様々なデータロガーを用いた放牧牛の エネルギー消費量の推定と行動様式の把握 畜産資源学分野 中川靖浩 【目的】採食行動およびエネルギー消費量(EE)の評価を行うことは放牧牛の適切な飼養管理を 行う上で重要である。近年、複数種の測定装置を放牧牛に装着することで、対象の行動データ、 あるいは生理学的なデータを同時に測定し、これらのデータを組み合わせで放牧牛の行動、ある いは EE を予測する試みが始まっている。そこで本研究は、GPS、歩数および姿勢を計測可能で ある IceTagTM Sensor、心拍計、バイトカウンターを用いて放牧牛の行動および EE を測定し、 さらに気温という環境要因を考慮して、 (1)放牧牛の採食行動要因の解析、 (2)近年開発された、 歩行速度および移動傾斜角度を用いた EE 推定法の、従来法との比較による妥当性の検証、 (3) 心拍数測定による放牧牛の EE 推定に影響を与える要因の検討を行うことを目的とした。 【材料と方法】採食行動要因の解析については、2010 年 11 月に褐毛和種経産雌牛 1 頭、2011 年 7 月に黒毛和種経産雌牛 2 頭、2011 年 8 月に黒毛和種経産雌牛 2 頭、2011 年 10 月に褐毛和種経 産雌牛 1 頭に GPS、IceTagTM Sensor、心拍計、バイトカウンターを装着し、採食行動の指標と してバイトカウントから求めた食いちぎり回数(CBC)、とその対数変換値(LNBC)、行動パタ ーンの指標として歩数、姿勢、歩行速度、移動傾斜角度の行動データ、気温データを取得し、相 関解析によってこれらの関連性を調べた。(実験1)。EE 推定法の妥当性の検証および心拍数測 定による EE 推定に影響を与える要因の検討については、2010 年 11 月に褐毛和種経産雌牛 1 頭、 2011 年 7 月に黒毛和種経産雌牛 1 頭、2011 年 8 月に黒毛和種経産雌牛 1 頭を供試牛として、心 拍数と行動データ、気温データを得た。歩行速度と移動傾斜角度から推定した EE(EEGPS)と従 来法より心拍数から推定した EE(EEHR)との相関係数を求め、前者の妥当性を評価した。さら に EE に影響を与える要因を検討するため、相関分析によって、EEHR と行動データ、気温データ との関係を調べ、さらにステップワイズ回帰分析によって、EEHR に対する行動データと気温デー タの影響を調べた(実験2)。 【結果と考察】(実験1)CBC や LNBC と歩数、歩行速度、移動傾斜角度との間には一定の傾向は なく、採食回数は他の行動とは独立して決定されることが示唆された。(実験2)EEGPS と EEHR の推定値は、それぞれ 518~546 kJ/BW0.75・日と 667~867 kJ/BW0.75・日となった。3 頭の個体 の EEGPS と EEHR の相関係数はそれぞれ 0.412、0.646、0.541 となり、中程度の相関関係が認め られた。2 種の EE 値の差は、EEGPS 推定式が実験的に得られた回帰式から導かれているのに対 して、本研究では放牧条件の牛に適用しようとしているため、気温の変化、あるいは採食頻度な ど他の行動の影響が関与したことに起因すると推察された。ステップワイズ回帰分析の結果は、 いずれの供試牛においても寄与率は 65%以上となり、歩数、気温および佇立時間が EE に影響を 与える主要因であることが明らかになった。また、放牧牛の移動を表す指標としては、歩行速度 より歩数の方が、EE との関係性が強いことが示された。
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