平成 16 年那審第 48 号 水上オートバイカイセイ 308 運航阻害事件(簡易) 言 渡 年 月 日 平成 17 年 5 月 26 日 審 判 庁 門司地方海難審判庁那覇支部(杉崎忠志) 理 事 官 上原 直 受 審 人 A 職 名 カイセイ 308 船長 操 縦 免 許 小型船舶操縦士 損 害 運航不能 原 因 船体の復元方法についての習熟不十分 裁 決 主 文 本件運航阻害は,水上オートバイを操縦するに当たり,船体の復元方法についての習熟が十 分でなかったことによって発生したものである。 受審人Aを戒告する。 裁決理由の要旨 (事 実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成 16 年 7 月 1 日 17 時 30 分 沖縄県国頭郡本部町水納島北方沖 2 船舶の要目 船 登 種 船 録 名 水上オートバイカイセイ 308 長 2.64 メートル 機 関 の 種 類 電気点火機関 出 力 73 キロワット 3 事実の経過 カイセイ 308(以下「カイセイ」という。 )は,B社がJT 900 B型として製造し,販売し た 3 人乗りのFRP製水上オートバイで,C社がマリンレジャー業者等に貸し出す目的で購入 し,平成 13 年 3 月に第 1 回定期検査を受けた。 カイセイは,船体の前部寄りにハンドルバー,同バーの後部に,いずれも鞍型(くらがた) の操縦者用の前部座席及び同乗者用の後部座席が設けられており,前部座席にまたがった操縦 者が進みたい方向に同バーを左方,または右方に操作すると,船尾にあるジェットポンプ推進 装置のジェットノズルがこれに連動し,同ノズル噴流の向きが変わることにより旋回するよう になっていた。 そして,カイセイは,前部座席の下方に位置する機関室内にJH 900 AE型と称する定格回 転数毎分 6,750 のセルモータ始動式の 2 サイクル 3 シリンダ電気点火機関(以下「エンジン」 という。)を装備し,エンジンの回転数を調整するスロットルレバーがハンドルバーの右グリ ップ根元部に,エンジン発停用スイッチが同バーの左グリップ根元部にそれぞれ設けられてい た。 ところで,カイセイは,船首備品入れ用ハッチカバー内の船体上方に,長径 104 ミリメート ル(以下「ミリ」という。 )短径 59 ミリの楕円形(だえんけい)の断面を有した機関室用吸気 口(以下「吸気口」という。 )及び後部座席後部の船体の両舷に,直径 56 ミリの同室用換気口 (以下「換気口」という。 )各 1 個をそれぞれ設け,吸気口からの空気がエンジンに供給される とともに,同室内の空気が換気口から大気に放出されるようになっていた。 また,機関室内のビルジは,航走時,ジェットポンプで加圧された海水がジェットノズルか ら船外に噴出される際に,同ノズル内に負圧が生じることから,同室の両舷にあるビルジだめ からビルジストレーナを経て同ノズル内まで内径 8 ミリのビルジ用ゴムホースを配管し,同負 圧により吸引されて海水の噴出とともに船外に排出されるようになっていた。 このため,カイセイは,船体を転覆したままにすると,機関室内の空気がビルジ用ゴムホー スを通って水面上となったジェットノズルから大気に逃げるとともに,水面下となった吸気口 及び換気口などから海水が同室に浸入するおそれがあった。 A受審人は,インターネット支援サービス等を業務とし,D社の沖縄観光事業部(以下「事 業部」という。 )に,平成 16 年 4 月臨時職員として入社し,沖縄県国頭郡本部町瀬底島瀬底ビ ーチ(以下「瀬底ビーチ」という。 )において,ビーチスタッフとしてマリンレジャーの業務 に就いた。 そして,A受審人は,水上オートバイの操縦に興味があったので,同年 5 月に特殊小型船舶 操縦士免許を取得し,事業部所有の 3 人乗り同オートバイ 2 台とC社から借り受けたカイセイ を操縦して,バナナボートの曳航及び同オートバイの後部座席に観光客を乗せてさんご礁周辺 の遊覧航走などの業務に当たることとなった。 しかし,A受審人は,これまで水上オートバイを操縦した経験がなかったことから,発航前 の点検として,ジェットノズル及びジェットポンプ海水吸入口の異常の有無,ドレンプラグの 取付け状態並びに燃料油・潤滑油の油量などを点検することのほか,救命胴衣及び小型船舶用 信号紅炎などの格納状態を確認することなどを事業部の上司(以下「上司」という。 )から指 示され,また,低速航走時及びエンジン停止時においては,船体のバランスが不安定となって 転覆しやすいこと,及び船体を転覆したままにすると機関室内に多量の海水が浸入してエンジ ンが始動不能となるおそれがあることも上司から指導された。 このため,A受審人は,水上オートバイが転覆した際に船体を復元できるよう,上司の指導 の下で,波浪の影響を受けない海岸近くで,数回,同オートバイを転覆させて船体の復元方法 についての訓練を受けた。 その後,A受審人は,水上オートバイの操縦に当たっていたが,上司の指導の下で,船体の 復元方法についての訓練を受けたとき,容易に船体を復元することができたので大丈夫と思 い,波浪などの影響を受ける水面で転覆した際にも,すばやく,かつ確実に船体を復元するこ とができるよう,繰り返し練習するなどして,船体の復元方法を十分に習熟することなく,後 部座席に観光客を乗せて遊覧航走などを行っていた。 カイセイは,救命胴衣を着用したA受審人が船長として前部座席にまたがり,後部座席に同 胴衣を着用した知人 2 人を同乗させ,さんご礁帯の遊覧航走の目的で,船首尾とも 0.1 メート ルの喫水をもって,同年 7 月 1 日 17 時 10 分瀬底ビーチを発し,毎時約 40 キロメートルの対 地速力で沖縄県国頭郡本部町水納島北方に広がるさんご礁帯の東端に至り,同速力を毎時約 3 キロメートルに減じて船首を西方に向け,同礁帯の外縁に沿って航走中,同受審人が,エンジ ンの作動音が変調したことに気付き,ジェットポンプ海水吸入口に異物が付着したものと考え てエンジンを停止した。 こうして,A受審人は,潜水してジェットポンプの海水吸入口を調査しようと身体を左舷側 に向けたとき船体のバランスが崩れ,カイセイが左舷側に大きく傾いて転覆し,同乗してい た知人 2 人とともに水面に投げ出されたのち,水面に浮上しながら船体を復元しようと努めた ものの,波浪の影響もあってなかなかこれが果たせず,しばらくして船体を復元し終えて始動 スイッチを繰り返し操作したが,機関室に多量の海水が浸入したためエンジンが始動不能とな り,17 時 30 分水納島灯台から真方位 349 度 1,000 メートルの地点において,運航不能と判断 した。 当時,天候は晴で風力 3 の南風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,海上には少し波浪があっ た。 A受審人は,同乗していた知人 2 人が水泳に堪能であり,水納島の北側海岸までさほどの距 離がなかったので,船首備品入れに格納していたシュノーケル 2 個を同 2 人に着用させ,泳い で水納島に帰るよう指示したのち,カイセイを自力で同島の水納港まで帰港させようと努めた ものの,折からの潮流によりカイセイとともに西方に流されることから,危険を感じて携帯電 話で海上保安庁に救助を要請した。 その結果,カイセイは,来援した巡視艇により水納港に引き付けられ,のち海水が浸入して 始動不能となったエンジンが修理された。 (原 因) 本件運航阻害は,水上オートバイを操縦するに当たり,船体の復元方法についての習熟が不 十分で,バランスを崩して転覆し,船体の復元に手間取り,多量の海水が機関室に浸入してエ ンジンが始動不能となったことによって発生したものである。 (受審人の所為) A受審人は,水上オートバイを操縦する場合,船体の復元に手間取ると,多量の海水が機関 室に浸入するおそれがあるから,すばやく,かつ確実に船体を復元することができるよう,繰 り返し練習するなどして,船体の復元方法について十分に習熟すべき注意義務があった。しか しながら,同人は,上司の指導の下で,船体の復元方法についての訓練を受けたとき,容易に 船体を復元することができたので大丈夫と思い,船体の復元方法について十分に習熟していな かった職務上の過失により,水納島北方に広がるさんご礁帯の遊覧航走中,作動音が変調した エンジンを止めてジェットポンプ海水吸入口を調査しようとしたとき,バランスが崩れて転覆 し,船体の復元に手間取り,多量の海水が機関室に浸入してエンジンが始動不能となる事態を 招き,運航が阻害されるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第 4 条第 2 項の規定により,同法第 5 条第 1 項第 3 号を適用して同人を戒告する。
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