第2回 2009年4月14日 竹内 幹 一橋大学大学院経済学研究科 経済学で一番はじめにならったのは…? 需要曲線と供給曲線、均衡価格。 供給 S(p) 均衡価格 p* 需要 D(p) しかし、 1. 需要・供給曲線なんてみたことがない。 2.均衡価格にいたるメカニズムもわからない。 財Xの潜在的買い手(需要側)は、 「支払ってもよいと思う最高額(value)」を 私的情報としてもっている。 その value は人によって異なる。 財Xの売り手(供給側)は、「仕入れ値 reservation price」を私的情報としてもっている。 その reservation price は人によって異なる。 Value よりも高い金額を払って買うことは絶対にない。 Reservation price よりも低い値段で売ることは 絶対にしない。 潜在的買い手(需要側)が6人。 「支払ってもよいと思う最高額(value)」はそれぞれ 500, 200, 250, 300, 600, 450. 売り手(供給側)は5人。 「仕入れ値 reservation price」はそれぞれ 200, 500, 100, 400, 300. 問: 需要・供給曲線を描き、均衡価格を求めよ。 「支払ってもよいと思う最高額(value)」 600, 500, 450, 300, 250, 200. 「仕入れ値 reservation price」はそれぞれ 100, 200, 300, 400, 500. 価格 600 500 400 300 200 100 1 2 3 4 5 6 数量 均衡価格=需要と供給がつりあう(均衡する)価格 誰がそれを決めるのか? 完全競争であれば、買い手も売り手もプライス・テー カーであるから、価格の形成には一切影響力を持た ないはず。 実際には存在しない仲介人が均衡価格をさがしだし てくれる、という仮定。 “ワルラス競売人(Walrasian auctioneer)” 取引の社会的利益(余剰)は? 買い手の利益 = 支払ってもよい最高額 - 取引価格。 売り手の利益 = 取引価格 - 仕入れ値。 取引の社会的利益 = 買い手の利益 + 売り手の利益 = 支払ってもよい最高額 - 仕入れ値。 買い手、「支払ってもよいと思う最高額(value)」は 500, 200, 250, 300, 600, 450. 売り手、「仕入れ値 reservation price」は 200, 500, 100, 400, 300. 効率性を達成するために重要なのは… どの買い手とどの売り手がペアとなって取引をするか、 いくらで取引するか、 ではなくて! どの買い手・売り手が実際に取引するか、である! 上の例だと、下線をひいた買い手・売り手が取引 していればよい。取引価格や相手は無関係。 買い手、 500, 200, 250, 300, 600, 450. 売り手、 200, 500, 100, 400, 300. 取引の利益=支払ってもよい額 - 仕入れ値 どの買い手・売り手がペアになったとしても… 取引の利益の総和は同じはず。 たとえば、上の例で、下線をひいた人たちが 左から順にペアとなって取引をするとき、 (500 – 200) + (600-100) + (450-300)。 =(500 + 600 + 450) – (200 + 100 + 300). = 支払ってもよい額の合計 - 仕入れ値の合計。 買い手、 500, 200, 250, 300, 600, 450. 売り手、 200, 500, 100, 400, 300. 取引の利益の総和 = 支払ってもよい額の合計 - 仕入れ値の合計。 ここで、もし 買い手300の人が、売り手100から買っ てしまうと…? 買い手600の人があぶれてしまう。 取引の利益の総和 =(500 + 300 + 450) – (200 + 100 + 300). 買い手、 500, 200, 250, 300, 600, 450. 売り手、 200, 500, 100, 400, 300. 取引の利益の総和 = 支払ってもよい額の合計 - 仕入れ値の合計。 ここで、もし 売り手400の人が、買い手600に売って しまうと…? 売り手100の人があぶれてしまう。 取引の利益の総和 =(500 + 600 + 450) – (200 + 400 + 300). 効率性の観点からいえば、「取引に参加すべ き買い手や売り手」以外の人が取引してしまう と、余剰が低下する。 その原因は、均衡価格よりも高い値段か低い 値段で取引してしまう売り手・買い手のペアが いるから。 「ワルラスの競売人」がいない状況では、どの ように価格は決定されていくのだろうか? 実は、理論的によく説明されていないプロセス 。 擬似的な市場をつくってみよう。 一橋大学2008年12月16日の教室実験。 売り手役 18人 と 買い手役 19人 売り手は2個まで売ることができる。 買い手は2個まで買うことができる。 取引(売買)ができなければ、利益ゼロ。 売り手の「仕入れ値」は30~80までの値をラ ンダムに割り振る。一人の売り手に2つの値。 同じ仕入れ値とはかぎらない。 買い手の「支払ってもよい最高額」は35~75。 買い手の「支払ってもよい最高額」は35~75。 これも一人の買い手につき、2つの値をランダムに割 り振る。 例: 各自(買い手も売り手も)、自分の値以外はなにも知ら されていない。仕入れ値が30~80、支払ってもよい 最高額が35~75となっていることも知らない。 需要曲線・供給曲線がどのようになるか、どこに位置 しているのか、まったくわからない。 あなたは 売り手 です。 1個目の仕入れ値 = 44 , 2個目の仕入れ値 = 59 . 80 75 70 65 60 均衡価格 60 取引量 18 55 50 45 40 35 30 0 5 10 15 20 25 30 35 40 インセンティブ:参加者がえた取引の利益を期末試験 の点数に変換。利益の最大値が最終成績の5%に相 当するように換算。 37人全員が、教室の中央に集まって、買い手・売り手 を探して、値段交渉をしていく。イス・机が移動式の教 室を使用したので、真ん中にオープンスペース。 取引成立するたびに、成立価格を教室前方のボード に書いていく。市場参加者はそれをみることができる。 結果、全部で21個が取引された。(均衡で18個) 取引価格の平均値は 59.48 であり、均衡価格60に きわめてちかい。 51未満 51~53未満 53~55未満 55~57未満 57~59未満 59~61未満 61~63未満 63~65未満 65~67未満 67~69未満 69~71未満 71~ 0 1 2 3 4 5 6 ワルラスの競売人はいなくても、買い手・売り手が一か 所で「わいわい、がやがや」と集まっていれば、取引価 格は均衡点のちかくに落ち着く。 経済学の市場モデル(需要・供給曲線の図)は、 抽象的ではあるが、かなり本質をついている。 取引費用・情報格差をさげれば、 均衡価格がすぐにわかる。 均衡価格で取引がなされていれば、効率的になる i.e., 取引の社会的利益(余剰)が最大化される。 市場実験では、取引量は均衡よりも多くなりがちだ。 理由を、以下の例題で確認しよう。 value 仕入れ値 買い手1: 100 売り手1: 30 買い手2: 100 売り手2: 30 買い手3: 40 売り手3: 80 買い手4: 40 売り手4: 80 ランダムに買い手と売り手をマッチングさせて、 買い手のvalue > 売り手の仕入れ値 となれば、売買成立とする。平均的な取引数量は? 前のスライドでみてきた市場実験を何度も繰り返すと どうなるか? “ノコギリ刃(sawtooth)”の調整過程が観察される。 均衡価格 均衡価格 第1回 第2回 第3回 Michael R. Alton and Charles R. Plott, “THE DYNAMICS OF PRICE DISCOVERY IN MARKETS WITH RANDOM SHOCKS”, May 2008. “Market Jaws”の方向が価格のうごきを予測する。 買い注文(bid)と売り注文(ask)をならべる。 たとえば、リアルタイムで市場に次の売買注文がある。 買い 売り 価格 数量 価格 数量 112 4 120 2 109 2 115 3 104 1 114 6 99 2 価格113あたりで取引が成立しそうだ。 “Market Jaws”の方向が価格のうごきを予測する。 売り 価格 数量 118 2 115 3 114 6 買い 価格 数量 112 4 109 2 104 1 99 2 118 115 114 112 109 104 ある人が市場実験の結果をみて、 「これは均衡価格にちかづいたんじゃなくて、単に value と 仕入れ値の平均値にちかくなっているだけだ よ。需要・供給曲線の交点の近くで取引がされているよ うにみえるのは、たまたまだ。」 といったとしましょう。 これに対し、実験をすることで反論を試みたい。 つぎのような実験(2つの市場環境)をデザインしよう。 Value と 仕入れ値の平均は同じなのだけど、均衡価格 はちがう2つの市場環境(需要・供給曲線を2組)つくっ てみよう。
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