スクールゲストだからできた 総合学習『千年の釘にいどむ』 昨年、清水船越小学校にて開催された 『千年の釘にいどむ(小学校5年生)』 の授業内容について報告します。 あらすじ 薬師寺の再建には、宮大工 西岡常一 を棟梁に、日本全国から一流の職人が 集められました。その中に、『和釘』 の職人 白鷹幸伯さんがいました。 第1回 なぜ釘は抜けないのか? 釘が抜けないためには、ヒノキの形が 元に戻ること、首が細く締まると胴が 抜けないこと、この2つが必要です。 体育館で、2つの実験をしました。 実験1 ヒノキは元に戻る はがき大のヒノキの板に、鉄球を落す。 当然、凹みができる。凹みに水を垂ら したら、凹みはどうなるか? 千年もの長期間を支える釘には、職人 による、先人の知恵がありました。 釘の形 普通の釘は、頭は平ら、胴は同じ太さ 先端は尖っています。それに対して、 和釘は、胴が太く、首が細いのです。 その理由は、釘を打ち込むと、ヒノキ には、胴と同じ大きさの穴が開きます。 首が細いのですから当然です。 ところが、ヒノキの繊維は元の形に戻 るので、首を締め付けます。 その結果、太い胴は抜けないのです。 実験2 釘の形と抜く力の関係 洋釘=手すり(太さが同じ) 和釘=バット(首が細く、胴が太い) ザイルで首を縛り、4人で締め上げる。 1人が頭を持ち、抜いてみよう! 手すりとバット、抜く力の違いは? 白鷹さんの、職人としての意地 納得のいくまで、2万4千本も作った。 それでもなお、改良を続けているのは 千年後の未来にも鍛冶職人がいた時、 「千年前のやつは、下手くそだと思わ れ、笑われるのはイヤだ。これは職人 としての意地だね。」 この2つのテーマを総合学習として、 発展させた授業にしようということ で、2回の授業を実施しました。 * 詳しい内容をお知りになりたい方は、下記のアドレスへ 『自然遊び塾』 http://jyukutyou.blog.ocn.ne.jp/asobijyuku/ 実験結果 【実験1】 5 分かからず、凹みは見事に復元。 これには、先生もビックリ。もちろん 子供たちも「元に戻った!」と歓声。 第2回 職人の精神とは? なぜ薬師寺にヒノキが使われたか? 日本書紀にこんな記述があります。 「ヒノキは、以って瑞宮にすべし」 和釘を打ち込むと、一番太い胴と同じ 瑞宮とは宮殿のことです。 穴が開く。首は細いからスキマがある。 ヒノキは寿命が長く、湿気の多い日本 でも、ヒノキの凹みは復元するから、 の気候に適しているということです。 スキマはいずれ埋まり、和釘はヒノキ に包まれるのです。 薬師寺は1300年前の建物ですか ら、再建される薬師寺も、1300年 実験結果 【実験2】 後の未来でも変わらぬ姿で建ってい バットの形=和釘の形。首をザイルで なければ、真の再建になりません。 締め上げるは、ヒノキがスキマを埋め ている状態です。 その為には、樹齢1000年以上の 渾身の力で引っ張っても抜けません。 ヒノキを探さなければなりません。し かし日本のヒノキは、450年が最高。 手すりの形=洋釘の形。片手でスルス そこで、台湾ヒノキ 樹齢2400年 ルと抜けてしまう。 が使われました。 「手すりは塗装しているからだよ?」 「じゃあ、金属バットでやってみて」 職人のすばらしい知恵とは? それでも、バットは抜けません。 「堂塔を建てるときは、木を山ごと買 表面のザラザラ、ツルツルではない! いなさい!そして、木は山に生えてい る時と、同じ状態で使いなさい!」 子供たちの感想 「ボクは力持ちなのに、いくら引っ張 木は陽の光や北風にさらされ、いつし っても抜けなくて、ビックリした。千 か癖がつきます。この癖を上手に使い 年の釘がなぜ抜けないのか、よく分か 塔の北側には、北斜面に育った木を、 りました」 南側には、南斜面に育った木を使うと 「ヒノキの凹みがあっという間に元 いう知恵が生まれました。 に戻ってビックリしました」 「一度凹みが元に戻ったヒノキの板 技術が進歩した現代において、先人の を、もう一度実験しようと思い、鉄球 知恵は、技術の中に埋もれてしまい、 を落したら割れてしまった。ほかの班 私たちの頭から消えてしまったのか でも割れていた。なぜなのだろう?」 もしれません。知恵の全てを機械技術 で伝えることはできないのです。 職人の精神とは? 西岡棟梁はこう言っています。 「神仏崇めずして、伽藍を口にすべか らず」 法隆寺の伽藍は、聖徳太子が仏教を広 め、その教えを以って、国を治めよう と、人材育成のための学校でした。 このことを、聖徳太子の立場になって 考えながら仕事しました。 黒板を綺麗に消せば、後ろの席でも、 よく字が見えます。 黒板けしを叩き、新しいチョークがあ れば、次に使う人は気持ちいいです。 みんなにとても役に立つ仕事です。 たかが黒板消し。体力も学力もいりま せん。必要なのは、思いやりの心だけ。 仕事の基本は、思いやりです。思いや りの無い仕事には、進歩はありません。 白鷹さんはどうなのでしょう? 白鷹さんは、作品に刻印をしています。 「願奉 萬民豊楽 荘厳国土」 最後に、一番大切な伝えたいこと いつの世も全ての人々が心豊かに暮 らし、歴史ある日本が永遠に続きます 「木は山に生えている状態で使う」 ように・・と願いをこめて、刻印を打 これはとても大切なメッセージです。 っています。 生えている状態、木の癖を上手に使う 仕事と作業の違い 適材適所で使いなさい、ということ。 仕事とは、その後に仕事をする人がや 陽の当たらない北側の木でも、曲がっ りやすいように、自分ができる限りの た木でも、優れた使い道があります。 心配りをする姿勢をいいます。 木材の市場では、切り倒された丸太が 作業とは、言われたことだけをやり、 山のように積まれています。こうなる その後のことは知りませんという姿 と、どの木がどんな癖を持っているか 勢をいいます。 全然、わかりません。 では、小学生に仕事はできますか? あなたは、黒板消しの係りです。 黒くなるまで、綺麗に消しますか 消し終わった後、黒板消しはどうしま すか?そのままですか、綺麗に叩いて おきますか? 短いチョーク、どうしますか? 新しいチョークを出しますか? みなさんは、日本という山に生まれま した。陽も当たる時も、北風が吹くと きもあるでしょう。みんな違う環境で 育っています。 みんな立派なヒノキなのです。 ところが大人の世界では、山を見ない で、丸太見て、比べっこをします。 丸太にしたら、みんなの素敵な個性は 見えてきません。そんな時にはいやな 思いをすることもあるでしょう。 でも、みなさんは立派なヒノキなのだ から、どんなに北風が吹こうとも悩ま ないで欲しい。 世の中には、君たちを必要としている 何かが、誰かが、必ずいるのです。 「でも私なんか、勉強も運動もできな いし、自信なんて持てない、無理!」 なんてことを思うかもしれませんね。 先生が言っているのは、 『心のあり方』 学力・体力の話ではありません。 自分中心ではなく、人の身になって考 え、思いやりのある行動をする。 そんなやさしさが、君たちの未来を作 るのです。そしてそれは夢へと続く道 なのです。 子供たちの感想 「私は黒板係でいつも綺麗に消して いました。でも先生のいうようなこと 考えたことありませんでした。これか らは考えてみます。」 「僕たちも職人の気持ちに成れるん だということがわかりました。これか らは、クラスの役に立つことをやって みたいと思います」 『クラスのために、何かをやることは 大事です。やっていると、他の友達の やってくれていた思いやりに気づく ことができるようになります。この 気づきが生まれると、とても居心地の 良いクラスになります。』 先生方のご意見 「和釘の形=抜ける?抜けない?」 この部分を子供たちにどう教えるか ということに悩んでいました。 しかし、体育館でのたった1時間の実 験のおかげで、釘の説明をする必要が なくなり、授業の大半を職人の精神に ついて読み深めることができました。 職人の精神を、子供たちの学校生活で ある、黒板係に落とし込んで説明して いただけたので、とても分かりやすく 授業でも活発に意見が出て、とても充 実した授業となりました。
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