事件

平成 18 年広審第 32 号
引船第三十八住吉丸引船列漁船英丸衝突事件
言 渡 年 月 日
平成 18 年 7 月 13 日
審
判
庁
広島地方海難審判庁(島
理
事
官
上田英夫
受
審
人
A
名
第三十八住吉丸船長
職
操 縦 免 許
受
審
職
損
B
名
第三十八住吉丸機関員
人
C
名
英丸船長
操 縦 免 許
學,藤岡善計)
小型船舶操縦士
指定海難関係人
職
友二郎,橋本
小型船舶操縦士
害
第三十八住吉丸・・・・・・船首部に擦過傷
英丸・・・・・・・・・・・転覆,のち廃船
船長が誤嚥性肺炎,低体温症,頭部打撲
原
因
第三十八住吉丸引船列・・・居眠り運航防止措置不十分,各種船舶間の航法
(避航動作)不遵守(主因)
英丸・・・・・・・・・・・動静監視不十分,音響信号不履行(音響信号装
置不装備),各種船舶間の航法(協力動作)不遵
守(一因)
主
文
本件衝突は,第三十八住吉丸引船列が,居眠り運航の防止措置が不十分で,漁ろうに従事し
ている英丸の進路を避けなかったことによって発生したが,英丸が,動静監視不十分で,避航
を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすもの
である。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
理
由
(海難の事実)
1
事件発生の年月日時刻及び場所
平成 17 年 4 月 2 日 07 時 40 分
広島県仙酔島南方沖合
(北緯 34 度 21.9 分
2
(1)
東経 133 度 23.4 分)
船舶の要目等
要
目
船
種
船
名
引船第三十八住吉丸
台船SK105
総
ト
ン
数
19 トン
約 596 トン
長
18.00 メートル
45.00 メートル
全
機 関 の 種 類
出
ディーゼル機関
力
661 キロワット
船
種
船
名
漁船英丸
総
ト
ン
数
4.67 トン
長
9.65 メートル
登
録
機 関 の 種 類
ディーゼル機関
漁船法馬力数
(2)
15
設備及び性能等
ア
第三十八住吉丸引船列
(ア)
第三十八住吉丸
第三十八住吉丸(以下「住吉丸」という。)は,平成 16 年 4 月に進水した引船で,
専ら瀬戸内海諸港間において台船の曳航作業に従事し,船体中央やや前方に操舵室が
配置され,同室中央に舵輪が,その右舷側に機関操縦レバーが,左舷側にGPSプロ
ッタ及びレーダーがそれぞれ備えられていたが,居眠り運航防止装置は設置されてい
なかった。
(イ)
SK105
SK105 は,平成 5 年に建造された非自航の鋼製台船で,甲板上に構造物はなかっ
た。
イ
英丸
英丸は,昭和 57 年 3 月に進水した,小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船
で,船尾の舵柄を操作して操舵を行い,船尾甲板左舷側にネットローラーを備え,航海
計器及び汽笛は装備されていなかった。
当時,同船が行っていた底びき網漁は,船尾左舷側から,長さ 7.5 メートルの網に繋
いだ直径 9 ミリメートルのワイヤーロープを約 130 メートル延出し,投網に 3 分ほど,曳
網に 30 ないし 40 分,揚網に 12 分ほど要し,速力は操業中約 3 ノットで,漁具により操
縦性能が制限された状況であった。
3
事実の経過
住吉丸は,A受審人及びB指定海難関係人が乗り組み,船首 0.8 メートル船尾 2.5 メート
ルの喫水をもって,空船のSK105 との間に長さ 40 メートルの合成繊維製の曳航索をとり,
住吉丸の船尾からSK105 の船尾端までの長さが約 85 メートルの引船列(以下「住吉丸引船
列」という。)をなし,平成 17 年 4 月 2 日 06 時 00 分広島県尾道糸崎港松永区を発し,戸崎
瀬戸及び阿伏兎瀬戸を経由する予定で,香川県丸亀港に向かった。
A受審人は,出港操船に引き続き船橋当直に当たって戸崎瀬戸を通過し,06 時 30 分百島
北方沖合において,B指定海難関係人に同当直を行わせることとし,これまで同指定海難関
係人を何度か船橋当直に就かせ,何事もなかったことから,同当直を任せても大丈夫と思い,
航行に支障のある他船を認めたときや眠気を覚えたときには報告するように指示すること
なく交替して,操舵室内後部の台の上に横になって休息した。
B指定海難関係人は,舵輪後方の椅子に座って操船にあたり,阿伏兎瀬戸を通過したのち,
07 時 20 分阿伏兎灯台から 190 度(真方位,以下同じ。)350 メートルの地点で,針路を鴻石
灯標の少し南方に向く 089 度に定め,機関を全速力前進にかけ,6.6 ノットの速力(対地速
力,以下同じ。)で,自動操舵により進行した。
07 時 35 分B指定海難関係人は,福山港玉津島防波堤灯台(以下「玉津島灯台」という。)
から 191 度 1,300 メートルの地点に達したとき,広い海域に出たことで気が緩んだこともあ
り,眠気を催したが,まさか居眠りに陥ることはないものと思い,A受審人に知らせて当直
を交替してもらうなど居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。
B指定海難関係人は,間もなく居眠りに陥り,07 時 37 分玉津島灯台から 174 度 1,260 メ
ートルの地点に差し掛かったとき,左舷船首 28 度 550 メートルのところに英丸を視認でき,
同船が鼓型形象物を掲げ,低速で進行していることから漁ろうに従事中であり,その後,同
船と衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めうる状況であったが,居眠りに陥っていた
ので,このことに気付かず,英丸の進路を避けることなく進行した。
07 時 40 分わずか前B指定海難関係人は,ふと目覚めて船首至近に英丸を認め,衝突の危
険を感じたがどうすることもできず,07 時 40 分玉津島灯台から 149 度 1,450 メートルの地
点において,住吉丸引船列は,原針路,原速力のまま,住吉丸の船首が英丸の右舷中央部に
後方から 65 度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力 1 の南東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期にあたり,視界は良好で
あった。
A受審人は,B指定海難関係人の大声で衝突に気付き,事後の措置に当たった。
また,英丸は,C受審人が 1 人で乗り組み,操業の目的で,船首 0.20 メートル船尾 1.00
メートルの喫水をもって,同日 06 時 15 分広島県福山港鞆地区を発し,06 時 30 分同地区南
東方沖合の漁場に至り,鼓型形象物を船尾のマストに掲げ,操業を開始した。
07 時 34 分C受審人は,玉津島灯台から 145.5 度 900 メートルの地点に差し掛かったとき,
揚網を開始し,針路を 154 度に定め,機関を回転数毎分 2,100 にかけて 3.0 ノットの速力で,
船尾甲板で左舷側を向いて立ち,ネットローラーへのワイヤーロープの巻き取り状況を見な
がら,左手で舵柄を操作して進行した。
定針したときC受審人は,右舷船首 87 度 1,100 メートルのところに住吉丸引船列を視認
したが,その後,ネットローラーへのワイヤーロープの巻き取り状況を見ることに気をとら
れ,同引船列の動静監視を十分に行わなかった。
07 時 37 分C受審人は,玉島灯台から 148 度 1,190 メートルの地点に達したとき,住吉丸
引船列の方位が変わらず 550 メートルとなり,同引船列と衝突のおそれのある態勢で接近す
る状況となったが,依然,動静監視不十分で,このことに気付かず,避航の気配を見せない
同引船列に対し避航を促す音響信号を行うことも,更に間近に接近しても機関を使用して行
きあしを止めるなど,衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航中,英丸は,原針
路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,住吉丸引船列は,住吉丸の船首部に擦過傷を生じ,英丸は,左舷側から転覆
し,のち廃船処分され,C受審人が 2 週間の入院加療を要する誤嚥性肺炎,低体温症及び頭
部打撲などを負った。
(航法の適用)
本件は,広島県仙酔島南方沖合において,航行中の動力船である住吉丸引船列と漁ろうに従
事していた英丸が衝突したもので,当該海域は海上交通安全法が適用される海域であるが,同法
に適用される航法規定がないので,海上衝突予防法第 18 条第 1 項によって律するのが相当であ
る。
(本件発生に至る事由)
1 住吉丸引船列
(1)
居眠り運航防止装置が設置されていなかったこと
(2)
A受審人が,B指定海難関係人に対して,居眠り運航の防止措置をとるよう十分に指示
しなかったこと
(3)
B指定海難関係人が,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこと
(4)
英丸の進路を避けなかったこと
2
英丸
(1)
汽笛を装備していなかったこと
(2)
ネットローラーへのワイヤーロープの巻き取り状況を見ることに気をとられ,動静監視
を十分に行わなかったこと
(3)
避航を促す音響信号を行わなかったこと
(4)
衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
(原因の考察)
本件は,住吉丸引船列が,居眠り運航防止措置を十分にとっていれば,B指定海難関係人が
A受審人に報告して船橋当直を交替し,居眠り運航に陥ることはなく,同受審人が,漁ろうに
従事中の英丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることが分かり,右転するなど同船の進
路を避けることができ,発生を回避できたものと認められる。
したがって,A受審人が,B指定海難関係人に対し,居眠り運航の防止措置をとるよう十分
に指示しなかったこと,及び同指定海難関係人が居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった
ことは,本件発生の原因となる。
住吉丸に,居眠り運航防止装置が設置されていなかったことは,本件発生に至る過程で関与
した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難
防止の観点から同装置の設置が望まれる。
一方,英丸が,動静監視を十分に行っていれば,住吉丸引船列と衝突のおそれのある態勢で
接近していることが分かり,避航の気配を見せない同船に対し避航を促す音響信号を行うこと
も,更に間近に接近したとき,機関を使用して行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力
動作をとることもでき,発生を回避できたものと認められる。
したがって,C受審人が,ネットローラーへのワイヤーロープの巻き取り状況を見ることに
気をとられ,動静監視が不十分となり,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための協
力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
英丸が汽笛設備を装備していなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,
本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から是正
されるべき事項である。
(海難の原因)
本件衝突は,広島県仙酔島南方沖合において,住吉丸引船列が東行中,居眠り運航の防止措
置が不十分で,漁ろうに従事している英丸の進路を避けなかったことによって発生したが,英
丸が,動静監視不十分で,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとら
なかったことも一因をなすものである。
住吉丸引船列の運航が適切でなかったのは,船長が当直者に対し,居眠り運航の防止措置を
とるよう十分に指示しなかったことと,当直者が,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかっ
たこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は,出港後,B指定海難関係人に船橋当直を行わせる場合,航行に支障のある他船
を認めたときや眠気を覚えたときには報告するよう指示すべき注意義務があった。ところが,
同受審人は,これまで同指定海難関係人を何度か船橋当直に就かせ,何事もなかったことから,
当直を任せても大丈夫と思い,航行に支障のある他船を認めたときや眠気を覚えたときには報
告するよう指示しなかった職務上の過失により,B指定海難関係人が眠気を覚えたときに報告
を得られず,同指定海難関係人が居眠りに陥り,英丸の進路を避けずに進行して衝突を招き,
住吉丸船首部に擦過傷を生じ,英丸は左舷側から転覆して,のち廃船処分され,佐藤受審人に
2 週間の入院加療を要する誤嚥性肺炎,低体温症及び頭部打撲などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第 4 条第 2 項の規定により,同法第 5 条第 1
項第 3 号を適用して同受審人を戒告する。
C受審人は,広島県仙酔島南方沖合において,漁ろうに従事中,右舷前方に東行する住吉丸
引船列を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,その動静監視を十分に行うべき
注意義務があった。ところが,同受審人は,ネットローラーへのワイヤーロープの巻き取り状
況を見ることに気をとられ,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同引船列と
衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,衝突を避けるための協力動作をとる
ことなく進行して衝突を招き,両船に前示の損傷等を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第 4 条第 2 項の規定により,同法第 5 条第 1
項第 3 号を適用して同受審人を戒告する。
B指定海難関係人が,広島県仙酔島南方沖合において,単独の船橋当直にあたって東行中,
眠気を覚えた際,A受審人にその旨を報告しなかったことは,本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては,勧告しないが,船橋当直を行う際,眠気を覚えたときには,
速やかに船長に報告するなど,安全運航に努めなければならない。
よって主文のとおり裁決する。
参
考
図