国産バニラを始めた仲里園芸 沖縄県糸満市・仲里清さん、美裕紀さん たわわに実ったバニラの果実を持つ仲里美裕紀さん。9 月には 20㎝ほ どの青果実で収穫する。出荷先でキュアリングされ、販売される時 には黒くなっている アイスクリームやお菓子作りに 使われるバニラって、ランの仲間 だって知っていましたか。木姿を 見ると観葉植物のポトスの親戚か と思うようなつるの伸び方をして います。ラン科だということは花 す。 を見て初めて理解できるぐらいで 粒々のタネがたくさん入っていま 実をつけるランでもあり、細長 い果実の中にものすごく小さな す。ただ、木に成っている時は青 臭いだけです。果実を収穫後、発 酵乾燥を繰り返すキュアリングを 出てくるのです。 して初めて、あのバニラの香りが 日本では、冬の寒さがネックと なり、商業栽培はほとんどされて きませんでした。しかし、輸入品 より香りも品質もいいということ が出てきたようです。 で、数年前からちらほら栽培農家 今回お邪魔した沖縄県糸満市の 仲里園芸もそんな一軒。ランの栽 培とともに、一〇年以上前から観 現代農業 2014.8 ( 246 ) 果実の中身のタネ。きちんと 受粉していないと果実は膨ら むがタネができない。キュア リングされてバニリンという 甘い香りを発するのはタネの まわりの果肉 (第 209 回) バニラの花を見るとラン科だとわかる。 木姿だけ見るとポトスにそっくり 葉植物としてのバニラ生産をして きましたが、福岡の金子植物苑の 勧めもあり、本格的にバニラビー ンズ用のバニラ生産を始めました。 * 生 産 コ ス ト︵ 暖 房 費 ︶が か か ら 園主の仲里清さんが言うには、 沖縄での栽培には地の利があって ず、無 加 温 で 栽 培 で き る そ う で す。手間も二日に一回程度のかん 水ぐらいで、日常的にはほったら かしでも大丈夫。かん水を自動化 すれば栽培面積はかなり増やせる といいます。 そうです。コチョウランを栽培で ラン生産をする仲里園芸では、 他のランと一緒の管理で問題ない 十分栽培できるとのこと。 きる環境があれば、沖縄以外でも しています。培土は、土を使わず 地植えでもよいようですが、土 壌病害を防ぐ意味で鉢植え栽培に ココヤシのチップとバークを混ぜ たもの。鉢を置いているウネには プール状にシートを敷いて、そこ ( 247 ) 山・特産 節から出た気根。ヤシガラチップを敷き詰めた ウネまで気根が下りてきて、養水分を吸う 10 年 以 上 前 か ら 生産してきた観葉 植物としてのバニ ラ。現在もラン展 などで人気 にもココチップを入れてありま す。これは、バニラのつるの節か 水分や養分を吸わせるためだとい ら出る気根を地表面まで伸ばし、 います。 気根を伸ばしたバニラが生い茂 るハウスは、まさに南国のジャン グルの様相を呈しています。 バニラの花は、四月下旬から六 月頃に咲き、収穫は九月頃になり 現代農業 2014.8 ( 248 ) 水は木全体にまんべんなくかける。これにより気根が地表まで下りてくる ます。バニラ栽培で一番労力を必 です。 要とするのが、この花の受粉作業 楊枝で受粉作業をします。面積が 開花した花は一日しか持ちませ んので、毎日午前中に一花一花爪 増え、咲く花数が増えたら人海戦 術でやらなくてはいけません。 ** 問題は害虫です。食用として出 荷するため無農薬栽培なので、害 けないと、受粉担当、娘の美裕紀 虫の食害には目を光らせないとい さん。チョウの幼虫のケムシとカ それほどでもないがスリップスが タツムリ、それから、まだ被害は いるといいます。クスリが使えな に回って発見次第、駆除します。 いので、スリップス以外は小まめ えたら翌年から収穫できるという バニラ栽培のもう一つのネック は収穫できるまでの年数です。植 ものではありません。仲里園芸の ハウスでは、挿し木してから五年 ほどたつバニラがやっと本格的に ( 249 ) 山・特産 害虫のカタツムリ。見つけ次 第、駆除する。食用なのでク スリはかけない 幼果を食べるケムシ 実をつけ始めたところです。 現在、三五〇坪でバニラを栽培 していますが、昨年の出荷量はま だ六〇〇本︵果実︶程度。今年は はさらにぐっと増えて、今年の五 その倍以上の量が収穫でき、来年 ∼一〇倍は収穫できるだろうとい います。 *** バニラ栽培はまだまだ暗中模索 の状況です。というのも、節成り るかと思うと、花数も少なく、ま に花が咲き実をつけている株があ ばらにしか着花していない株もあ ります。結実しても果実が大きく ならず落ちてしまうこともあるの だそうです。株の個体差なのか環 現代農業 2014.8 ( 250 ) 一花一花、爪楊枝で受 粉する。自然界ではメ ルポナというハチがバ ニ ラ の 受 粉 を す る が、 いないところでは人工 受粉が必要 248 ページの写真(右下)の大きさの苗を植えて 1 年半ほ どしたバニラの木。垣根状にツルを這わせていく ません。 境の問題なのか、まだよくわかり ただ、国産バニラの注目度は日 増しに高まっているようで、香料 す。農家が栽培して利益がどれく メーカーなどの感触もいいようで らい出るかはまだ未知数ですが、 自園でキュアリングまでして製品 として出荷できればかなりいい商 材になるのではないかと清さんは いいます。 将来沖縄を代表する商品になる かもしれないと、仲里園芸の夢は 膨らみます。早い者勝ちのようで す。 ( 251 ) 山・特産
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