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保育園でのプラネタリウムの記憶
富田晃彦(和歌山大学教育学部)
天文教育普及研究会 近畿支部集会 於 和歌山大学・クリエ
2010年1月23日(土)
問題意識
幼児段階で「星」の話??
理科教育や幼児教育の研究者(現場外から)の関心は、
あまり高くない(ように見える)。
現場では、どうとらえているのか?
本当に、「星」(天文)は使いにくく、不人気なネタなのか?
結論
アンケート調査をした
そんなことはない。現場では人気である(ようだ)。現場での活動の
基盤になっているのは、保育者の小さい頃の「星」の体験らしい。
だから、私たちは、
小さい子こどもに、宇宙の話を、もっと自信を持って語ろう。
理科、幼児教育の研究者に「星」が目立たないようだ、という根拠(らしいもの)
学会誌に、(幼児.and.星)の論文は少ない。
理科教育学研究(2007年以降) 94編中、(幼児.and.自然環境)は2編、天文なし
科学教育研究(2006年中盤以降) 122編中、 (幼児.and.自然環境)は1編、天文なし
地学教育(2007年以降) 51編中、 (幼児.and.自然環境)は1編、天文なし
保育学研究(2007年以降) 55編中、 (幼児.and.自然環境)は3編、天文なし
天文は幼児には難しい分野と議論されることがある。
例:日本理科教育学会第58回全国大会、2008年9月、福井大学、
課題研究9:幼年期の豊かな科学的探究を育む保育・授業実践
「8歳までに経験しておきたい科学」(北大路書房)での題材では:
植物、動物、ヒトの体、空気、水、天気、岩石と鉱物、磁石、重力の働き、簡単な機械、音、光、環境
保育学会大会での「自然物」の好み分布
2007年 砂・土3、里山3、生き物5
2008年 砂・土3、生き物2、天文2
2009年 砂・土3、生き物5、数量1、天気1、天文3
他に、栄養(食育)、音(音楽)、描画(造形表現)が多数
それ以前に:「子どもに星の話なんて、無茶だし、かわいそうだよ。」(保育現場の外から)
(to Tomita, private communication 2009)
幼児を対象に、「星」ネタを提供している者(同じく保育現場の外)からの意見
子どもには、楽しく、いろいろな環境を認識してほしい。
天文(空、星)は、その優れた対象の一つ。
ただし、その活動のための状況を、うまく作らないといけない。
一方、現場ではどうか?
保育現場から
中国・四国支部で活躍の、園部みゆきさんの例(福岡・大濠聖母幼稚園)
保育学会大会で紹介された実践例(横浜・銀嶺幼稚園、岡山・白ゆり保育園)
保育現場に足を運ぶ者から
臼田-佐藤功美子さんの、ハワイでの実践例(Kaumana Keikiland, Hilo)
保育者養成での学生の意見
保育学会大会2006年度、照屋健太氏(沖縄キリスト教短大)の報告
保育科の学生にアンケート:
「今後どのような自然観察会があるとよいでしょうか」に対し、
「大半の学生が『星空観察』であった」
現場では「星」(天文)は、よく使われているネタではないか?
アンケート調査のきっかけ
2009年7月24-26日、大阪合研(全国保育運動団体合同研究発表会大阪大会、参加者1.3万人)
7月25日に開かれた分科会(分科会は45立った)「3・4・5歳児のあそびと生活B」
そこで「盛岡で、プラネタリウムに行って、一年間園児が盛り上がった」という話
座長(幼児教育を専門とする大学教員が務められた)
「そんなに、プラネタリウムや星は印象的なのか、驚きだ。」
分科会会場にいた40人の参加者(全員発言、ほぼ全員保育園か幼稚園勤務の保育者)から、
「うちの園でもやっている、星はいいネタだ、自分の子どもの頃の経験がもとになっている」
と発言。座長は、なお驚いた。富田も驚いた。
ではもうちょっと系統的に聞いてみよう。
大阪保育問題研究会に相談し、アンケート実施。
アンケート(2009年11-12月に実施)
大阪保育運動連絡会が発行している「大阪の保育運動(年刊)」付録の、大阪府
の保育所一覧名簿(2008年)から、大阪市内にあり、4歳児以上の保育をしている
(中には3歳児までの保育というところがある、プラネタリウム訪問といった経験は4歳児以上でよく行われ
るだろうと考えたため)334園に、以下のアンケートをお願いした。
1.園でプラネタリウムや星を見る会などを取り入れられていますか?
2.その後、園児さんの遊びなどにどんな展開がありましたか?
3.このような活動支援に、保育者の星に関する経験がもとになっていますか?
24園から文書で、1園(私の子が世話になっている園)からは口頭で、1園からは
電話でお返事を頂いた。
1割に満たない回収率だが、保育園へのアンケート調査としては、一般論として悪
くない回収数らしい(私の子がお世話になっている園の園長先生より)。
お返事下さった園へ、お礼状を兼ねて連絡した集計速報
1. 星に関する催しを取り入れていらっしゃった園は、24園中、21園で
した。その21園全てで、プラネタリウム見学が含まれていました。
2. その後の展開例として、制作の内容に工夫が出たとお答え下さっ
たのが14園、子どもが星の図鑑をよく見るようになったとお答え下
さったのが7園、子どもが空を見上げる機会が増えたとお答え下
さったのが4園でした。
3. 担当の先生方のご経験で、このような活動支援に影響のあったも
のがございましたかという質問に対し、半数の園からご返答を頂
きました。8園から、本物の星空を見た経験、5園からプラネタリウ
ムや科学館の訪問経験と、お答えを頂きました。
プラネタリウムに行く機会が多いのは、科学館が充実している都市部ならで
はのことでしょう。一方、先生方の多くは「本物」の星空の感動をお持ちです。
都心部ではあまり星が見えないとお嘆きの方が多くいらっしゃいます。しかし、
星は案外見えています。保育園からの遅めのお帰りの時、星の勘定をする
のもいいかもしれません。もちろん満天の星空とはいきません。少し郊外に
行けば、かなりの星空が待ってくれています。本物に触れての感動を知って
いれば、プラネタリウムでの遊び直しは、本当に楽しいものになるのでしょう。
プラネタリウムに限らず、星の話題を出す一番の機会は七夕とお月見ですね。
七夕は、夜空への関心だけでなく、物語の世界、制作の工夫へのよい入り口
で、たくさんの園から実践例をお聞かせいただきました。
制作遊びでプラネタリウムを模したものを創っておられるところもいくつかあり
ました。作ってみると、仕上がりがいまひとつでも、結構きれいに見えるもの
ですよね。星といえば絵や工作だけでなく、うたと関係づけていらっしゃるとこ
ろもありました。月の模様で「だまし絵」を楽しんでいらっしゃる園もありました。
まとめ
回収率・数が低く、この集計をもって一般的結論を出すのは慎重になった方がいい。
保育現場での自然環境の扱いの多様性、その中での「星」の存在感について、
調査を続けないといけない。
とはいえ、保育現場外から考えているよりも、保育現場内では「星」(天文)を楽しく
扱っていることが、アンケート前の時よりも強く予想される。どんなことでもそうだが、
保育者の(それとない)働きかけが、その活動の重要な環境になっているはずだ。
その働きかけは、保育者自身の「星の体験」が基礎になっている。
その体験は、幼児期でのものが多い。
また、 「星」をやらないといけないからやる、「星」がいいと言われたからやる、ではない。
「星」はいい素材であるから、である。
「子どもに星の話なんて、無茶だし、かわいそうだよ。」
いや、現場の保育者は、環境整備力という専門性をいかし、
子どもに楽しく「星」の世界を紹介している(例が多いようだ)。
その子が大人になれば、また、優れた星空の案内人になるだろう。