Sinniger・正木裕香・中嶋亮太・宮崎淳一・川
口慎介・高谷雄太郎・猿橋具和・杉原孝充・真田佳典・木戸ゆかり・新田末広 (海洋研究開発機構)、堤彩紀・戸塚修平(海
洋研究開発機構/九州大学)