松っちゃんのカメラ訪問記(214)(1.4MB)

3 月 8 日のフキ畑。落ち葉が積もる
畑からは大きなフキノトウがせり
上がってくる。落ち葉は冬草を抑
える効果もあってありがたい
(第 214 回)
早春の日の十一時頃、顔に大き
なマスクをつけて黙々とフキノト
ウをとる橘川さん
︵四四歳︶
。何で
も小学校五年生から花粉症だそう
で色男が台無しだ。マスクをちょ
っとはずしてもらって一枚パチリ。
五aほどのこの畑は東側に森が
あり、直売用の野菜畑には不向き
なのでフキを増やしてきたそうで
す。他にも、かつて果樹園だった
傾斜地など六カ所にフキ畑が点在
し、現在全部で五反歩ほど。
十二時を回ってもまだまだ収穫
を続ける橘川さんに、お昼は?と
が惜しい﹂
。いつも昼抜きだそう
聞くと、
﹁家に帰って食べる時間
です。なんせ直売所農業の一日は
目まぐるしい。毎朝八時頃から十
一時頃まで、奥さんと二手に分か
の地場コーナーに配達してまわる
れて三〇カ所の直売所やスーパー
のです。道すがら腹に詰め込んで
畑に直行。両親と夫婦で四町歩も
の畑をまわしています。
*
直売所向けなので多品目の野菜
をつくるのですが、二月から三月
中旬はフキノトウがメインになり
稼いでくれて、四月から五月はや
ます。フキはそのあともしばらく
わらかいのでキャラブキ用、五月
後半からは茎に空洞ができて硬く
なるので皮をむいてから煮る水ブ
キ用として出荷するのです。
野菜では、春先は菜の花から始
まって、のらぼう菜。山菜では、
タラの芽ならぬタラの葉を売りま
す。六月に入ると、タマネギを収
穫しなくてはいけない時期になる
そうですが、
﹁まだあるからとる﹂
のでフキは終わり。どの作物でも
のではなく、とにかく次へ行く。
走り続けないとだめなのだそうで
見切り発車で次の作物、次の畑と
す。一日のスケジュールをやりき
い。忙しさを楽しみ、農仕事が好
った時の満足感は何にも代えがた
きで仕方ない橘川さんなのです。
**
そして、忙しくてパニック状態
現代農業 2015.3
( 236 )
( 237 )
山・特産
フキノトウ畑の草刈りは年 1回
橘川直泰さん
神奈川県二宮町・橘川直泰さん
きつかわ
フキノトウのパック詰め。直売
で目立つようにカラフルなラベ
ルやポップを工夫している
別の畑では、のらぼう菜を収穫
左の写真:9 月 21 日のフキ畑。背丈
以上に伸びたセイタカアワダチソウ
などの草を刈る橘川さん。草の陰で
細々と育つフキの地上部も一緒に、
なるべく地際から刈り倒す
になった時こそアイデアがひらめ
きます。橘川さん、六月でフキが
終わると、もうフキ畑は見向きも
おいてもいいということを、一〇
しません。いや正確には、放って
年ほど前に発見したのです。
それまではフキが草に負けてし
まわないように、何度も何度も草
刈りをしてやっていました。夏草
の勢いはそれはそれはすごくて、
気を抜くとあっという間にフキが
覆われてしまうからです。
当時は一町歩ほどブドウをやっ
ており、その出荷が忙しくてフキ
ことでした。草が背丈以上に伸び
畑の手入れができなかったときの
てしまい、まるで放棄畑のよう。
橘川さんは﹁これはもう、フキが
絶えても仕方ない﹂と覚悟して、
一緒にきれいに刈り取りました。
刈り払い機で地面から草もフキも
ブドウの出荷がようやく終わった
九月下旬のことでした。
しかしその後、秋の気候は春と
同じようになるせいでしょうか、
現代農業 2015.3
( 238 )
( 239 )
山・特産
フキは斜面の下側に
植えると、上にだん
だん広がっていく。
元果樹農家だった橘
川さんは、かつての
ブドウ棚にアケビや
ムベ、トウガンを這
わせ、下はフキ畑に
している
あたり一面フキの葉が再生。短い
秋の日差しを受けて養分をしっか
り蓄え、翌春にはフキノトウがち
ゃんと出てきてくれたのです。
以来、橘川さんは六月以降にフ
キ畑が草ぼうぼうになろうが目も
くれません。同業者からの﹁何や
ってんだ、具合でも悪いのか? あんなに草ぼうぼうにしたらフキ
も、
﹁あとで見に来い﹂と。
が絶えてしまう﹂と心配する声に
しかし、年一回の草刈りのタイ
ミングを間違えてはいけません。
早く刈りすぎるとフキより早く草
のほうが再生してきてしまう。反
対に遅く刈ると、秋に再生したフ
霜で枯れてしまい、翌春のフキノ
キが葉に十分に養分をためる前に
トウが出なくなる。橘川さんは、
九月十日から下旬にかけての絶妙
なタイミングで五反歩全部のフキ
畑を草刈りしてまわり、熊手で掃
だけでフキ畑は維持されます。
き出すのです。この年一回の作業
***
忙しさの中で生まれた橘川さん
の 知 恵 を も う 一 つ。あ る 年 の 晩
秋、仕事が押せ押せで、ついに種
イモ用のサトイモの貯蔵穴を掘る
やっちまえとばかり、霜で傷みか
時間が作れませんでした。えーい
倒し、畑一面をブルーシートで覆
けた葉を株元から草刈り機で切り
い冬越しさせたのです。これが大
正解。今では三月中旬までブルー
シートを掛けたまま置き、植え付
モにしているそうです。
け半月ほど前に掘り起こして種イ
指し値売りがモットーの橘川さ
んの直売所農業の一端でした。
現代農業 2015.3
( 240 )
( 241 )
山・特産
11月3日のフキ畑。見事にフキが
再生し、一面を覆った。年1回の
草刈りで、フキは維持できる
とり遅れたフキノト
ウ。このあと一面に
フキが生える。畑に
真竹も侵入してきた
が、フキにはやや日
陰が適するのでちょ
うどいい